第三十三話『僕は…ボクのために』

 うーん。ハッ…。

 僕はどうしてこうなっている?それに何も見えないし、動かない。

 気が付けば、僕は視覚と口をふさがれていて、手足を縛られている状態になっている。

 ということが多少なりとも理解できる。


「もごもご!!もごもごもごもご!!(美奈子!!どうなっているんだ!!)」

「晴馬くん、もう少しだけ眠っていてくれると思ったけどやっぱり効き目は薄いか。市販で買った睡眠薬だと効き目が人によって違うと聞いたけどやっぱり男性のほうが、効き目がいいのかな。」


 美奈子の声が聞こえる、くそっ、何も見えねぇし、動けねぇ…。

 それに今、睡眠薬って言ったのか?なんでこんなマネを…。


「もごもご!(やめろ!!)」

「もう少し…もう少しで…ボクが晴馬くんの全部を…」

「もご――(やめろ――)」


 やばい、やばい、やばい、やばい。どうする?どうする?このままだと僕が大変なことになってしまう。

 理奈!優実!エミリー!誰でもいい、助けてくれ!


 誰も助けに来ないさ。

 ふと、心の中でそう問いが聞こえたような気がした。

 僕は叫ぶのをやめ、改めて自分の中にある感情に向き合った。


「晴馬くん?」


 こうなったのはお前が感情的になったのが悪い。

 俺を全面的に出してしまったせいでこうなってしまった。

 その罪の意識と背徳感をお前は分かっていない。

 全部、僕自身が感情的になったのが悪いって言うのか?

 そうだ。

 お前が感情を前面に出したおかけでお前の彼女、釘瀬理奈はツンを無くしてしまい、ただの甘えたい彼女になってしまった。

 お前が感情を前面に出したせいでお前の幼馴染み、白井美奈子はデレが無くなってしまい、ただのメンヘラになってしまった。この事態をどうする気だ?感情を持たない憑依体よ。


 ……僕は…これが運命なら受け入れる。

 そうすることが今この状況においてもっともの最善策だと思う。

 ハッ、お似合いだ。所詮は憑依体。何も知らない。

 なんだと!?

 いいか、感情を持つということは今まで見せていた相手の喜怒哀楽すべて奪うことになる。

 俺たち人間っていうのは所詮、そんな生き物なのだよ。俺も含めてだけどな。

 だったら、何をするのが得策なのかお前は分かっているのか?

 簡単なことだ。俺を封じ込めればいい。

 お前が感情を取り出したせいでこうなってしまった。だったら原因を取り除けば、元に戻るだろうな。

 そんなことをしていいのか?いや、そもそもできるのか?

 しらん。これを決めるのはお前自身なのだからな。

 それと、運命って言っていたな。

 う、うん。

 俺には正直、よく分からないがツンデレとヤンデレを一緒の空間に入れるとこうなることがお前らにもよくわかっただろう。

 これも運命なのだ。最初からの。

 そっか…分かったよ。それじゃあ、良いんだね。

 好きにしろ。少しの間だけだが楽しかったぜ。


 そういうと、感情体は僕の前からいなくなった。

 おそらく、体が感情を封印しているところだろう。

 さて、そろそろ、戻らないといけない。今、心の中を維持できているのは僕だけなんだから。

 そうして、意識が僕の元へと戻ってくる。


 さて、この状況をどうするべきなのか。

 もうすでに答えは出ているかもしれないけど、僕にとっては長い道のりだったのかもしれない。

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