アンチ・クランの集合
早朝になって、寝不足気味のエイトは、瓦礫から転がり落ちて地面に激突した。
結局、考えまくっても何も成果は得られない。関係のない生き方をしてきたのだから、成果が出るほうが不自然なことに、エイトは気が付かなかった。
「やぁ、おはよう。エイト」
「おはよーハリス。御目覚めいかがぁ?」
「そこそこかな」
地面に転がって、ダラダラと空を眺めていたところに、ハリスがやってきた。
「今、ワン・モア壊滅のための作戦を練ってる。作戦決行まで余計な行動は慎んでくれよ?」
「わかってるよぉ。約束は守るのが改造少女の使命みたいなもんだからさ。安心して作戦を練るといいよ」
ニタリと笑うエイトの態度が気に入らないのか、ハリスはそっぽを向いてすたすたと歩いて去っていった。
教会跡に戻るルート。エイトがどこにいるのか探しに来たのだ。また何かトラブルに巻き込まれては面倒だからだ。
「改造少女は?」
「向こうにいた」
教会跡。身廊の先にある祭壇の前に、リチャーズ達が待っていた。アンチ・クランのメンバーのほとんどが集まっている。
「野放しにしてるようなもんじゃない」
「作戦を開始するまで監禁すべきじゃないか?」
リチャーズの後ろに立っているメンバーから、不満の声。危険分子を傍に置いているのだから、当然のこと。監禁という提案も、何もおかしなことではないのだ。
「改造少女は約束は守るから、大丈夫。余計な事はするなって言っておいたから」
「そんな口約束ごときを守るというのか? 相手は人間じゃないんだぞ」
声を荒げて発言しているのは、リチャーズの後ろにいるカルロスという男。アンチ・クランの中でも古株なメンバーだ。
「改造少女は指示に必ず従うように教育されてる。トラウマを植え付けられてるはずだから、従ってくれるはず」
「だからって……」
「私もそういうことをされたから。信じてほしい」
自分が改造少女の出来損ないであることは、メンバーに公表している。
それを知ったうえで、アンチ・クランのメンバーはハリスをリーダーと認めているのだ。
公表した時、心臓が張り裂けそうになったのを覚えている。不安で押しつぶされそうになったが、仲間たちは認めてくれた。
そんな優しい仲間が、ハリスに抗議する。
「……ハリスの時とは違うかもしれないだろう!」
「そうかもしれない。でも、エイトを監禁しておくような技術も力もない。私達が一斉に攻撃しても、エイトは笑って一蹴する。本気になられたら、止められない。今は機嫌をとりながら、ここに留めておくしかない」
「本当に……そんな馬鹿みたいな強さだってのかよ」
「信じられないわ。だってワン・モアの組員たったひとりにボロ負けしてるじゃない」
カルロスだけでなく、他の構成員たちもハリスに疑問を抱く。ハリスのエイトへの接し方。改造少女に対して買い被りがあるのでは、と。
「……あの時のエイトは、笑ってたから。本気の時は、笑顔なんてない。改造少女が本気になると、何も見えてないような表情で、周囲のモノを壊し続ける正真正銘、本物の怪物になる」
ハリスは呟くように小さな声で言うが、構成員全員に聞こえていた。
ハリスは嘘をつかない。アンチ・クランのメンバー全員が知っている事実だ。
これまでハリスの言葉が間違っていたことはない。だからアンチ・クランはハリスをリーダーと認めているのだ。確実な信用と実績がある。
「わかったよ……でも、気を付けてくれよ」
「気を抜くつもりはないよ。相手は完成品なんだから」
自らが改造少女の不良品であることを認め、受け入れているハリスこそが、改造少女の恐ろしさを身を持って知っている。他のメンバーは本当の恐ろしさをまだ体感していないから、ハリスの意向に従うことにした。
「とりあえず、作戦会議を始めようか。みんな揃ってるかな?」
アンチ・クランに階級などは存在しない。リーダーであるハリスを除いて、全員が対等な立場である。それでも、古株と新規のいさかいは多少ある。
「オルトンがいないな」
「どこ行った?」
「……いないのはオルトンだけか。まぁ、彼のことだからあとで来るだろう。先にはじめてしまおう」
リチャーズの発言にハリスを含め全員が同意する。オルトンは心優しく、滅多なことで怒ったりしないから、そういう理由だ。
「全員分かっているとは思うが、改造少女を利用した作戦だ。綿密に、いかなる状況をも想定して考えねばならない。繰り返すが、改造少女だ。ヤツの場合、石橋を叩き過ぎるということはない」
「リチャーズの言う通り。みんな自由に考えを言ってくれていい。みんなで考えて、相談して、作戦を練っていこう。ワン・モア壊滅のためにも」
ハリスの言葉に、全員が同意する。ワン・モア壊滅こそが、アンチ・クランの悲願だから。一度きりの作戦を、絶対に成功させる。一回の作戦で、壊滅させる。それが目標だ。
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