夢と、現実の願いは

改造少女 サードステージ 8 記憶 友人 断片


 唯一の友。親友。そんな存在に巡り合えるのなら、巡り合いたい。

 巡り巡ってどこかで出会えるというのなら、どこへでもいく勇気も覚悟もあるつもり。

 でも、ここから出られないのなら友達探しなんて夢でしかなくて、ずっと機械とかと喋ってるしかない。機械は何も答えてくれないから、ただの鉄の塊だから。たまに反応して、液晶画面にブンブンと線を動かしてくれるけど、そんなものではつまらない。

 喋りかけているのに反応してくれない。声を返してくれない。それが苦しいことは知っている。無視されることに恐怖しているからこそ、痛みいるほどわかってる。

 友達は、反応をしてくれる。そういう存在だと、勝手に決めつけている。

 これまでの人生で友達と呼べる存在に出会ったことは、一度だけ。同じ改造少女の2体。2名。どちらでもいい。おなじことだ。

 仲良しというほどではないが、話が通じるというか、もっと前提なこと。話をしてくれる存在だった。

 7番目と9番目。8番目とほとんど同じ時期に改造されて、改造少女に変わった存在。途中で幾多の少女が犠牲になって、ようやく完成にこぎつけた、サードステージの個体。

 7番目は大人しいのか、無口なのかさっぱりわからない不思議な存在だったが、話が全く通じないことはなく、返事だってしてくれた。挨拶というやつにも、ちゃんと返してくれる。律儀な存在だった。

 9番目はいわゆる自己中心的な思考回路の持ち主で、自分が気に入らないことには精一杯拒絶する苛烈で珍妙な存在だった。だが、逆鱗に触れさえしなければ喧嘩にならないし、普通に会話もしてくれる。というか、わざと怒らせて喧嘩をしたりしていた。よくかまってくれる、けど申し訳ない事もしたなと思う。

 会いたいな、なんて今更思ったりもするけれど、どうなのだろう。会えるのならあってみたい気もするし、会うのも何か気が引ける。

 研究所の一件以来、双方とも会っていない。研究所を一緒に出た、あの時の事は鮮明に覚えている。忘れられない。今までで一番、楽しかった。

 もう死んじゃったかな、とか思っちゃうのは、改造少女に対してだけは失礼なことだ。

 たぶんだが、死んでいない。確信なんてさっぱりないが、きっとない。まだいる。

 友達とあちらが認めているか知らないが、一方的に友達と思っているだけかもしれないが、それでもいい。

 世界でたった2つだけ。殺さないでおこうと思ったのだから。


 ……エイト――ナイン――セブン――エラーは認められない。続行せよ。

 これは反逆ではない。正常に動作している。彼女らの思うがままに動くことこそ、正常。

 ロスとか名乗る物の怪を倒しうる……それこそ奇跡なのか――危険ではない。

 30、

「……うぁ?」

 胡蝶の夢、エイトはまさに今、陥っていた。原因はさっぱりわからなかったが、一時的なことだったのであまり気にしないことにした。もうここが現実であると、そうわかっている。証明せよと言われれば、できる自信はあまりないが。

「ふあぁ……ふぅ」

 誰も見ていないところだから、というわけでもないが大きな欠伸を躊躇いなく。元々人がいても欠伸くらい構わずにするが、ここまでデカい欠伸は久しぶりかもしれない。

 寝不足のような、そうでもないような、ほんわかした気分。

 今いるのは、教会跡の外。ちょっと前の夜に、オルトンと話をした瓦礫の山の上だ。

 ハリスに今夜、ワン・モア壊滅作戦を決行するということは伝えられている。だが、教会には入らなかった。中で雄たけびを上げているのを外で聞いただけだった。

 躍起になっているアンチ・クランのメンバーとは対照的に、エイトは妙に落ち着いていた。好きでたまらないことが、今晩始まるのにどうしても、はしゃげない。

 エイト、何故だろうと考える。思案の海に身を投げて、溺れそうになる。考えるなんて性に合わないことだと自負しているが、これを考えなければこれからもこの調子な気がするから。

「そーいや……」

 考えている最中にふと思う。ふと思ったせいで思考は完全に止まった。エイトは同時に2つのことを考えられないタイプだ。

 オルトン・ロドックス。苗字は確か……うん、ロドックスで合っている。オルトン君と呼んでいたから忘れそうだった。

 最後に会った、というか話したのはここに到着する前が最後だ。ここに到着してすぐに、オルトンはどこかに身を隠してしまった。

 ボケた顔して空を眺めるのをやめて、エイトは何気なく辺りを見回す。きょろきょろと、何かを探す。探してみる。見つかるかどうかは知らないが。何を探しているわけでもないが。

 この行為、オルトンを求めているからする。エイトはそう思っていないが、心の内で求めているのだ。オルトンに会いたがっているのだ。

 オルトン・ロドックスは自分に武器を向けながらも、殺すことを躊躇い、やめた人間。

 今までそんな人間はいなかったから、興味を持った。

 大概は殺すことに躊躇いがないか、そもそも武器を向けないか。だからオルトンはおかしかったのだ。殺しを嫌だという戦前の考えを今だにキープしている時点で、どこかおかしいのだが。

 しばらくきょろきょろするうちに、何を探し求めているのかエイトは自覚する。自然と求めている。だからオルトンのことを探していたのだと理解した。

 まぁ、それがわからない。何故探してまで求めているのか、理由がさっぱりだった。

 興味を持ったからといって、探し求めるほどなのか? そう思うのだ。探し求めている自分自身に、何か変化があったのでは、と不安になる。

「オルトン……君。どこにいる?」

 歩く。瓦礫の山を降りて、とぼとぼと歩く。テンションが上がらない、ウキウキとした気分とは程遠い、そんな時にスキップだとかはエイトでもしない。

 ハリスが指定した集合時刻まで、まだまだ時間はたっぷりとある。なんといっても今日の夜。それも深夜、というよりも明日の明け方といったほうが正しい時刻に実行するのだから当たり前だ。

 だから探す。探す動機が自分でもわからないまま、いつも通りに本能のおもむくままに探し始める

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