2-8 オサムのその言葉の選び方、嫌いじゃないわよ
優里亜は、海岸へやってくるなりしかめっ面で明るい砂浜を睨んでいた。
「今日は居ないみたいね……」
優里亜は周囲をキョロキョロと探る。今日もこの辺はサーファーがおらず、やっぱり穴場なのだろうとオサムは思ったが、多分理由はそれではない。
「ソーニャを探してる?」
「そうよ」
「なんでそう警戒するんだ」
「するわよ……」
優里亜は目線を落とす。ソーニャにはあって、優里亜にはないものがある。
ソーニャはサーフィンのときビキニみたいなショートパンツ、それに対し優里亜はスパッツのようなタイプだ。それでも女の子らしく愛らしいロゴやピンクのラインが入っているが、色気という意味では確実に負けている。
あっちは足を見せても問題がない。むしろ見て欲しいんじゃないか、オサムに見せつけているとすら優里亜は思っている。
そんな方法でオサムが小説を書く機会を奪い、さらにオサム本人も奪い去っていこうと企んでいるソーニャを警戒しないわけがない。
再度周辺を見渡してから優里亜は無い胸を張って、
「さ、気を取り直して。あたしの波乗りを見せてあげるからっ!」
そう言って、海へと駆けていく。
優里亜の波乗りもすごかった。彼女はスケートボードのように波に乗る。サーフボードの下に車輪が付いているみたいに、海の上を走っているのだ。
動きもそうだが、彼女の表情がとても楽しそうだ。オサムが見たことのない笑顔は、まるで別の世界を楽しんでいるかのような表情である。
とても輝いていて、綺麗だった。
優里亜が言っていたこと、ソーニャの言っていたことがオサムには分かってきた。
満足したように戻ってきた優里亜に、
「優里亜お前、あんなに綺麗だったんだな」
思ったことを率直に伝える。優里亜は傾いてきた夕陽みたいに顔を赤くして、
「なっ、なによ急に」
「いや、絵に描いたように波乗りするもんでな。波に乗っかっていくんじゃなくて、波の上を魔法で滑ってるって感じがする」
「なによ、そのクサイ表現」
「語彙が豊かって言えよ」
「そうね~、小説家だもんね~」
「なんだよその取ってつけた言い方」
「でも、オサムのその言葉の選び方、嫌いじゃないわよ」
褒められたのが嬉しかったのか、優里亜はさっきとは違う笑顔をみせてくれる。この時期ならではの、湘南の海から見る優しい夕日のような笑顔だ。
優里亜も感想を言ってくれたオサムの目を見て手応えを感じる。
この目はなにかを決めた目。
オサムが昔、いじめっ子を撃退したときと同じ目。
優里亜が好きなオサムの目。
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