第三話『パエリア』
お風呂に入るとか入らないとか言っていた日から一夜明けた翌日。
僕、理奈、美奈子の三人は無事、高校の入学式に参加していた。
ついでに言うと僕の親は来ていない。
その理由は、昨日、理奈と美奈子を帰した後、僕のケータイに二人がインドにいるという連絡を受けたからだ。
やれやれ、将来の仕事にジャーナリストだけは勘弁してほしいと思ったね。
「えー、ただいまより、美吉野高等学校普通科入学式を挙行したします。」
僕たちが入ったのは
私立の高校で僕の県で唯一、国からの全面的協力の元、学校を作っていることで誇っている学校だ。
成績が優秀な奴は入学金全額免除とかいう制度も設けているほどの金持ち高校である。
まぁ、その代わり、頭のいい奴しか入学することできないけどな。
そんな入学者の中には、高校の恋愛がどうたらこうたらとか。
また、勉学できる者は学力がどうたらこうたらとか。
そんな中、小中とボッチな僕が掲げた目標は『とりあえず、一人でいる。』ということだ。
高校生活でも十分なボッチを過ごしたい僕はなるべく、迷惑な行動に首を突っ込まないようにしたい。
まぁ、おそらく理奈と美奈子のせいでそれは叶わない事になるかもだけど。
それでも、極力変なことには突っ込まないようにしよう。
「それでは、続きましてクラス担任紹介。」
基本的な高校では担任制があり、各学級一人、担任の先生と呼ばれる人がクラスを仕切る。
それはこの学校でも例外ではない。
まあ、僕はそういうのは面倒だから適当にあしらっておけばいい。
そんなこんなで、入学式も無事終わり、各自生徒はそれぞれ配属されたクラスの方へと案内された。
ちなみに僕も理奈も美奈子もみんな揃って1ー2のクラスの一員だ。
正直、あのバケモノ=美奈子と同じクラスになるのは御免だったが…。
いささか入学試験の学力で決まるらしく、しかたなくこうなった。
ちなみに、バケモノ=美奈子の定義を作ったのは僕じゃない。これだけは断言できる。
「ほいじゃ、今日から私がこのクラスの担任を務めさせていただきます。
先生の言葉で教室が静寂に包まれた。
出席番号一番の人がおずおずと自己紹介を始める。
そんな自己紹介をしている中、僕は一人考え事をしていた。
ふふふ…ついに来た。
正直なところ、この自己紹介でこの高校生活のすべてが決まるといっても過言ではない。
如何にボッチで過ごせるかが勝負だ。
「それじゃ、次は三番、石倉晴馬くん。」
「うーい。」
来た、ここでボッチアピールを出しておけば誰も僕に構うものなどいないな。
すっかり自己紹介というものに手慣れている僕はみんなの方を向いて息を吸い込み言った。
「あー、えーっと、
西中学出身というだけでどよめきが起こった。
僕、美奈子、理奈の三人が出身としている西中学は国公立の中学で基本的には中高一貫校である。
僕はあの空間にいるのがあまり好きではないため、中高一貫から外れてこの私立の高校に来たということだ。
だから西中学というだけでどよめきが起こるのも無理はないだろう。
「ええと、僕は基本一人が好きな人間です。正直にいうと友達とかそういうのはいらないので適当に僕の事は無視してください。というか、構わないでください。あいつらとはいっしょにしたくないと思ったのですけれど、結局、僕の邪魔なだけなので。それと、よろしくとかもする相手がいないのでしなくて結構です。」
僕が言うと教室内はどよめきから冷えに変わっていった。
やれやれ、これでいい…例え、相手が変わってもこうすることで僕のボッチ生活は変わらないのだから…。
僕は言うだけ言って机に戻った。
担任の
「石倉くん、お前はそれでいいのか?」
「ええ、慣れていますから。」
「そっか。お前は悲しい奴やな。」
「先生にとって、僕が悲しい奴なら僕はそれで結構です。」
僕の返答に対して夢野先生は諦めたような顔をして次の人を呼んだ。
勝った…計画通り!
