第十四話『Are you ready?』

「は~る~ま~く~ん。これはどういう事かな?」


 さっきと同じ口調で美奈子が僕に迫ってくる。


「い、いや…これは…その、あのだな。」


 もはや何を言っているのかですら自分でもわからない状態だった。

 その後ろで賀陽先輩がロッカーから出てきて、手を一回パチンと叩くと、いまだに疑い深い美奈子に言った。


「幼馴染みくん。私は彼に相談を受けていたんだ。だから君の思っているようなやましいことは何もない。」

「相談を受けていただけでロッカーに入れるほどのことを晴馬くんは言ったのですか?」


 んー、そんなこと言ったか?そもそも、ロッカーに入れって言ったのは僕。

 美奈子はただ、図書館に来ただけ。

 あれ?あれれ?僕もしかしてどうでもいいことをしてた?自分で墓穴掘って美奈子を呼んだ?うそーん。


「いや、そんなことはないぞ。これはただの不可抗力だ。さっきも言ったがやましいことはしていないし、されてもいないぞ。」


 賀陽先輩は美奈子の事を幼馴染みくん、そう呼ぶようになった。

 それはいいんだが…。

 さすが賀陽先輩、無駄なこと一切言ってなくて、要点だけを美奈子に伝える。

 その精神力がすごいです。


「せんぱぁい…。」

「晴馬くん、そんな目で私を見ないでくれ。私は事実を言ったまでに過ぎない。」


 美奈子は殺意の目線をやめ、口調を少しだけ高くして言った。


「ふーん、ま、分かりました。今回は先輩に免じてみなかったことにします。でも、晴馬くん、最近、ちょっと浮かれ過ぎじゃないかな。」


 そう言って、美奈子は教室へと戻って行った。

 ふぅ…やれやれ、何とかなったようだ。

 というか僕が余計なことしすぎただけだよね。これ。


「賀陽先輩、さっきはどうもありがとうございました。おかげで助かりました。」

「いや、私もあのまま濡れ衣を着せられるのが嫌なだけであって…。幼馴染みくんには感謝はしているよ。理解が速くて助かる。ところで晴馬くん。」


 先輩は目線を低くして言う。


「別に私が隠れる必要なかったのではないだろうか?」

「ご、ごもっともです。」

「はぁ…。いや、すまない。もっと簡単に言えばよかったなと思う。」

「いえ、こちらの不始末でこんなことになってしまったので。はい。本当に申し訳ないっす。」

「いや、こういうのには慣れている。だから、心配するな。」


 その言葉で、この人がどのくらい苦労をしているのかが分かってしまったような気がした。

 皮肉だが、わがままなお嬢様に無理難題を言い渡され続けている執事みたいな感じと思ったのは言わないでおこう…。

 もしも、当たっていたら怖い。


「それじゃ、私はもう行くよ。お嬢様の用事もそろそろ終わっているころだろうしな。君も早く教室に戻りたまえ。」

「はい、ホントに色々ありがとうございました。」


 僕は賀陽先輩に一礼して教室へと戻る。

 その後ろで「何やってんや。賀陽。」という声が聞こえた。

 やれやれ、本当に当たっていないだろうな。

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