第17話 事象:ITにおける忍者エルフの役割について
一抹の不安を抱えながら、俺たちは冒険者パーティーの一員として加えてもらうべく、掲示板の前に来た。
どうやら先ほどまで呼び込み紛いの事をしていた忍者エルフは仲間を見つけたのか、掲示板の前に居なかった。
「……今、パーティー募集してるのは一組だけね」
クラウが随時更新される、電子掲示板――魔導掲示板だろうか――のようなものを指さして俺に教えてくれる。
募集しているパーティーの欄に【クリスタリアの導き】というパーティー名が載っていた。
「とりあえずこの冒険者パーティーに声を掛けてみようか」
「そうね。名前がなんだか痛々しいけれど……背に腹は代えられないわ」
「言ってやるなよ……きっと頑張って考えたんだって」
俺は誰に言うでもなくクラウに言い返してやる。
これからお世話になるかもしれんパーティーなんだ。
受け入れてくれれば、の話だが。
クラウが掲示板に近寄り、何やら操作をする。
すると、ギルド内に受付のお姉さんの声が響き渡った。
『冒険者パーティー【クリスタリアの導き】様。新人冒険者二名がパーティーへの加入を希望しています。代表の方は魔導掲示板の前においでください』
おお、こういう仕組みなのか。
え、もう冒険者の方々と会うのか。早いな。
「……なんか緊張するな」
「アレン、くれぐれも変なことはしないようにね?」
「分かってるって。俺でもその位は知ってるさ」
本当かしら、と言いつつクラウは笑っている。
これから始まる冒険者生活を楽しみにしているんだろう。俺も楽しみだ。
そんな感想を抱いていると人だかりの向こうから――見知った一団が現れた。
「……もしかして、アンタ達がパーティー志願者なの?」
「……」
俺はぐうの音も出なかった。
もうだめだ。
おしまいだ。
絶望した。
なぜなら、俺の目の前に居るのは――
「あ、白いパンツ視えるぜーってアレンに言われてたエルフの人じゃない。見るからに色気たっぷりなのにパンツは白なのね。かわいいじゃない」
「えーと、クラウさん? あなた一体なにを……」
クラウさん、ちょっと黙ろうか。
ほら、目の前のエルフのお姉ちゃんもう怒り心頭で、顔まで真っ赤だから。
あ、ほら、やばいよ、こっち来るよ。
「却下。アンタみたいな変態と失礼な猫なんてパーティーにいらない」
……ですよねー。
かくして、俺の冒険者デビューは遠のいたわけだ。
―――――
「もうこれからどうすりゃいいんだよぅ……断られんじゃねぇかとは思ったけど、本当に断られるなんて思ってなかったんだよぅ」
「アレンが悪いのよ。あの人にセクハラするから……」
「くそ、こんなことになるならもっと色々アイツにやっとくべきだったか……」
「この馬鹿。そんなだからパーティー断られちゃうのよっ!」
くっそ、これは何とかしなければならない。
俺のせいでクラウが冒険者になれていないのは事実。
なんとかしなければ。
周りを見渡す。
誰かいないか。
誰かいないのか。
冒険者パーティーを組んでくれそうな誰かは――!
「あなた達みたいな人はこっちからお断りでース!!」
「うるせぇこのエセ魔法使いめっ!」
「最初っからワタシ、忍者だと言っていまース! 勘違いしたのはそっちでース! ま、報酬はきっちり頂いたのデ、文句はないでース!!」
何やら冒険者ギルドの入口が騒がしい。
なぜかあの忍者エルフの声がする。
「もう二度と俺たちの前に顔を見せるなっ!」
「こっちのセリフでース!」
騒ぎが収まった時に取り残されていたのは、全身そのまんま忍者の恰好をしている人だった。
少女のような体つきをしているから、きっとあれは美少女に違いない。
そして、直感した。
アイツ、一端冒険者パーティーに入ったはいいけど、個性が強すぎてクビになったんだな。と。
来た。
これは好機だ。
あいつは確か冒険者ギルドの正式な会員だったはず。
「ねぇアレンまさか――」
「今日中に金を手に入れないと俺達寝る場所もない。もうこれしかねぇ。いいかクラウさん?」
「訊かないでよ……あんな得体の知れない奴、嫌に決まってるじゃない……」
「今夜寝泊まりする場所がなくて、俺と一緒に公園で寝る羽目になってもいいのか?」
「それは嫌。あのわけわかんない奴と仲間になったほうがマシ」
「じゃあ、決まりだな」
言質とってやったぜ!
来た。
これキタ! キタこれ!!
