第十九話『原因』

 委員長は最初、僕から目を背けていたが、僕に指をさされた時から僕のほうを見るようになった。


「……根拠は?」

「ああ、あるとも。っと、その前に謎はたくさんあるからそれを整理しようか。」


 僕は自分の筆箱の中から筆記用具を取り出すとそれを問いとして委員長へ問いかけた。

 消しゴムを置きながら僕は言う。


「一つ、昨日のあんたの行動がおかしかった。というよりも不自然すぎた。朝から何かを企んでいるような態度をとっていた。それはなぜか。」

「知らないわよ。それは石倉くんの考えすぎじゃないの?」


 ふむ…まあ、そう答えるよな。

 これは分かり切っていることだ。

 僕はシャープペンシルを机の上に置き、問う。


「二つ、学校を休みがちな緋想さんがなぜ、昨日になって登校するようになったのか。」

「それも知らないわよ。緋想さんが来たのは来たかったからじゃないの?」


 なるほど、そう答えるのか。

 まあ、急に学校に来るようになったのは別にどうでも良いと思っているから委員長の言い分を否定するつもりはない。

 僕は二本目のシャープペンシルを転がして問う。


「三つ、僕らに関係ない緋想さんがなぜ急に関係を聞くようになったのか。」

「だから、さっきも言ったでしょ?そんなのは緋想さんの気まぐれに過ぎないって。石倉くんもそういっていたじゃない。」


 まぁ、そうだろうな。

 でも、気まぐれにしては大きすぎるし大胆な気まぐれだけどな。

 とりあえず、ここまでは予定調和。

 勝負はここからだ。

 僕はハサミを机の上に置くと、委員長へ問う。


「四つ、なぜ昨日理奈が泣いているときにあんたはあの場にいなかったのか。」

「それは、トイレにいっていたのよ。」

「でも、トイレに行くにしては長かったよな。五分くらいで帰ってくるのかと思ったがあんたは全然来なかった。それどころか、すべてのことが終わってからひょっこりと出てきたように見える。と捉えられてもおかしくない態度だった。」


 僕はそういいながら、五つ目の問いを委員長へ問いかける。


「五つ、なぜ今朝、僕の頬を見て、叩かれたと認識できた?見ていなかったあんたが。普通、心配はしても叩かれたと認識できるのは昨日の光景を見ていた人たちならともかく、あんたはいなかった。ここが大きな矛盾点だ。」

「……」


 もう、問いかけるものはないが、あまりにも十分すぎる証拠だ。

 これ以上、追い詰める必要はなさそうだな。


「委員長、僕は謎を解いていく探偵でもなければ警察でもない。だから、教えてくれないか。なんであんなことをしたのか。それで、納得するならば僕は怒らないし、今回のことも水に流す。だから、聞かせてくれ。君に何があったんだい?」

「………嫌だった。」


 委員長はそういうと、僕たちに語り始めた。


「石倉くんを取られるのが嫌だったの。」

「……あんた…まさか。」


 理奈が委員長へ聞く。

 委員長は首を縦に振って言う。


「私ね、あなたたち、特に理奈ちゃんと美奈子ちゃんには謝らないといけないの。」

「え?ボクも?」

「うん。覚えてないかな。中学の時、君たちを拉致したことを。」


 !!


 その言葉で教室内は凍り付いた。

 理奈は顔を真っ青にしてガクガクとふるえている。

 美奈子は変わらない笑みを浮かべているが目が笑っていなかった。


「理奈…大丈夫か?」

「…あんたが主だったの?」

「フフッ、そう。あの時、あなたたちを拉致監禁し、警察沙汰にしたのも私、あなたたちをとらえるように指示を出したのも私、すべて私の計画の中だったのよ。すべてうまくいっていた。なのに…なのにっ!!」


 委員長は僕を指さすとキッとした目で言う。


「あんたが全部壊したのよ!石倉晴馬!!あんたがっ!あんたが一人で解決して、二人を救って。それで今は被害者の一人と付き合っている。それが許せないのよ!!」

「……やれやれ、理由を聞いてみたら、なんだ。そんなこと・・・・・か。」


 僕はため息交じりに言う。

 そんなこと。

 理由はどうであれ、今の僕にとってはどうでも良いことなのだから。


「それが許せないとして、委員長。今のあんたに何ができる?理奈や美奈子は許せないかもしれない。被害者は一番覚えているのだから。美奈子、視線が強いから少し抑えてくれ。」

「…んー、そんなに強い?」

「ああ、少なくとも僕の背中が痛いんだ。それなりに強いぞ。」


 ぶっちゃけ言うと、蛇に睨まれた蛙状態だ。

 だから、僕は美奈子を怒らせるようなことはしなくなかった。

 委員長はそんな美奈子の視線にガクガク足を震わせている。


「分かった。じゃあ、委員長に一言だけ言わせて。」

「どーぞ。」


 美奈子は震えている委員長へ歩み出るとフッ、と笑い、一言だけ言う。

 それでも、本当に強い、過去を掘り返すような一言だった。


「ね?これで分かっただろう?君がいかに努力してもボクたちには追い付けない。ということがさ。」


 そういえば、美奈子は人を追い詰めるのが大好きなドSな奴だったなぁ。と思ってしまった。

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