超戦闘兵器改造少女は、人間作戦実行中だからって危険はありませんか?

有機的dog

ただ頑張ることだけで、街を目指して

 0、

 数年前、世界は炎に包まれた。

 人類同士の醜き争いが、世界を荒廃させた。動植物全てを薙ぎ払う勢いで、人々は憎しみをぶつけ合ったのだ。

 そして現在。人類は激減こそすれ絶滅はまだしていなかった。

 人々は地球の怒りを受けた。賢明な者達だったなら、平和に過ごせていただろう。たとえ世界が滅びかけていたとしても、助け合いを忘れなかっただろう。

 だが、人類は愚かだった。

 貴重な食料や水、燃料を奪い合う。憎悪の火炎の時代を超えてなお暴力を愛する人類は、愚かと言うほかない。


 1、


 無限に続く荒野。草一本生えていない不毛の大地。

 一人、歩く姿。土くれを踏みしだき、ただただ前と下を見て歩くその姿はきっと、平和な時代には馬鹿にされるだろう。もっと夢を見るように歩けと、諭されるだろう。

 だが今はまるで平和でなく、狂気の時代。誰もがこうして歩いている。決して上を見ることなく、後ろを振り返ることなく生きている。

 喉が渇きを訴える。腹もそろそろ背中とくっつきそうだ。歩こうとする意志だけで、身体を前へ前へと進ませている。限界などまだまだと自分を奮い立たせる。

 飢餓に苦しんでいるのは、何もこの者だけではない。この世の中、空腹など日常茶飯事。飢餓状態など誰もが経験し、誰もが現状に苦しんでいる。

 何せ、水がほとんど干上がってしまっているのだ。いつでも水が飲めた時代など、もはや昔。蛇口や水道管だけはそこら中に残っているが、ただ見つけて虚しい代物だ。

 水がないから草もない。木など見たことがない者もいる。野草や果実で満腹になるのは現人類の儚い夢。緑の大地を懐かしむだけで、満腹になれたらどれほど幸せか。懐かしんで得られるのは一滴くらいの涙という水。それっぽっちしか得られない。

 干上がった土くれの大地。生命の鼓動のない、現世の地獄。

「はぁ……はぁ……」

 渇きと空腹に加えて、照り付ける太陽が熱すぎる。太陽から発せられる熱線は地面すら音をあげて屈服している。だから太陽に媚びるように、地面も熱をじわじわと発している。

「くそ……!」

 数時間ほど前に空になった水筒を、憂さ晴らしに叩きつける。首にかけるタイプの使いやすい水筒だったが、空っぽの水筒など目に映るだけで腹が立ってきてしまう。

「ちくしょー……こんなはずじゃ」

 ローブというより汚い布。それを日よけにしている。これがなければ熱中症で倒れて、そのままお陀仏だ。

 食料もない水もない。移動手段は徒歩に限られている。そしてそのうち夜が来る。夜は昼間と打って変わって肌寒くなる。野宿しようにも何もない。燃やせるものが何もない。

 どうしようもない状況。嘆いても何も変わらない。

 数時間前はフル装備だった。リュックサックに缶詰を入れるだけ入れて、水だって満タンの水筒を数本用意していた。そして移動用のバイク。燃料は心許なかったが、目的地までなら辿りつける。

 バイクで風を切りながら疾走していたころは心地よかった。重さを気にしなくてよかったからだ。これなら簡単に目的地まで行けると調子に乗っていた。

 調子に乗っていたのが不味かったことに気が付いたのは、すべてを失ってから。

 途中で少し疲れて眠ってしまったのだ。ちょっぴり仮眠という奴をとりたくなったのだ。長い時間運転しっぱなしで、景色も変わり映えがない。眠気が来るのも無理はない。

 だが、その眠気はこのご時世では命取り。雪山で眠るよりも危険といえる。

 かっぱらいにあった。

 寝ている間にバイクの鍵をとられ、エンジンをかけられた。起きた時にはすでにバイクが走り出そうとするタイミング。制止の声も聴かずに走り去っていった。

 追いかける気にはならなかった。何故なら、バイクにはセーフティがかけられていた。正式な手順でエンジンをかけなければ、爆破装置が作動して、ドカン。

 盗まれて途方にくれていると、遠くから光と爆音が聞こえた。そこそこ大きな爆発。盗人も死んだだろう。物資もまとめてお陀仏だろう。

 自分が招いたこの事態。自分が悪いのはわかっている。油断したのは反省すべき点だ。だからといって、イラつきを抑えろというのは無理だ。自業自得でも、イラつきがある。自分への怒りではなく、盗人への怒りのほうがでかい。

 これでもラッキーだったほうなのだ。

 酷いのは身ぐるみを剥いで、男なら即殺。女なら犯してから殺す。そしてその場で豪遊される。清々しいまでの強盗が、ゴロゴロいるのが今の時代。

 だとしても、そんなラッキーはどうでもいい。

 憤怒の気持ちを抑えず、ただ地面に向かって当たり散らすように歩き続ける。それしか楽しみもない。なんなら空腹も渇きも忘れられるかもしれない。だから強く踏みしめている。

 しばらく進んで、おもむろに地図を取り出し位置を確認する。

 目的地である街まではもう少し。そこにいけば少しは腹も膨れ、水ももらえるだろう。地図は道しるべであり、希望だ。

 ほんのり体が軽くなる。腹に何も入っていないからかもしれないが、とにかく歩くのが軽やかになった気がした。まるでバレリーナのようにピョンピョン跳ねまわれそうだ。

 さすがにそこまでテンションが上がらなかったので、早足で進む。

 夜になるまで、時間はあるがもたもたしていられない。強盗などに目をつけられている可能性を考えて、さっさと街に入ってしまいたい。

 戦うという手段は、少なくとも喉を潤してから。そうでないと勝てる喧嘩も勝てなくなる。喧嘩には自信があるのだ。

 ボロいローブの者は、地図を見ながら歩いていく。そしてふと前を見ると、ちょっとした丘を発見した。

 高い位置から街を探すことにして、丘を登っていく。足場は悪いが、泣き言は言わない。たかだか岩の塊に、足場なんて上等なものを求めるほうが間違いだ。

「……あった」

 太陽に目を焼かれそうになりつつも、発見する。目的地のギヨナタウン。あそこなら充分な水と食料が手に入る。欲を言えばバイクか車、それと燃料を手に入れたいと思っている。

 この時代、徒歩移動は自殺行為に近い。普通の人間なら死んで、亡骸は野晒しにされていただろう。

 予想外の風が吹く。顔を隠していた布がはだける。

 真っ白いショートヘア―の髪がたなびく。目に砂が入らぬように手で覆い隠す。

 そして風が止んだ。奇妙で可憐な少女がいた。右の青い瞳が神秘的で美しいのだが、左の瞳は真っ白で、ほとんど見えていない。だが、少女は特に気にしていない。もう見えないことに慣れてしまっているからだ。

「ふぅ……」

 安心からため息をつく。ローブを被り直し、丘を降りる。

 あと数時間もしないうちに到着するだろう距離。飢餓状態ともさよならできる。

 腹の虫が鬱陶しく鳴いてやまない。もう少しで食事にありつけるとわかると、ひどく急かしてくる。

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