番外・8番目・零細

改造少女 サードステージ 8 記憶 破片


 恐ろしいことは、誰にも興味を示されないことだ。それが何より怖い。

 相手にされない。無視される。体験したことがあるけれど、あれは驚異的なほどに精神を蝕んでいくウイルスだ。人間がしちゃいけないことだ。

 それが怖くて怖くてどうしようもなくて、延々と続けられたらどうしようと思って、さらに心が深く沈む。

 自分だけに課せられる特別な罰。暗い闇の中に閉じ込められる罰が一番嫌いで、効果的に心身を傷つけられた。

 痛みとか、苦しみとか。そういうのがまるで幼児の遊びのように可愛らしく、不快感もなかった。むしろ心地よく、高揚する。だから罰にならなかった。

 他人にちゃんと視認されて、触れられて、言葉をかけられるから、むしろ受け入れるべきだと、そう思っている。きっといつまでもこれは変わらない。もうこれが自分だ。

 だから、真逆のことをされる罰が怖かった。他人から拒絶され、無視されて、触れてすらもらえなくて、人の言葉を忘れてしまうくらいに、長い時間閉じ込められるのは本当に苦しくて。明るい場所にでたら泣いて喜んだほどだ。

 トラウマ。狭く暗い場所はいきたくない。夜なのはまだ我慢できる。夜の暗闇に比べたら、閉じ込められたときの暗闇のほうが万倍だ。

 こんなだから、戦いが好きになっちゃったんだ。

 怪物らしく、改造少女であるために必要なことを、自発的に兼ね備えられてしまった。

 人を殴ると、ちゃんと人の肉の感覚を体感できるから好き。蹴っても同じように体感できるから好き。人を感じられる素晴らしい力、それが暴力。

 暴力を好き好むのは、人に見てほしいから。かもしれない。

 暴力は手っ取り早く、自分という存在をアピールできる手段だ。だから暴力を振るい続け、反撃も受け続ける。

 反撃するという事は自分を認識してくれているという事だから、やってくれたらすごく嬉しい、尚且つとても心地いい。

 こんなに暴力が素晴らしいものだと知った。だから暴力され振りかざすことができれば何でもいい。どんな指示にも従うし、どんな奴だろうと殺せる自信がある。

 人の心を振り向かせる。

 それが本質。寂しい気持ちが抑えられないから、暴力に走っている。それしか手段を知る由がなかった。

 改造少女という修羅の生を背負っているから、こんな選択を不幸とも思わない。当たり前だと、軽く受け流してしまう。

 人に心を向けてほしい。ちゃんと認識してもらいたい。嘘なんかじゃない存在を。

 嘘はつかないから。そうしないと罰を思い出すから、絶対に嘘はつかない。

 だから、信じなくてもいいから。自分への好意なんて夢だって知ってるから。身の程はわきまえてるつもりだから。

 罰じゃない。人間なら当たり前らしいことをしてほしい。親と子、友達同士。そんな親密じゃなくていいから。怪物だって知ってるから、無理だってわかってるから。

「心から振り向いて、認めてほしい。この存在そのものを、肯定する人を求めてる」

「現れてくれることを、願っている」

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