そう思うと僕は眠気が来て、机へと眠ってしまった。
僕が目覚めるとクラスの中はすでにガランとしていた。
ああ、自己紹介はすっかり終わっていて、みんな帰ったってことか、別にいいけど。
さてと、僕も帰りますかね。
そう思い、僕が玄関に行くと待ちくたびれたと表情で前面に出している理奈と常にニコニコしている美奈子が玄関で待っていた。
「なんだ。お前らいたのか。」
「晴馬、帰りましょう。話したいことがあるから。」
「ああ。分かったよ。」
理奈の内容はおそらくさっきの自己紹介の内容だろう。
少し歩いたところで理恵が話したいことを持ち出してきた。
「ちょっと、晴馬。あんたなんてことをしてくれているのよ。」
「なんてことって何が?」
開口一番に面倒なことを持ってくるなよ。
「晴馬くん、さすがにあの自己紹介はないと思いますよ。」
学校からの帰り道、右隣には理奈、左隣には美奈子の両手に花状態をしながら僕は質問攻めを受けていた。
「あの後、クラスの雰囲気が重くなっちゃって自己紹介どころじゃなかったわよ。」
「別にそれでクラスの雰囲気が重くなるのは結構頻繁に行われていると思うぞ。」
「でも、さすがにあれでみんなのやる気がなくなったよ。しぶしぶ担任の先生は自己紹介を明日に伸ばしたけど…」
やれやれ、結局あの後、伸ばしたのか。
ある意味では思い通りだ。
「でもそれで良いじゃないか。僕はクラスのみんなから嫌われ者。それがいいレッテルだと思っているし、十分だ。」
「晴馬、あんたホントにそれでいいの?」
「ん?何がだ?」
「私と理奈ちゃんは晴馬くんの今後の高校生活についてどうしていいのか分からなくなっているのです。」
「ちょっ、美奈子。私はそこまで言っていないわよ!」
「でも、そういう意味だよね?」
「うぐぐ…。もう、そうよ!どうなの?晴馬!」
そうか…その時、僕は自分の気持ちに気づいてしまった。
というよりは気づかされたのだ。
僕は少しでもいいから助けが欲しかったのかもしれないということに…。
ふと、そんな感情的な自分が出てきた僕は自分の頬を軽くはたくと、右手で理奈の頭を、左手で美奈子の頭を撫でた。
「ふぇっ?」「ふにゃっ?」
「ありがとうな、二人とも僕の為に色々尽くしてくれて。」
「べ、別にあんたの為じゃないし。クラスの雰囲気を何とかしようとしていただけだしっ!」
やれやれ、相変わらずのツンデレだな。こいつは…。
「ボクは特に何もしてないけど…。」
「美奈子はやってなくても、僕の事を思ってくれているだけで充分だ。」
だが、現実はそう簡単に甘くはない。
一度言ったからにはきちんとしなくてはいけない。
撫でた手を降ろして、僕は二人に向けてはっきりと言った。
「でも、僕はあの自己紹介を撤回する気はないし、クラス内の良し悪しを変える必要はない。」
「そう…それなら私は何も言わない。晴馬がそうしたいなら構わないと決めていたから。」
「うん、ボクも晴馬くんが良いっていうなら…」
やれやれ、この二人は結局、僕の事を思って言ってくれているのだな。
くそぅ、なんか泣けてきたぜ。
「それじゃ、早く帰ろうぜ。優実が待っている。」
僕は二人の手を引くと、自宅まで全力疾走した。
「それで、学校から意外と距離があって汗だらだらで帰ってきたと…ふーん。」
「は、はい。そうです。」
自宅に帰ってきた僕たちを待っていたのは優実の説教だった。
そりゃそうだろうな。
昨日、やるなと言われたことを僕がやったのだから。
「それでお兄ちゃん。何かいいわけはある?」
「で、でもね。優実ちゃん。晴馬くんは…」
「美奈子ちゃん。少し黙っていて。」
「は、はい…」
美奈子も怒っている優実には勝てない。
やれやれ、使えない幼馴染みを持ったものだ。
「何も、晴馬、一人のせいじゃないのよ。あの場には私たちも一緒にいたのだし…」
「理奈さん、今、あたしはお兄ちゃんに聞いているの。少し黙っていて。」
「は、はい…」
理奈も怒っている優実には勝てない。
やれやれ、全く、使えない彼女を持ったものだ。
「で、どうなの?お兄ちゃん。」
「特に…ないかな。」
別に言い訳をする理由も見つからないし、変なことは言えないからな。
「さあ、やるならひと思いにやってくれ。優実!」
僕は目をつぶり、優実から来る天罰を僕は覚悟した。
「分かった…」
ところがいつまでたっても天罰は来ない。
おや?どうしたのかな?
