第十七話『つぐのひ』
翌日、いつもの場所で僕は理奈を待った。
昨日の今日で理奈が機嫌を直してくれると思っているわけではないが、美奈子には先に行かせて、一応、待ってみることにした。
はぁ、しかし、昨日は酷かった。
僕自身としての対応も悪かったと思っているけど、なによりひどいのは緋想さんだろう。
純粋な乙女心にいちゃもんをつけるのだから。
本当になぜ緋想さんがそういうことをしたいのかそれをして、僕たちの関係を引き裂くためにしたところでどうなる?僕は確実にそうさせた緋想さんを許しはしないし、それで緋想さん自身が優位に立てるわけでもない。
むしろ、周囲に敵を作りすぎて勝手に破滅するだけだ。昔の僕のように。
友人との付き合いに失敗した僕は事あるごとに人を煽り周囲に敵を作りまくっていた。
その結果、今のような性格が出来上がってしまったのだ。
まぁ、緋想さんも僕たちと同じ西中学出身って言っていたのは知っているから何か後ろめたいことがあってこっちに来たのだろう。
だから、気持ちは分からないでもない。
だけど、緋想さんはまだ、正義の眼をしている。
アレを失うと僕のようになってしまう。
それは学園生活に失敗したことを意味するのであって一度経験した僕にとっては絶対に避けなくてはならない障害の一つ。
そのために、今まで緋想さんが出てきても無視をし続けた。
関わってほしくないからだ。
緋想さんが関われば確実に迷惑なことに巻き込まれる。
だから、僕は緋想さんを含めたみんなと距離を置いた。
はずだったのに…。
どうしてこうなったのだろう。
と、そんなことを考えているといつもの道から理奈がやってきた。
「晴馬…?なんで?」
「よ。理奈。一緒に行こうぜ。お前も話したいこと。あるだろ?」
僕はそういうと、理奈のほうへ一歩近づいた。
「それ以上は来ないで!」
「!?」
「い、いい?私とは一定距離を開けて話すこと!分かった?」
あらら、これは結構重症だ。
相当昨日のことが参っているようだね。
まぁ、話すなとまではいわれていないからまだいいほうなのか。
僕はそう理解するとコクリと頷き、理奈より少し歩み出て言う。
「分かった。それじゃあ、僕が先に行こう。理奈も僕の顔を見ながら話すのは嫌だろうからね。」
「ふ、フン。分かっていればいいのよ。」
やれやれ、こうでもしないと動かないからなぁ。
そう思いつつ、僕は先に歩みを始める。
そして、無言のまま、十メートルくらい過ぎたところで理奈から質問が来る。
「き、昨日はごめんなさい。晴馬のことぶっちゃって。」
理奈からぶたれたところは昨日、今日で軽く青い痣になっているので少し、後遺症が残る程度だろうと保健の先生が言っていた。
そこまでの大惨事というわけではないようなので安心した。
「それに関しては別に怒ってないからいいよ。先生が言うには軽い痣程度だから。僕も気にしてないし。」
「でも謝っておこうと思って…。ごめんなさい。」
「もういいって。僕が聞きたいのはそういうところじゃないし、そこは正直どうでも良いんだ。」
僕が吐き捨てるように言うと理奈は歩みを止めた。
僕はそれに気づき、歩みを止める。
「晴馬なら、分かってくれると思ったのに…。」
その言葉が昨日の勘違いの出来事だと思った僕は吐き捨てるようにして言う。
「理奈にとって僕は何でも分かっているように見えているようだけど、それは間違いだよ。僕だってミスはするし、分からないことが多い。今だって、理奈の気持ちに考えることはできるけど、確かめることはできない。人間は所詮、そこまでの生き物なんだよ。」
「でも、晴馬は何度も気づいてくれて、助けてくれた。
お前もか…。
お前もあの時について語るのか。
僕は態度を180度変え、静かにそして、吐き捨てるようにして言葉を言う。
「アレは…しょうがなくやっただけだ。あの場にいたのは僕だけで傷ついているお前らをそのまま見殺しにするという選択肢を捨てた。ただ、それだけだ。」
「ただ、それだけって。あんたねぇ!」
「理奈、頼むからそれ以上は言うな。僕も思い出したくないから。」
「そ、そうね。ごめんなさい。」
「理奈、一つ言っておくと、僕は一度、大切な人を亡くしている。だから、中学時代は人と付き合うことをやめたし、友人関係になるつもりもなかったんだ。そんな僕が君と悠長に歩いていて良いのか。今でも不安しかないんだ。君がいつ、いなくなるのか。それが怖いから、僕は君に強く言い出せない。」
「そう…そうだったのね。ごめんね晴馬。私、何もわかっていなくて。」
「いや、僕も上手いこと切り出せなかった。すまない。」
僕が謝ったのを見て、理奈は背中から僕にダイブしてきた。
「でも、忘れないでね。あの時のおかげで私は晴馬のことが好きになったのだから。」
「……できれば、忘れたいくらいだけどな。」
すっかり、元気を取り戻し、僕の手をギュッと握ってくる理奈の横で僕は一人、考えていた。
そういえば、あの時はどうやって、助けたのだろうか。
確か…確か…。傷ついている二人を僕は…。僕は…。
あれ?どうやってやったんだ?全く、そのころのことが思い出せない。
それとも僕自身が思い出すのを拒絶しているだけなのか?
それとも、たまたまそこにいただけなのか?
やれやれ、何が何だか分からなくなってきたようだ。
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