2-10 やったー!オサム、大好き!
今日も電車だと聞いたので、優里亜はオサムを駅まで送っていくことにした。
夕日をバックに、たまに聞こえる江ノ電の走る音に耳を傾けながら、線路にそって自転車を押してふたりで歩く。まるでデートの帰りだと優里亜は勝手に思って歩いていた。
駅を目の前にして、オサムを送った後は上機嫌に帰れるんだろうなと思っていたが、
「あれ~、オサムとユリアだ!」
駅から出てきたのは最近知り合った金髪、ソーニャだった。
(げっ、油断してた……駅の方に歩いていくんじゃなかったわ)
優里亜は笑顔を崩さずそう思った。
駅でオサムを送るまではせめて顔を合わせたくなかった。久しぶりにふたりきりだったし、さっきまでいい雰囲気だったのだ。オサムにその気がなくても優里亜にはその気があったし、いいこともあったし、このまま今日が平穏に終わればいいなと思っていたところにこれだ。
優里亜のがっかりしたテンションを余所にオサムはいつもどおりに、
「ソーニャ、今日は遅かったんだ」
「うんー、今日は奈美とお話しに来ただけなんだ」
「そ、そうなんだ……」
「今日はふたりでどうしたの?」
「優里亜のサーフィン見せてもらったんだ」
『げっ!?』と作り笑顔を崩し優里亜は顔をしかめた。口止めする前に今日のことをオサムが言ってしまった。この後のソーニャの言葉はだいたい想像できる。
「えー、ワタシも見たかった! 今度誘って」
そう言うと思っていた。優里亜としては黙っていて欲しかったが仕方がない。
「え、ええ」
唇を舐めて、作り笑顔を直してから優里亜は曖昧な声で返事をする。
(誰が誘うもんですか)
内心ではそんなふうに思っていてもソーニャには絶対に分かってもらえない。
「それでそれで、ユリアのサーフィンどうだった?」
「綺麗だった。俺もちょっとやってみたいと思ったくらいだ」
「えっえっ!?」
ソーニャは乗りやすそうな波のようなテンションで聞き返してくる。優里亜は対して勢いのない波のような呆れたような口調で、
「あんたのせいでオサムがサーフィン始めるって言ったのよ」
と言ってしまう。
包み隠さず、優里亜の恋路としてはいい迷惑だという意味を込めて。
だが、その意味は五時間前の太陽のようなソーニャには通じない。
「やったー!オサム、大好き!」
「「!?」」
ソーニャの取った行動はオサムにも優里亜にも予想外だった。
オサムがソーニャにキスされたのに気がついたのは、ソーニャが店の方へ駆けて行ったあとだった。
「それじゃまたねー」
「なにすんのよ!」
去り際にそう言ったソーニャに優里亜が叫ぶ。
(いや、優里亜の台詞じゃないだろ……)
オサムの熱暴走したCPUではそう突っ込むのが精一杯だった。
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