僕は恐る恐る目を開き、その状況を理解した。
「んなっ…」
目の前で優実が泣いていた。
おいおい、どうした?
「お、お兄ぢゃんが…学校でいじめられないが、あだしは心配だっだの!」
「優実…」
やれやれ、実の妹ながら恐ろしい奴だ。
まさかこんなところで僕がいない所で頑張ってくれているとは…。
僕はポケットからハンカチを優実に差し出して言った。
「優実、僕はいじめられることはないと信じている。だってこの学校には信頼できる奴がいるから。だからほら泣き止めよ。僕のハンカチ貸してあげるから。」
「うん」
優実は僕からハンカチを受け取ると涙を拭き、いつもの優実に戻った。
「大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫。ありがと、お兄ちゃん。」
「ああ。」
そのころ、僕と優実とのやり取りを間近で見ていた二人はひそひそ声で会話をする。
「晴馬くんってやっぱりアレなのかな?」
「アレって何よ。」
「ほら…妹萌えってやつ。」
「ああーなんかわかるわ。こうして彼女と幼馴染みをほったらかしにしているあたりがまさにその通りね。」
「ホントホント。」
人を勝手に妹萌えにしないでくれませんかね?それに僕はみんなの事きちんと見ているつもりなのだけど…。
あとそういうものは僕に聞こえる声で言うなよ。
こっちが悲しくなるだろ。
僕は手をパンと叩くと一つの提案をする。
「それじゃ、優実も泣き止んだし、夕食でも作りますか。今日は入学祝いってことで特別に僕が作ってあげるから三人は僕の部屋で待っていて。」
「えっ、お兄ちゃんが作るの?」
「あれ?優実、お前は知らないのか?ある程度のものだったら作れることに…。」
「そうだったね…。最近、あたしが良く作っているから、ごめんごめん、忘れていたよ。」
やれやれ、忘れないでくれよ。
そりゃまぁ、僕の料理スキルは優実より低いけどさ…。
「晴馬くんって料理作れるのですか。楽しみですね理奈ちゃん。」
「わ、私は別に…楽しみになんてしてないし…」
やれやれ、ツンデレは分かったからささっと行ってくれませんかね?
僕が作れないじゃないか。
「ほら…行くよ。二人とも」
「僕の部屋で待っていてくれないか?出来たら呼ぶから。」
それじゃ、時間稼ぎよろしく。
妹がコクリと僕の心の中を読んで二人を連れて僕の部屋へと上がって言った。
さすが、我が妹。
「さて…料理を始めるけど、何を作ろうかな。」
僕はそう言って携帯からクックパッドを開いた。
クックパッドは最強、これ常識な。
「ふむ…鶏肉はあって、えっとこれは…サフラン?なんでこんなものが…。というかサフランあるならアレができるじゃないか。幸い、アレ専用の鍋ならあるし。やれやれ、ここまで全部優実が考えて読んでいたなら、恐ろしい妹だよな。ま、とりあえず、今日はノッてあげましょうかね。」
僕は鶏肉を取りだして調理を始めた。
数十分後、僕の家のテーブルにはスペイン料理の『パエリア』が領地を広げていたが、理奈と優実と美奈子率いる『食事隊』に跡形もなく壊滅された。
やれやれ、壊滅するのが早くないかい?僕も少しは食べていたけどさぁ…。
「ぷあ~お兄ちゃんが料理を作るって言ったときにはどんなものができるか心配だったけど本格的なものが出てきて正直びっくりしているよ。」
「うんうん、ボクも最初は『え〃っ?』思っていたけど本格的でうれしいな。将来はこんな旦那さんが欲しいよ。」
「そうね、美奈子の言葉には少し反論を求めたいけど今回は晴馬の料理に免じて問うのをやめるわ。」
うむ、皆さんご満悦で何より、僕も頑張った甲斐があったものよ。
「して、お兄ちゃん。このパエ何とかをどうやって作ったの?」
パエ何とかはやめなさい。
スペインに失礼だとは思わないのか。
