3-5 やっぱり奈美はサーフィンがしたい

 閉店後、奈美は仕事用のパソコンを家に持ち帰り、オサムの注文した商品の取り寄せのメールを用意する。テンプレートの文章に、注文書の内容を打ち込む作業をしながら、奈美は最近出会ったひとたちのことを考えていた。


 新しくサーフィンを始めようとするオサム。ロシアからわざわざ日本に来てサーフィンをしにきたソーニャ。恋を頑張る優里亜。そんな三人を見て奈美は自身にもサーフィンがしたい気持ちが湧き上がってくる。


 エネルギーを感じる三人に乗せられているのだろうか。サーフィンから、海から離れた自分とは違い、どんな理由があっても三人ならやりたいことから離れたりしないで、やり遂げるだろうと信じられる。


 入力が終わって再確認。あとは父親が確認してから送信してくれるので、ここで保存した。


「よし」


 持ち帰った仕事を終えると、パソコンを休止状態にして父の部屋へ向かう。


「パパ、奈美ちょっと明日プール行ってくる」

「えっ!? 泳ぎに行くのか?」


 海の家の売上集計をしていた父に声をかけると、目を見開いて奈美の方を見る。


「うん。やっぱり奈美はサーフィンがしたい」


 奈美は笑顔を崩さすに、決心を伝えた。その目は強い意志を感じる黒色なのだが、今にもやってくるいい波のような青さをしているように父親には見えた。


「そうか……」


 奈美の父は嬉しそうな、ちょっと悲しそうな顔になる。まるで叶わない夢を追いかける娘を見るような目だった。


「そんな顔をしないの。奈美が泳げなかったりサーフィンできなかったりするのは、パパのせいでもママのせいでもないもの」

「いや、本当にすまないと思ってるよ」

「だから謝らないのっ!」


 奈美は幼い頃から、サーフィンショップの手伝いをしていた。いろいろなサーファーが店に来たり、店の向かいの海で波乗りをしている。


 だが奈美はそんな様子を見ているだけだった。彼女は泳げないのだ。


 ボードに乗りながらなら泳げると思ったが、それもできず。さらにサーフィンをしようにも平衡感覚がどうにもおかしいらしく、すぐに海に落ちる。


 障害を心配した両親が病院で検査するが異常なし。誰も原因が分からなかった。


「奈美は見てるだけでいい。みんなが波に乗って楽しそうにしてること。そのお手伝いをしたりすることで十分だから」


 いつからか奈美はそう言って店からサーファーたちを見ているだけになった。


 でも今は違う。自分も、サーフィンがしたい。無理かもしれないが、チャレンジするだけの価値がこのスポーツにはある。


 奈美はオサムやソーニャや優里亜から、それを再度教えられた。


「だが、気をつけるんだぞ。溺れたりしないようにな」

「市のプールだからひともたくさんいるし、大丈夫だよ。でも気をつけるね」

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