第二十九話『漆黒に染まれ!赤い生き物よ!!』
「お兄ちゃん。それは…。」
「ああ、実は親父も今、アメリカいるらしいんだ。それでこれを家に送ってくれたのだよ。」
「その海老みたいなやつをやるの?」
「んー、まあそうなのだがこいつは海老じゃない。」
「?」
その時、エミリーが飛び跳ねるようにしてその生物の名前を言う。
「分かった!ロブスター!!ハル、ロブスターだ!!」
「Exactly!大正解だ。エミリー。」
そう、こいつの名前はロブスター。日本ではオマール海老とも呼ばれるものである。日本では養殖をあまり流通していないため、アメリカ産のほうが大きく、おいしい。
「さぁ、料理の邪魔にならないようなところにいてくれ。エミリー、ロブスターは好きか?」
「イエース!!
そんなハイテンションになっている後ろで一人ため息をついている理奈は思い出す。
『理奈に嫌われた。もう、一生の終わりだぁ。』
ふふっ、晴馬ったら。そんな風に思っているなんてね。嬉しいじゃない。
理奈の思いは誰にも気づかないが、晴馬には嬉しそうな表情が見て取れた。
「さて、優実さんや。ロブスターの調理法は知っているかい?」
「いや?知らないね。そもそもロブスターって言うけど、ザリガニとは違うの?」
「うーん、これはあまり知られていないのだけれど、優実にとってロブスターはどういうイメージ?」
「おいしい海老の強化版。」
「じゃあザリガニは?」
「くさいところに住んでいる海老みたいなやつ。かな。正直、何とも言えないよ。」
「うん。大体、みんなのイメージもこんなもんだろうね。」
「お兄ちゃん。みんなって誰よ。」
「みんなは…みんなだよ。」
僕はぴくぴく動いているロブスターに包丁をドスンと降ろすと話を続ける。
「そもそも、海老にはロブスターやザリガニと違ってハサミがない。ここだけでも大きく変わるのだ。」
「じゃあ、ロブスターとザリガニの違いは?」
「うん。といっても僕は生物学に詳しいわけじゃないから。あんまり覚えてない。ねえ、この前のテストで生物90点の理奈は答えられる?」
急に話題を振られた理奈はびっくりしながらも考え込んで言う。
補足しておくとこの前のテストというのは入学式直後にやったテストのことである。
「そうね…。確か、ロブスターはエビ目エビ亜目ザリガニ下目アカザエビ上科で、ザリガニがエビ目エビ亜目ザリガニ下目ザリガニ上科…あれ?そしたら、ロブスター=ザリガニっていう式が成り立つわよ。」
「そうらしいね。詳しくは知らないけど、でも日本ではオマール海老と呼ばれる。これにさっきの式を足すと、ロブスター=ザリガニ=オマール海老という式も成り立たせることができる。」
「お兄ちゃん。そういいながらロブスターの腹を包丁で捌いていくのはどうかと思うよ。」
「別にいいんだよ。んで、今回作るのは『グリルロブスター』ね。そこまで難しくなくてアメリカンな料理だから、エミリーも食べられると思うよ。」
「うん、楽しみ。」
うんうん、僕も非常に楽しみである。
「さてと、やりますかね。」
僕はロブスターをカットして、準備に入る。
もちろん、手元にはクックパッドもしっかりとスタンバイしておく。
では、タイトルはこうしておこうか。
『おそらく簡単!グリルロブスターの作り方。』
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