「パエリアな、普通に調べて作ったよ。材料はあったが流石に作り方までは分からなかったからな。」
「ふーん。」
『なんだよ、僕を疑っているのか?というより、材料用意したのはお前だろうが。』
『まあね。予想通りだったよ。』
「晴馬くん、あーん。」
美奈子が自分のスプーンでパエリアをすくって僕に差し出してきた。
「ん、あーん。」
僕は美奈子のあーんを普通に受け取った。
あーんを受け取らないと面倒なことになるから受け取らないと…。
「あ!美奈子がやるなら私もやる。ほら、受け取りなさい。晴馬!あーん。」
やれやれ、相変わらず、対抗心だけはあるよな。
そういうところが、ツンデレって性格を生んだのかもしれない。
「はいはい、あーん。」
僕は美奈子と同じように理奈のあーんも受け取った。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、そこまで来たのだよ。あたしのも受け取る覚悟はできているよね。」
「良いだろう。」
正直、来ると思った。
僕は三人分のあーんを受け取ると、満足そうにしているみんなを見て思った。
やれやれ、こういう日常も悪くないな。
「それじゃ、僕は片付けをするから三人はゆっくり風呂でも入ってきてよ。誰からでもいいけど。」
夕食も無事食べ終え、僕は食器を洗おうと立ち上がった。
その時、優実がぐでーとなりながらのんびりと言った。
「あ、お兄ちゃん、そういえば言うのを忘れていたけど、家のお風呂壊れちゃっているからね。」
はい?なんだって?
「あー、悪いな、優実、僕、最近勉強の疲れか耳がよく聞こえなくなっていたのだ。もう一回言ってくれ。」
「お兄ちゃんのその能天気な頭に何回でも叩き込んであげるよ。『うちの風呂は壊れているの』分かった?」
「ああ、僕の聞き間違いじゃなかったのだな。それで、どうするよ。風呂しばらくやめるか?」
「何言っているの?お風呂は乙女の清潔感を際立たせるために必要なのよ。風呂が使えないなら入りに行くに決まっているじゃん。丁度、この近くに銭湯もあるしさ。ねえ、美奈子ちゃん。理奈さん。」
こういう時に仲間を強制的に呼んでくる技術をやめません?なんか心が痛いよ…。
「そうね、お風呂は大事。だもんね。今回は優実ちゃんに味方するわ。」
いつからお前は僕の味方になったのだ?
それに優実の味方をしてももらえる報酬は少ないぞ。
だって、お前の前に僕がいるのだからな。
「あう…ボクはどっちでもいいかな、晴馬くんが良いと思う方向でいいよ。」
美奈子、何でもかんでも僕に頼ろうとしないでくれ。
たまには決断も大事だぞ。
「分かった、今日は銭湯にでも入りに行こう。異論はないな。」
「うん。」「もちろんよ。」「大丈夫。」
三人の合致ができたところで僕は自分の部屋に引き上げようと階段に足をかけた。
「晴馬くん、どこ行くの?」
「自分の部屋だよ。出かけるならそれなりの支度もしないといけないからな。」
今の服装だと外に出るには圧倒的におかしいからな。
そりゃまあ部屋着ですし、おすし。
「でも、ボクと理奈ちゃんは着替え持ってきてないよ。」
「あー、優実の服借りればいいのじゃね?正直、優実に聞かないとその辺は分からんな。」
「じゃあ、聞いてくるよ。」
「ああ」
美奈子はそう言って、優実に「ボクと理奈ちゃんの服ある?」とか聞いているし、理奈は理奈で「なっ、晴馬に見せびらかす気じゃないでしょうね。晴馬はそういうのに弱いのだから。」とか返答している。
やれやれ、全部聞こえているぞー。
優実は少し考えて二人に向けて言った。
「あたしの服で良ければ、今日くらいは貸してあげるよ。」
「ホント?ありがとー」
「美奈子が着るなら一応、私も着ておこうかな。な、なによ。一応よ一応。」