ついに――ついに、忍者エルフと話ができる。
そうして、俺と彼女は邂逅する。
目と目が合った瞬間、俺は悟った。
「――こいつ、できる」
「――こいつ、できるでース」
彼女も同じことを悟ったらしい。言葉が被った。
もう言葉は不要。
彼女が何を望んでいるのか、俺には手に取るように分かる。
そうして俺は、構えを取る。
忍者の――ポーズをっ!!
「君、忍者なんだってな! 俺忍者大好きなんだ!! ニンニン!」
「イェェェェェェェス!!!! ベッリィィィィナァァァァイスッッッ!! 忍者知ってる人初めてでース! ワタシも大好きでース! ニンニン!!」
俺と彼女はがっしりと握手をする。
「俺と君は仲間になるべきだ。そうだろう? ニンニン」
「その通りでース。受付で並んでいた時から、アナタはオンナ付だとあきらめてましたでース。ニンニン」
「ああ、その件については問題ない。あの娘は友達で、俺の彼女って訳じゃないからな。ニンニン」
「なるホド……! ワタシの名前はハンゾー・ハットリでース。ニンニン」
「よろしくな。えっと、ハットリでいいか? 俺はアレンだ。ニンニン」
「流石でース! そっちが名前だと見抜いたのもあなたが初めてでース! よろしくでース! アレン!」
恐ろしく忍者っぽい名前だな。いや、日本名に直すと半蔵服部になるから違うっちゃ違うが。
こいつは逸材だ。
やべぇ、超やべぇ。最後にハットリがニンニンつけるの忘れるぐらい興奮してるのもヤベェ。語彙が無くてごめん。重ねて言うが、俺、馬鹿なんだ。
「それじゃあ早速、外へ忍者の修行をしにいきまース!」
「へ?」
あれ、なんか俺、大変な間違いを……。
ハットリは力がすげぇ強い。
ちょ、ちょっとまって! 俺引きずられてる、引きずられてるから!!
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、そこの二人!」
クラウさん、やっと来てくれたか。
「はーイ? なんですかそこの幼気なガール? ワタシとアレンは修行にいくのでース! 邪魔しないでくださーイ!」
どうでも良いけどすげぇ巻き舌だ。
ネイティブすぎてガールが聞こえねぇよ。
どうでも良いな。
「意味わかんない言葉使わないで。私とアレンはもうパーティーなの! 手続しなきゃいけないのはあなたの方よっ! それに――」
「Oh。それは失礼しましたでース! 手続だけ済ませてきまース!」
クラウ言葉の途中で、忍者が――消えた。
「んなっ!? 師匠どこへっ!?」
「アレン! あんた何忍者とか言うのの弟子になろうとしてんのよっ!」
「ノリだよノリ。ニンニン」
「意味わかんない事言ってんじゃないわよっ」
ああ、蹴らないでクラウさん。俺にソレ逆効果だから。
しかし、ハットリは何処に行ったんだ?
「もどりましたでース! とりあえずそこのガールとワタシとアレンでパーティー申請してきまシタ! パーティ名は未記入でース! 後でいい名前考えといてくださーイ!」
「おあ!? いつの間に戻ってきたんだ! つーか早いな師匠!」
「チッチッチ! 甘いでース! アレン! ワタシの忍法を会得するにはこれくらいできて当たり前でース!」
顔半分が隠れているが、俺には分かる。
ハットリ、今すげぇ笑顔だぜ……!
俺はサムズアップして答えると、ハットリは同じ様にして返してくれた。
「さぁ行くでース! 今日は吉日でース! 二人も弟子が増えるなんて思いませんでしたでース!! 二人とも新米忍者ですカラ、丁寧に教えてあげまース! 他の熟練忍者達には厳しくしすぎましたでース!」
「おうさ、師匠! 俺は何処にでもついていくぜ!」
「もうあんたら、ついてけないわ……なんなのよ」
文句を言いながらも、着いてくるクラウさん。
前を歩くごきげんのハットリを後ろから眺める。
いつの間にかハットリを師匠と呼んでしまっている事に、俺は気付かなかったが、そんなことはどうでも良い。
仲間が無事増えたのだ。一人だけど。
だが、これは大きな前進だ。
「まぁ、こんなもんだろうな。さて、ついに冒険者生活の幕開けだぞ」
「ニンジャの弟子として……ね。ねぇアレン、どうなっても私知らないわよ?」
「なるようになれ、が俺の信条だ」
「まったくこの馬鹿は……」
まだ沈まぬ夕陽を見ながら、俺達三人は東門へと向かう。
「そういえば、パーティーリーダーはアレンでース!」
「へ!?」
「ワタシ、面倒なこと大っ嫌いなんでース! よろしくでース!」
さて、新米なのにいきなりリーダーやらされてんだけど。
どうすりゃいいんだこれ。
とりあえず、隣でクラウさんが『こんな奴とパーティ組むからよ』と眼で責めてくるのがたまらなくかわいかったとだけ言っておく。
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