戦いこそが至高、それしかやることもない幸せ

ハリス率いるアンチ・クラン。規模はそれほどでもないが物資はある。少ないがないよりいい。チャンスをうかがうには程よい組織だ。

「ここで座ってるものなんだし、ちょいと外へ出てもいい?」

「……おススメしない。君ももう、ワン・モアにマークされてるだろうから危険。民衆ならまだしも、本隊にでも見つかれば……」

「本隊? どういうこと?」

 エイトにはワン・モアの組織図が見えてこない。エイトは座りなおしてハリスの話を聞くことにした。

「……ワン・モアはボスのモナクが率いる団体で、元はモナクが指揮してた軍隊だった。それがこの街を支配してる」

「あの集まってた群衆は何? まさか全部元軍人?」

「いや、あの人たちはただの一般人。ワン・モアの指示は絶対で、逆らったら刑罰を受けさせられるから、みんな従ってるんだ」

「……刑罰ってのは、もしかして石打ちのこと?」

「もしかして……もう見てんの?」

 エイトは頷いた。街に来てすぐ、見たあの光景を思い出す。血みどろのあの場所は、今思い出してもぞくぞくする。

「石打ちがワン・モアなりの罰の与え方。ワン・モアの法を犯したヤツには全員で罰を与えようって、モナクが決めたことなの」

 ひとりに対して数人での、罰。もはやリンチと言っても差し支えない。

「へぇ……どうせ拒否できないんでしょ」

「できる……けど次の石打ちに決定しちゃう。だからみんな一人に石を投げるしかない」

 石打ちの恐ろしいところは、肉体的にも精神的にも疲弊させるところだ。今まで友人だった者や家族から石をぶつけられる孤独感。それを死ぬまでやられる。これ以上の苦痛はなかなかないだろう。

「……少し、話が逸れたかもね」

 石打ちの話は、ハリスは嫌いだった。非人道的な刑罰はあってはならないと思っているからだ。テンションが少し落ちているが、話すのに支障はない。

「ワン・モアは元軍人の組織。そんで、その元軍人たちはみんな武器で武装してる。それが本隊。ナイフとかクロスボウとか、火炎放射器とか。銃を持っている奴もいる。だからみんな逆らえない。反逆する気すら起きなくなってる」

「へー……大変だね」

 エイトはまるで他人事のように返す。

 その態度が、ハリスの癪に障る。

「ワン・モアについて大まかに話したけどさ、許せないって思わないの?」

「どうして? 許せないって、何に怒ってんのさ」

「人を暴力で支配するような連中なの! 気に入らない奴はみんなに殺させて、心に傷を負わせる。従わないヤツは直接手を下したりする! そんな暴力を認めるっての?」

「認めるって、そういうんじゃなくてさ……」

「何よ?」

「暴力じゃないと、人間ってスムーズにまとまらないでしょ。暴力は人を支配するのに便利なものだしさ。そんな便利なもん、使うのは当然じゃん。許すも許さないも、決められないよ」

「暴力は悪。便利であっても行使するものではないと思う」

「暴力に悪も善もないよ。ただの手段なんだから。暴力が悪なら、アンチ・クランもワン・モアと同じだよね」

「私達は違う。ワン・モアの殲滅にしか使わない。そしてその後に償いをすると決めてる」

「アハハ、その償いは気を付けたほうがいい。みんな、気持ちが爆発するだろうからさ」

「どういうこと」

「君たちがワン・モアを倒したら、すぐにわかるよ」

 エイトはそう言い残して立ち上がり、アンチ・クランのアジトを出ていく。

 ハリスの胸には、モヤモヤが残る。エイトの言葉の意味が分からなかった。


 7、

 エイトはすでにワン・モアに顔が割れている可能性がある。しっかりとローブで身を隠し、フードを深く被る。

 ギヨナタウンの街並みを見に行く。そう言ってアジトから出てきた。

 それは真っ赤な嘘で、どこかに誰かが隠している食料だとかを奪いに行こうという魂胆だ。

 アンチ・クランからそのうち提供されるが多いに越したことはない。どこかで物資をさっさとトンズラするのがいいと判断したのだ。

 歩きながら匂いを探る。もうすでに街の風景は見飽きるほど歩いた。

 教会跡から結構離れたところまで歩いてきた。

 まったく食べ物の匂いがしない。少しくらいしてもいいのにと心の中で愚痴る。

「そこの人、ちょっといいかな?」

 後ろから突然、声をかけられる。聞いたことのない声。

 ゆっくりとエイトは振り向く。顔は見せないように慎重に。

「失礼、俺はワン・モア所属のギオーナ・ドゥームジアという者だ。ちょっとお聞きしたいことがあってね」

 筋肉ムキムキの大男。上半身裸の上に黒い皮ジャンに下は青色のジーパン。短髪サングラスの強面だった。

「なんでしょう?」

「この辺で白い髪の女の子を見かけなかったかい? 探してるんだ」

 エイトの髪は白。もしかして、と予感してしまう。

「見かけませんでしたけど……どうかされたんですか?」

「ウチのボスが探せってね。改造少女って、知ってるかな? どうもソレらしくてね」

「改造少女……? ちょっとわかりませんねぇ。白髪の女の子でしたっけ? 見かけたらお知らせしますね」

「身長は君と同じ位だ。すぐにわかると思う」

 沈黙。

 ギオーナと名乗る男はジッとエイトを見ていた。

「あの……すいません。もう用件は終わりましたか?」

「もう少しだ。そのフードを取ってくれれば、君に感謝してこの場を去ろう」

 ギオーナはにこやかだった。故に表情が読めない。疑っているのは間違いないだろう。

「……白髪の女の子、見つけたらどうするおつもりで?」

「捕獲してボスのとこに連れていく。多少の傷もやむなしってね。なんせ改造少女だから、ある程度戦闘を覚悟しないと」

「あぁ、戦うんですか」

「戦うかもってだけ。もしかしたら友好的かもしれないけど、前見た限り話し合いの余地はないかなって思ってる」

「殴り合いの余地はあるんですねぇ……うふふ」

 熱いものがこみ上げてくる。心がふつふつと湧き上がる。

 目の前にいるギオーナという男、パッと見ただけで強いとわかる。それが原因で、エイトのテンションが上がっていく。

「無駄話はやめて、フードをとってくれないか?」

「えぇ、とりましょう」

 ふぁさぁ、とゆっくりと顔を晒すエイト。

 ギオーナの表情は無くなった。エイトの表情は口元だけ引きつっていた。

「改造少女……! やはりいたか」

「えぇ、いますよ。都市伝説なんかじゃありませんからねェ、知り合いにも後何人か」

「お前を拘束する」

「そういや名乗ってなかったぁ。改造少女の八番目、エイトでーすゥ」

 エイトのボルテージはマックス。テンション最高潮。

 暴力。それがエイトの望む全てであり、生きる糧である。

 だからテンションが上がる。本人も自覚している。止めることの出来ない衝動である。

 エイトは先ほどハリスに暴力は手段であると、そう言った。

 エイトにとって暴力は生きるための手段であり、積極的に振るうべき力である。

 ギオーナとエイトの拳がぶつかる。

 お互いに敵だけを見ていた。今から倒すべき敵。楽しむべき時間。

 二人の戦いが始まった。

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