僕はそんな会話を背に自分の部屋へと戻った。
それから約十分後のこと。
無事に着せ替えを終えた優実がキラキラした目で言う。
「わぁ~二人ともすごくきれいです。あたしの服がこんなに似合う人なんていなかったのに…」
「そ、そうかな。」
「ちょっと、恥ずかしいけど…」
やれやれ、ようやく終わったか。
下の方でそんな会話が聞こえたので僕は自分の部屋を出て、下へと降りた。
「おーい、お前ら出来たか?って…なんじゃその格好は!?」
僕が驚いたのも無理はない。
だって、理奈が着ていたのは『キャミソールドレス』で美奈子は『ピンクのミニスカ』という童貞欲を丸出しにしたような服装だった。
「晴馬、どう?似合っている?」
理奈がキャミソールで僕の方へと近づいてくる。
まずい、見えそうなところが多すぎて突っ込みしきれない。
まだ、白いという観点ではないのが唯一の救いだ。後、貧乳なところとか。
「あ、ああ。似合っているよ。うん、すごく。」
「そ、そう…」
僕は心臓に手を当てて、バクバクなっている心臓を確認する。
くそ、あぶねー、理奈の奴、キャミソールとか反則だろ。
銭湯行くだけなのにキャミソールとかバカなんじゃねーの?優実もそんな洋服持っているとか聞いてないけど。
いや、ネグリジェじゃないだけましと考えよう。うん。
それに、理奈にこんなにキュンキュンしたのは初めてなんだけど、くそっ、理奈のくせに…理奈のくせにぃ!
「晴馬くん、ボクはどうかなぁ?似合っているかな?」
ミニスカの美奈子が理恵に負けまいと僕に近づいてくる。
ああ、このくらい普通だと落ち着いてみることができるなぁ。
「うん、すごく似合っている。」
「良かった!」
あと、めちゃくちゃミニスカだから見えそうなのだけど…あえて、どこがとは言わないけど…。
あ?そんな眼で見るものじゃねえよ。
見えなきゃ全部セーフなの。分かるかい?
「さて、後は優実だけだけど…優実は?」
「あ、お兄ちゃん。ちょっと待っていて。」
僕はいつの間にか部屋に戻っていた優実に呼びかけ、部屋から返事があった。
「早くしろよー」
「あーい。」
そして、三分の時がたった。
「お兄ちゃん、準備できたから開けるよ。」
「おう」
以外にも楽しみであったりする。
ここまで二人にコーデをした優実がどんな服装でやってくるのか。
優実は自分の部屋のドアを開け、僕たちにおずおずと出てきた。
………普通だな。
「うん、あれだな…普通というか、優実らしいというか」
「お兄ちゃん、少し黙っていようね。」
優実の服装は『ポロシャツにショートパンツ』まあ、らしいといえば、らしいなのだが…。
何だろう、この納得いかないような感じは…非常に悔しいなぁ。
あ、もちろんお兄ちゃんとしてだぞ。
優実の服装を見た美奈子が自分の服をつまんで言う。
「優実ちゃん、その服、ボクの洋服と交換しない?」
「ダメです。美奈子ちゃんはこれでいかないといけないよ。」
美奈子の提案を優実はバッサリと切った。
「えー。優実ちゃんくらいの普通くらいが良いのに…。」
「と、とにかく、美奈子もあきらめなさい。ほら、銭湯に行くわよ。晴馬、タオルは持った?」
「へいへい。持ったよ。」
僕たちは夕食の後片付けをするのを忘れて、銭湯に行くためにドアを開け、一歩踏み出した。
そして三秒後…
「「「「……」」」」
雨…降っていたのか…。
僕たちの心の中はこのことしか考えていなかった。
「帰るっ。」
「同意。」
誰が言ったのか知らないが、全員そろって身を翻し、僕の自宅へと帰った。
こうして、僕たちの銭湯は雨の中、羞恥と面倒くささでお開きとなった。
その後、雨が止むまで二人がうちにいたことは別に語る必要もないだろう。
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