第二章 ツンデレニーソックスとサーフィン

2-1 サイカイ。いい言葉

 お昼ころ、オサムは昨日買ったものの封を開けることすらできなかった漫画や小説を読むことにした。全部の本の封を開けて、積み上げる。


 女の子がたくさん出てきて男の子が出てこない萌系と俗称される漫画、サーフィンあるあると男女の交流を描いたラブコメ漫画、異世界に行ったサーファーがエアサーフィンで活躍する小説など五冊ほど。どれもアニメ化はしておらず、ネットでもあまり有名なタイトルではなかったので初めて見るものばかりだ。


 どれにしようかと思いながら手を伸ばしたところで、家のチャイムが鳴る。


 それを聞いたオサムは、今日も読む暇がないかもしれないと直感し、一息ついた。

 ドアスコープを覗くその先には昨日出会った金髪がいた。すぐにドアを開けると、

「こんにちは! オサム」


 今日の天気にも負けない明るさの挨拶に、オサムはなぜか少し顔が緩んだ。


「こんにちは。今日はどんな御用で?」

「サーフィンしにきたんだよ!」


 オサムの予想通りの答えである。ということはこの刺客の差金は、

「ねえに、俺も連れて行くよう言われた?」

「ううん。ひとりで行ってもいいって」

「じゃあ、なんで俺も行くの?」


「オサムにサーフィンしてほしいから。

 そのためにサーフィンの楽しさを見てもらわないと」

「こういうのは実際にやってみないと分からないんじゃないの?」


「ワタシの友達は、サーフィン見せたらみんな始めたよ?」

「乗ってないのに?」

「乗ってないのに」


 ソーニャの理論ではこれで布教できると思っているらしい。少なくとも今の彼女には引き下がるという選択肢は浮かんでないだろうとオサムは考え、長期戦を覚悟。片手をギュッと握りしめた。


「……とりあえず上がって」


 周囲の部屋は埋まっているし、誰か通ると気まずいと思ったオサムは、とりあえずソーニャを招き入れることに。女子なんてと静佳以外入ったことはなかったが、ソーニャもすでに抵抗がなくなった。


 部屋にはいると早速昨日買った漫画が目に入ったようだ。


「サーフィンの漫画! オサムもやってみたいと思った?」

「そんなんじゃないよ」

「シトー? じゃあ、どんなん?」

「気になったから買ってみただけだ」


 その『気になっていた理由』はオサム自身にもよく分かっていない。それを探してこの本を買ったのだと、自分自身では解釈している。なのでソーニャの質問も軽くあしらうように返事をした。


「ねぇねぇ、読んでいい?」


 ソーニャの興味は早速本に注がれた。すでに我慢できずに本を手に取り、表紙をオサムに向けて一刻も早い許可を求めている。


「いいけど、俺もまだ全部読んでないからネタバレとかしないでよ」

「ネタバレって?」

「先の重要な展開を、まだ読んでないひとに先に言っちゃうこと」

「そうだね、映画でもニトゥタバレ重要だよね!」


 変になまったが、あってるからいいと思ってオサムはスルーする。

 ソーニャは早速ページを開き可愛い女の子たちを、少女漫画を読む目で見つめる。

(静かになったし、俺も読もう)




 一時間後。


「っていうか今日もサーフィンしに来たんだろう? 行かなくていいのか?」


 オサムはいつでも出られる。なのに、ソーニャはサーフボードを床に置いて、その上でゴロゴロしながら漫画を読んでいる。


「これ読んでから……」


 漫画の世界にすっかり夢中のようだ。可愛い女の子たちがワイワイ騒ぎながらサーフィンをする四コマ漫画だが、あと五十ページほど残っている。


「ねぇこの漢字なんて読むの? なんて意味なの?」

「これは『再会』って読む。一度お別れしたけど、また会えたってこと」


「サイカイ。いい言葉」

「そうか?」


 海外のひとからすれば日本語は響きがいいらしい。『ありがとう』などの言葉がとても美しく、歌のように聞こえると、テレビで話題になっていたことをオサムは思い出す。それと似たようなものだろうと解釈した。


「よし! 行こう!」


 ソーニャはそう叫ぶとようやく漫画をおいて、今までクッション代わりにしてサーフボードを持つ。

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