第二十二話『理奈の思い』

 僕がいろいろ考えている中、理奈もまた、一人で葛藤し続けていた。


 おそらく、私の考えていることと晴馬の考えていることが同じなら、物事はここまで難しくならなかったはず。

 それに加えて昨日の緋想さんが私に言ったこと。

 それらを調合すれば犯人が委員長であることは私も断定できた。

 それに委員長は女子なのだから、私にも気軽に話しかけられることはできたし、そのチャンスも存在していた。

 なぜもっと早く気付かなかったのだろう。

 いや、気づくことはできた。

 ただ、確証がなかったのだ。

 私自身人を疑うことができない。

 だからあの時も委員長の甘い言葉にホイホイとついていかれ、結果的に拉致監禁まで行く状態となってしまった。

 アレを引き起こしたのは委員長であるが、原因は私でもある。

 今、晴馬の精神状態は非常に不安定になっている。

 私は何をすれば晴馬がいつもの晴馬に戻るだろうか。

 普通に接するだけではダメだ。

 それはただの現状維持でしかない。

 何か…こう。何か…。変えられるようなものがあればすべて解決する。

 少なくとも私はそう願っている。

 晴馬が委員長に何を言われたのか、それは分からないけどあの人のことだ。

 何か嫌な予感がする。


 晴馬は言った。


『僕はみんながくれた情報をもとに、理解をしている。つまり、何もない状態では考えることも、動くことすらできない。』と。


 なら、あの時、晴馬の中には私と美奈子が拉致状態になっていることを知っていたの?一体、いつ?どこで?誰から聞いた?いや、そのどれでもないのならば。

 晴馬はたまたまあの場にいた私たちを助けたということになる…か。

 本当にそういうことなの?晴馬、あなたはそういう人なの?自分から群れるのは嫌っているし、友人を作ろうとしない。

 そんな一匹狼の晴馬がどうして?あの場に美奈子がいたから?でも、普段の晴馬は美奈子の要求も適当にあしらっている。

 そんな性格の持ち主なのかな?ああもう!分からないわよ!私は一体、何をすればいいの!?


 最初に晴馬にあったのはいつだっけ…。

 あの時、助けてくれたのは晴馬で間違いはないわ。

 だけど、晴馬はそのことを頭の中で消去しようとしている。

 それはすなわち、私との思い出を消そうとしている。

 晴馬にとってあの中学は嫌なところであり、逃げ出したい過去でもある。

 それは分かっている。

 だけど、そこまでする必要はあるのかしら?

 そう、最初に出会った頃の晴馬はどこか遠い眼をして、私たちとは違う考え方をして。いつも先頭に立って、誰も考えないような作戦を考え付いて、でも私たちには一向に心を開かない。

 うわべだけの存在。

 いつしか晴馬はそう呼ばれるようになったこともあったなぁ。

 その時期にあの事件があった。

 救ってくれた時に晴馬は言った。

『よく…頑張った。ここからは僕に任せて。』と。

 それで、一人で事件を解決することができた。

 つまり、あの事件も晴馬にとってはうわべだけのことなの?どういうことなの?

 これは確かめる必要があるわね。


 理奈は一人、考え付いたようにして僕のほうへと視線を向けた。

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