オルトンの故郷を破壊したのは?

19、

 夜も本番という時間帯。時計があればと思ったが、星の流れで何となく、時間の流れを感じられる。時計の機械的な動きでは、時間の流れを体感しにくい。便利ではあるが。

 時間の流れを正確に刻み続けていた時計も、この時代で有効に活用する手段は確実にあるが、普通の生活をしているのなら必要はなかった。

 日が昇ったら起きて活動して、日が暮れたら寝る。大多数の人間はそんな生活をしていた。原始人に回帰したかのような生活。

 何か予定があるときでも、誰もかなり時間にはいい加減。それでも別に構わないという人が多いから、改善する余地はないのだ。

「知っての通り。改造少女は戦争のための兵器ですゥ。でも、なんで少女なのか知りたくなーい……オルトン君?」

「教えるつもりがあるのなら、聞いてみたいな」

 ハリスから教えてもらっていない事。改造少女の弱点や対処法などは教わったが、戦闘以外の事は教わっていなかった。

「ある特殊すぎな細胞と適合しやすいのが、人間の少女だったから。研究所の奴らの又聞きなんだけどね。苦肉の策だったらしいよ。戦争に幼い女の子を兵器として導入するのかって、批判もあったみたい」

 オルトンは話を聞きながらも警戒していた。ただの談笑と侮るのは命取りかもしれないと、気を引き締めて聞いていた。

「でも、改造少女をみて批判はぴったり止んだ。改造少女が批判する奴らを一掃したからね。威力も誇示できた。一石二鳥だったよ」

 笑顔で過去を話すエイト。外見年齢的にはまだ中学生くらいの女の子。

 笑って話す姿を、オルトンはどこか、不憫だと思ってしまった。しかしすぐに思考から削除する。人間の脅威であると思い出す。

「その批判する奴らを、一掃したってことでいいのか?」

「うん」

「お前も、参加したのか?」

「いいや、してない。初期型の連中がやっちったから。とっておきの7番から9番は、戦争後期から出撃だったね。もっと暴れたかったよ」

「後期からってことは……」

 エイトが今言ったことを信じるなら、少なくともエイトは母を殺していないことになる。

 オルトンの母が殺されたのは、戦争の中期。改造少女が話題になった矢先に殺されたのだ。

「お前……イギリスのグラスゴーに行ったことはあるか?」

「どこそこ? 君の田舎?」

 確信を持っていいのかわからない。だが、少し嬉しくなってしまった。

 エイトは母を殺した改造少女ではないということ。これでエイトを殺すのは、見当違いということになる。

 改造少女なら誰でもよかった、という心境がなかったわけではないが。母の死と直接関係がないとなると、改造少女を見境なく殺す気はなくなってしまう。

「俺の故郷だ。改造少女に焼かれちまったがな。イギリスに行った改造少女を、お前は知らないか?」

「あぁ、仇探し? でもごめんねぇ、他の改造少女の連中とはあんまり交流なかったのよ。交流があったのは7と9の2人だけ。初期型の連中はよくわからんかったからさ」

「その7と9は!?」

「行ってないと思うよ。さっきも言ったけど、後期に活動してたんだから。焼野原になったとこに行く理由がないよ」

「……そうか」

 これが嘘かどうか、証明する手段は持ち合わせていない。しかし、真実だと信じてしまいそうになる。都合のよい結果だからだろうか。

 殺しの対象が、はっきりとしたからだろうか。

「……ははっ、見当違いな殺しをするとこだった……のか」

「見当違いなわけないじゃん。改造少女が仇なんでしょ? 殺すならさくっとどーぞ」

「そうかもな。でも俺はもう、お前を殺す気が完全に無くなっちまった。俺が殺したいのは、母を殺した改造少女だけだって、今わかったよ。改造少女全員に、怨みはないみたいだ」

「嘘をついてるかもしんないよ?」

「お前、嘘つく気があんのか?」

「ないよー」

「だろうな。お前は人殺しの兵器だけど、嘘はつかなそうだからさ。お前には助けてもらった恩があるし。信じてもいいかなって」

「……なんて返しをすればいいか、わからない発言は控えてもらえるかなァ」

 エイトの笑顔が消える。代わりにオルトンが微笑む。困ったような顔のエイトをみるのは貴重な気がしたから、面白くてつい笑ってしまった。

「改造少女の言う事を信じるヤツなんて、同類と研究所の連中しかいないと思ってたよ」

「そいつは寂しいことだな。俺もそんなに他人に信頼されるような、できた人間じゃないがそこまでひどくはなかったな」

「君が初めてかもしれないよ、オルトン。人間としておかしいんじゃないか? 改造少女の宣うことを信じるなんてさ」

「おかしいかもしれないけど、俺は後悔しないさ。そう決めてるからな」

「やっぱぁ……君は興味深いよ。オルトン君」

 エイトは改造少女という怪物。そう扱われてきたし、その扱いにもずっと昔に慣れていた。これからも、信じられることはないのだろうと諦めていた。

 それでも真実を伝え続けていたのは、研究所にいたころからの癖だ。嘘をついたら怒られて、罰を受けるから真実だけを話すようになっていた。

 嘘をつくことなく人と会話しても、信用されない。冗談まじりに話しても、ちっとも笑ってもらえない。感知できない苦痛だった。

「君は、改造少女を信じるヤツ……変なヤツという認識でいいの?」

「誰が変なヤツだ。お前に比べればまるで全然変じゃない。信じるヤツって認識はイイぞ」

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