第37話 事象:ITにおける真夜中の邂逅について
さて、そんな訳で飯を食った俺達は各自の部屋に戻ったわけだ。
当然俺はエリスちゃんを守る為、もとい、アリアの事について聞くために冒険者ギルドに向かった。
うん。向かったはず――なんだが。
「えっと、エリスちゃん……? これはどういうことで?」
俺は今、猛烈に命の危機にさらされていた。
目の前には――アリア。あの蒼い剣を携えた少女が俺を突き刺すような視線で見て、ついでに尻餅をついた俺の喉元に剣を突き付けてきている。
冒険者ギルドから三本離れた路地の裏。
そこでエリスちゃんを見つけて意気揚々と声を掛けに行ったまでは良かったものの、俺はアリアに瞬時に壁際に追い詰められていた。
「……アリア。ちゃんとお話しするって言った」
「ちっ……」
おいこら。舌打ち何てしてんじゃねぇよ自称勇者め!!
「エリスちゃん、この人って、もしかしてもしかしてなんだけど、本当に認めたくないんだけど――同居してるアリアっていう人?」
こくり、と頷くエリスちゃん。
ああ、なんか、悪寒しか走らないなぁ。
「呼び捨てにするな。クズ」
「ク……クズ? てめぇ――」
「……落ち着いて。ほら、アリア?」
一度俺とアリアを引きはがすエリスちゃん。
そんなエリスちゃんに、アリアは納得がいかないようだ。
「これが落ち着いていられるか!! アイツが私の聖剣を奪ったんだ!!」
「だから、聖剣とか知らねぇっつーの!!」
「……今日は生活費を稼ぎにいくって、私は言ったはず。それについてくるって言ったのはアリア。同行する人がどんな人でもちゃんとお話しするって約束した。私、約束破るアリアは嫌い。そんな態度続けるなら、もう『アレ』してあげないよ?」
おいおい、ソイツは嫌いとか好きとかで止まるような女に見えないぞエリスちゃん!!
今すぐ離れないと危険だ!
「くっ……エ、エリスがそういうなら――」
「あ、それで止まるんだ」
「ごめんね。えと、アレン、さん?」
「あ、ああ! 名前、憶えててくれたんだな」
「うん」
「これから、冒険行くんだよな? えと、エリスちゃんと俺と二人で?」
エリスちゃんの後ろから剣を抜く音が聞こえた。
ヤバイ。これはヤバイ。
「……ちがう。アリアにアレンさんのこと話したら、依頼を受ける時に連れていけってうるさかった。ダメ、だった?」
「イヤ。全然ダメジャナイヨー」
エリスちゃんの後ろに見える般若がクソ怖い。
死ぬ。正体不明の圧力で俺死んじゃう。
「よかったぁ……それじゃあ、依頼受けに行こ? ほら、アリアも行くよ?」
「エリスがそう言うなら……私に拒否する権限はない」
そう吐き捨てるアリアは、俺に嫌悪感剥き出しの視線を浴びせてきた。
とてもじゃないが、その瞳を見る限り【光の神に導かれし勇者】だとはとても思えない。それほどまでに邪悪で、醜悪な感情を湛えた視線だ。
こいつ、何をそんなに抱えているんだ?
