第?話 事象:ITにおける舞台裏のお話について
「ただいまもどりました」
地球のある世界を統括していた女神の若き一柱、エリアンテネットは今しがた遂行してきた任務を報告するため、彼女がクソ神と呼んでいた上司の元へと戻ってきた。
「よくもどったな。エリー。彼はどうだった?」
四畳一間の和風な部屋。そのど真ん中にあるこたつに入りながら、彼――オーディンはエリアンテネットに問いかける。
「よくわからない男でした」
「いやいや、朕の世界から抜け出すことに成功した唯一の人間だよ? 彼は。それをよくわからない男とは、いったいどういう事だい?」
「――いえ、本当に、よくわかりませんでした」
要点を得ない彼女の報告に、彼は少しばかり苛立った。
「なぁ、エリー。【死者の選定】のバグで人間が一人、異界の神が統治する場所へ行ってしまったんだ。もう少し詳細の報告はないのかい? どういう男だった、とか、クズだとかアホだとか」
「ありません。彼については全てが不明です。存在自体がブラックボックスに包まれていました」
「ブラックボックス? 解析の女神であろう、君でも解析ができなかったというのかい?」
「ええ。不覚にも――彼に好感までをも覚えてしまうほどに、彼は良くわかりませんでした」
「それで彼を消滅させることはできたのかい?」
「いえ、できませんでした。我々神の側から、彼への干渉は全て不可能です。たとえ最高神様であっても彼に手を出すことは敵いません」
もう、限界だった。
淡々と答える彼女にも、その意味不明な男にも。
今まで具体的な事柄ですべて返してきた彼女にしては、ありえない程雑な報告だ。
反旗を翻そうとしているのではないかと思ってしまうほどに。
「ならば――どうすれば良いと考える?」
「私にはわかりません。それに、もう私に彼は殺せません」
オーディンは耳を疑った。
いま、こいつは何を言った? と。
神であるものが、人間一人も殺せないなどと言う神経が分からない。
「理由は?」
「彼の子を――孕みました」
「は?」
「ですから、彼の子を――」
「いやいや、ちょっと待ってエリー! お前は確か鉄の処女神として朕が作ったはず! なぜ孕む!?」
「胸を揉まれました――ええ、それはもう、昇天するかと思うくらい気持ちよかったんです」
「……その胸、揉まれたの?」
「ええ、それはもう情熱的に。首筋にキッスまで落としてきましたもんあの人。もう、私あの人なしじゃいられませんので、貴方の部下でいる事を辞めますね」
「胸揉まれただけじゃ孕まな――」
「いえ、孕んだんです。私の内に――彼が残した確かな遺伝子が脈動してるんです。では、わたしもあの異世界へと向かいますので、あなたとはこれっきりです。その、変に馴れ馴れしいしゃべり方、とってもうざかったです☆ それじゃあ、さよなら」
一方的にエリアンテネットが告げ、彼女はその姿を消した。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!? ただの人間に、朕の大事な大事な女神が、取られた――だとぉおおおおお!? いやいや、確かに朕はまだエリーとはねんごろな仲ではなかったがね!? これから落そうとしてたのに! くそおおおおおおおおおおおおお!!」
取り残されたオーディンは涙声で雄叫びを上げるだけだった。
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