第二十四話『ツンデレの感情』

 僕は理恵を軽く離し、もう一度抱きしめて言う。


「理恵、改めていうことがある。」

「は、はい!」


 僕の真剣な表情に理恵はびくりと体を震わせた。


「僕は中学校の卒業式の時にあなたに告白されて、正直、あなたのことは好きではなかった。というよりも何かの罰ゲームかと思っていました。それで、見返してやろうと思ってOKをしました。」

「そう…そうだったのね。道理でみんなの態度がおかしかったわけね。晴馬はそんなことでよかったの?」

「ああ、その時はな。」


 何かを感じ取ったというような表情を理恵はした。

 こいつも薄々気づいてはいたのか…。

 でも、僕が言いたいのはそういう事じゃない。


「でも、高校生になって再度、自分の気持ちにきちんと向き合いました。すごい、遅いけど感情を半分無くした僕にとっては充分な時間が必要だった。」

「感情を半分って…。」


 そう、僕は遥を失ったことで感情に支配されることはなかった。

 それでいて、自分では全部封印して二度と出てこないようにしていたけど、やっぱり捨てきることはできなかった。

 というよりも久々の恥ずかしさで死んでしまいそうだわ…ここからのセリフめちゃくちゃ恥ずかしい。

 だけど…でも、言うしかない。


 僕は勇気を振り絞って続きの言葉を言った。


「理恵、今からの質問に、yesかはい。で答えてくれ。僕はあなたの事が好きです。だからこれからも僕の彼女でいてくれますか?」


 その時に見せた理恵の笑顔は僕の記憶の中に絶対に忘れることはないだろう。


「何を言っているのよ。もちろん、はいもyesも同じに決まっているじゃない。私もあなたの事が好きです。罰ゲームとかそういうのは関係なく。だから、これからも私の事を好きでいてください。私があなたの事を好きでいるくらいに…。あの時、私を救ってくれたヒーローは晴馬。あなただよ。」


 そして僕たちは初めてお互いの愛を感じ、初めて唇を重ねたのであった。

 学校の屋上だったが、周りに人がいなかったことが唯一の救いと言ったら救いであるくらいに。


 帰り道、僕と理恵は珍しく二人で帰る。

 美奈子は図書委員会の仕事があると言い、特別に委員会に属さない僕たちは先に帰ることになった。

 その最中、理恵が僕に聞く。


「晴馬、聞いちゃいけないかもだけど、この前は何があったの?そりゃ、私が泣いていたのが悪いわよ。でも、晴馬の顔色がお昼後から物凄く悪かったから心配になっちゃった。私も軽くは悪いと思っているけど晴馬のほうがひどいわ。」

「…言わなきゃダメか?」


 僕は…僕は…くそっ、言わなきゃいけないのか…。

 でも、そうなってしまうと…。

 僕は最悪の結末を頭の中で予想して頑なに首を横に振り、開きかけた口を閉じた。

 そして、それ見た理恵が言う。


「ま、言いたくないならいいわ。」

「そうか、ありがとう。でも悪い、こればっかりは教えることが出来ない。理恵や美奈子に迷惑がかかるような出来事じゃない。これだけは言いきれる。」


 僕の言葉を聞いた理恵は「んー。」と言って伸びをし、よしよしと僕の頭を撫でた。

 な、何をしている、ドキドキするじゃないか。


「よく…頑張ったね。」


 その言葉はかつて親にされたように僕は懐かしく感じた。

 そして、理恵は続けて言う。


「わかった。私は晴馬の言葉を信じるから…約束して…もう二度と一人で抱え込んじゃダメだよ。私はあなたの彼氏なのだから…。それと、簡単に思い出を忘れるとかいわない!何であれ、私と晴馬が出会ったのはあの中学なのを忘れないで。」

「ああ、約束する。二度とこんなことはしない。」


「晴馬。」

「うん?」


 僕が答えると理恵は僕より少し先に行き、振り向くと。


「行っくよ!」

「ちょっ、マジか。」


 全速力で僕のほうへと近づき、続きの言葉を言う。


「だーい好きっ!」


 その言葉と同時に理恵を受け止める僕。

 やれやれ、しょうがない奴だ。

 君たちも確認できただろう。

 これがツンデレの癒しである。


「全く…。僕も大好きだよ。」

「にへへっ。」

「さてと、ラブラブするのはあとにして帰るか。」

「うんっ。」


 おそらく、家についてからでも理恵は僕とイチャイチャするだろう。

 やれやれ、困ったやつだ。

 だが、これで…良かったのだろうか…いつかは理恵にはきちんと説明しなくてはいけない事だったかもしれないけど、今の僕にそんな勇気はない。ということだけは確かである。

 いつか…本当に話せる時が来たら全部話して、すっきりしよう。

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