「……じゃあ、行こ?」
ただ一つ言える事は、エリスちゃんはやっぱり天使だと言う事だけか。
―――――
「遅い。いつまで待たせる気なんだ」
「……ごめん。依頼、たくさんあって」
冒険者ギルドの中で依頼を受けた俺とエリスちゃんは、外で待っていたアリアと合流した。
ギルドの中でそれとなくアリアについて聞いてみたけれど、返ってきたのはただの同居人という返事だけ。
勇者だとか、聖剣だとか、そういう話は聞けなかった。
「ちがう。私はエリスじゃなく、そこのクズに言ったんだ」
「またクズ呼ばわりかよ……なぁ、アリア。俺、オマエにそんなに変な事したか――」
気付いたら、またもや剣が喉元にあった。
何て速さだ。剣を抜いた事すら分からなかったぞ。
「次に……私の名をその汚らわしい口で呼んでみろ。その首、吹っ飛ばしてくれる」
「へ、へへっ……随分機嫌悪いんだな?」
そんな悪態を吐くことしかできなかった。
エリスちゃんはやれやれ、といったふうに肩を竦めている。
「……アリア?」
「勘違いするなエリス。私はこいつが気に入らないだけだ」
「仲良くしないなら、同じ。剣をしまわないと、怒る」
「エリス。聞いてくれ。こいつが聖剣の在処を吐かないんだ。確かにコイツからは【聖剣】の匂いがするというのに、だ。その理由を問いたい。ただそれだけだ」
「だから、知らねぇっつーの!!」
「まだシラを切るというのか……お前は!!」
その時だ。
エリスちゃんがアリアの腹をグーで殴ったのは。
周囲に響き渡るほどの重低音は、とてもじゃないがエリスちゃんのあの細腕で殴った音とは思えなかった。
けれど、確かにそれはエリスちゃんの手によって引き起こされている事象なわけで。
「ぐっ」
アリアの顔が痛みにゆがむ。
あぁ、なんかこれ、俺も似たようなことされたような、されてないような。
とにかくなぜか涙が出てきた。
痛そうだし。
「……いい加減にしないと、もう口聞いてあげない。アレンさん嘘ついてない。それに、アリア何か変」
「かっ、はっ……!」
いや、エリスちゃん今その人に何言っても無駄じゃないかな?
痛みで地面に蹲ってるもん。
「聞いてる? アリア」
「す、すま、ない」
その言葉を聞いて、ようやくエリスちゃんは機嫌を直したようで、にっこりと笑顔で俺に微笑んだ。
「……アリアもこう言ってる。許して?」
「あ、ああ……それより、アリア――さん。大丈夫なのか?」
またも鋭い目つきでアリアに睨まれたので思わず【さん】づけで名を呼んでしまった。
なんてことだ。
俺が気圧されるなんて……。ちょっと悔しい。
「クズに心配されるほど、軟弱ではない……! それよりも、だ! エリス。今日の依頼は何をうけたんだ?」
わずか数秒の内に回復したというのか。こいつは。
強いなー。うん。俺、この人とは絶対戦わねぇ。つーかやってらんねぇ。
今日を境にして、名残惜しいけどエリスちゃんとは別々の道を歩いたほうがいいかもしれん。
エリスちゃんは可愛いけど、アリアはヤバイ。
俺の命が危険だ。
「……今日の依頼は、魔族の捜索」
「魔族。そうか。反応があったんだな? いいぞ。私がぶち殺してやる」
「おーい、今回の依頼は捜索だけで、討伐は含まれてないぞー?」
不穏なことを言ってやがったのでアリアに突っ込みを入れてやった。
さて、ここで確認しよう。
依頼の内容は、魔族の捜索。依頼主は冒険者ギルドだ。
「弱気なものだな。それでも男なのか? ああ、すまない。お前はクズだったな」
「またクズとか――! つーか男とか女とか関係ねーから! 今回の依頼は、目撃証言があった魔族の捜索! このままじゃ魔物が押し寄せて来るかもしんねーから、捜索してくれって話だよっ!!」
「フン。冒険者ギルドも腑抜けたものだな。魔族が出たと聞いたら、冒険者ギルド全員を総動員して事に当たらせるものだろうに。まだ楽観視のクセが抜けないのか」
ぶつぶつぶつぶつうっせーな……こいつ。
もう、俺気にしないことにする!
アリアとかもう知らん!
「……そう、だね」
俺はその時知る由もなかった。
この時の依頼を受けたことによって、まさかあんなことが起こるとは――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます