第19話 事象:ITにおける魔物との戦闘行為について

※注意

 この回は少しとは言わず、かなりグロい表現があります。戦闘・血まみれ・シリアスが苦手な方は読み飛ばしていただいた方がよろしいかと存じます。

 なお、ストーリーの内容ですが、次の話で何があったかは説明を入れる予定です。


―――――


「はーイ! みなさん武器は構えましたネー!?」

「おうっ!!」

「準備はもうとっくにできてるわ!」


 ハットリの呼びかけに答える俺達。

 ゴブリンは何やらこちらの様子を伺っているようで、げぎゃぎゃ、と変なくぐもった声を上げているだけだ。


「それでは見本をみせまース! ウンディーネさんお願いしまース!! 水遁の術でース!!」


 瞬間、ゴブリンの足元から水柱が伸びる。

 その勢いは凄まじく、ゴブリンが身体ごと空中に打ち上げられる程だ。


「おぉ、すげぇなハットリ! 逃げるための遁術なのに攻撃してるけど!」

「Hoooooo!! cool !! yeah !!」


 天高く打ち上げられたゴブリンを見て興奮した様子のハットリ。

 お前もうアメリカ人でイイだろ。

 ギルドに居たエルフの人は普通に話せてたのに、何でお前だけ片言なんだよ……。


「こりゃあ一撃で決まったのか? つーか見本っていうけどマネできねぇし……」

「ぐげっ」


 鈍い音を立てて下に落ちたゴブリン。

 だが――


「……! まだ生きてるわよっ!!」

「ぐぎゃあああああああああ!!」


 空に向かって咆哮する。

 おぞましい叫び声だ。

 カラスとも、クマとも違う。

 断末魔のようなその叫びは、仲間でも呼んでいるのだろうか。


 だとするとあまり状況は好ましくない。

 こちらはまともな戦闘経験があるのは独りだけなんだ。


「ハットリ、止めを!」

「……。ワタシ、魔力が切れたでース……少し休ませてくださーイ」

「は!?」

「ちょっと待ってよっ!?」


 その唯一の戦力であるハットリが、なんと地べたに座り込んでしまった。


「は、ハットリ! お前の背中にある刀はなんだ!? 飾りなのか!?」

「飾りでース!! 剣術なんてやったことありまセん!! ゴブリン位なんとかしてくださーイ!」


 仕方ねぇ! 俺がやるしかない!!


「ぐぎゃああああ!!」

「うおおおおおおお!!」


 俺は向かってくるゴブリン目掛けて右手に持った剣を勢いよく突き出した。


 盾も構えずに。


 ――それが、初めてだった。


 ゴブリン。

 それは、ゲームとかで良く聞く名じゃないだろうか。


 その強さはまさに最弱で、大抵のゲームでフィールドに出ると一番最初に戦う魔物は大体ゴブリンかスライムだ。

 その位の強さだと思って、油断していた。


 足りなかったんだ。


 今自分は異世界に居て、ホンモノの意志と知恵を持つ生物を相手取って、命のやり取りをしているという認識が――足りなかった。


 結論を言おう。


 剣を、避けられたのだ。


 命を刈り取るべく俺が放った一撃。

 現代社会において絶対に持つ事の無いだろう武器を手に取って、初めて繰り出した一撃だった。


 それなりに覚悟もしていた。


 だが、覚悟のベクトルが違ったことに俺は気付いた。


 ――命を奪う一瞬の覚悟と――


 ――命を奪う者に対して抗い続ける覚悟――は全くの別物だった。


「ぐぎゃああああ!!」

「ぐぁっ!!」


 すれ違いざまにカウンターが乗った強烈なボディブローが決まってしまった。

 ミシミシ、と体の芯が嫌な音を立てる。それと同時に強烈な吐き気も一緒に襲い掛かる。


 冗談じゃ、ない。

 なんだこの強さは。


「アレン!?」

「ワオ、アレはヤバイでース」


 自らが踏み込んだ勢いと、ヤツが繰り出したボディブローで威力は格段に跳ね上がってしまっていたのだ。

 後ろに盛大に吹っ飛んだのは必然だった。


 体が痛みを訴えてくる。

 もう戦うなと足が震える。


 情けないと思うだろう?


 でも、これが現代社会でのうのうと生きてきたツケだと俺は思う。


 俺は常に思っていたんだ。

 この社会の中で、勇気を得るのは並大抵の努力では手に入らないと。

 ライトノベルのような世界でなら、剣を持って、勇気を携え、強敵と相対することができるんじゃないかと。


 だが現実はどうだ?


 盾も構えず突っ込んで、挙句の果てには、無意識に見下していた相手に一撃で吹っ飛ばされた。


(なさけねぇ!)


 地面にうつぶせになっていた体を、足に力を入れて無理やり立たせる。


 手なんてもう震えっぱなしだ。

 剣なんて扱えるのか? 俺。

 いや、やらなきゃならん。


 俺がやらなきゃ、クラウが危ないんだ。


「うおああああああああああああああ!!」


 腹の底から気合の雄叫びを上げる。

 今まで出したことない声だ。


「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」


 ヤツは俺を挑発するかのようにあざ笑ってくる。

 いい挑発だ。

 乗ってやろうじゃねぇか!!


 今度は盾を構えるのを忘れない。

 そのまま――盾ごと一気に突進する!!


 木で出来た盾は鈍い音を立ててゴブリンに直撃する。

 だが、敵もさる者。

 すぐにサイドにステップし、盾とのコンビネーションで俺が振るった剣を避けやがった。


 クソ! 今のは行けたと思ったんだがな!


「……まだまだぁ!!」

「げぎゃあああ!」


 一進一退の攻防。

 なんで俺はこんな奴に苦戦してるんだ。


「はぁ!!」


 隙を見て一閃するが、奴は難なく俺の剣を避けやがる。

 全然当たらねぇ!

 これは、戦法を読まれてるかもしれん。


「げぎゃぎゃ」


 外れた剣を見て笑うゴブリン。

 だが、今度は挑発には乗ってやらない。


「おら、こいやあああああ!!」

「ぐぎゃあああっ!!」


 今度は相手からこちらに来させる。

 ――ついに、その時が来た。


 相手が腕を振り上げ盾に牽制を入れようと拳を突き出してきたところで――盾を引き、奴の左側へ体を滑り込ませる!


「うぉおおおおおおおお!」


 脇腹に――一撃を入れる。

 渾身の一撃はゴブリンの身体を容易に切り裂いた。


「ギャアアア!!」


 断末魔の悲鳴をあげ倒れ伏すゴブリン。

 地面をごろごろとのた打ち回る。


「……これで、止めだ!!」


 殺す、という覚悟を決め、俺は一気に剣を振り上げ――


「アレン!!」


 クラウの静止の声を聴き、一瞬剣を振り下ろすのが遅れてしまった。

 おかげで、奴は地面をはいずりながら逃げてしまう。


 追う気力なんて、残ってなかった。


 なぜなら――周囲にさっきの奴の仲間であろう、ゴブリンが十匹は余裕で俺達を取り囲んでいたからだ。


「ハットリ、何かいい案はないか」


 たき火を中心として敷かれたゴブリンによる包囲網。

 俺は奴らを威嚇しながら、じりじりと後退する。いや、後退するしかなかった。

 そして――ついにたき火の中心まで俺、ハットリ、クラウは追い詰められてしまった。


「ワタシ、こんなことになったの初めてでース……。ごめんなさい」

「謝るな……。周りを見なかった。俺が悪い」

「……そんな……ここまでなの?」


 クラウが震えているのが分かる。

 ごめんよクラウさん。

 こんな事になっちまって。


 最初の冒険だってのに、最後の冒険にしちまうかもしれない。


 一瞬、そんな事を考えてしまった。

 頭を振り、マイナスの考えを打ち払う。


「俺達は、生き残る。絶対にだ」

「でも、こんなのどうやって……」

「せめて魔力をもう少し残しておけばよかったでース……ウンディーネじゃなくてサラマンダー呼んでおけば一撃で片付いたのでース……」


 考えろ、考えろ。


 この場を打開できる方法は――何か。




 何か、無いのか!!




 俺の頭に――久しぶりの感覚が過る。




――『神威』スリープ状態より復帰します――

――蓄積エネルギー状態確認。結果、エリス・40%、クラウディア・10%――

――敵影殲滅に必要なエネルギーを逆算――

――演算完了――

――エネルギー不足により『  』不能――

――限定的・局所的な強化へ方針転換――

――『身体強化・極』発動しました――

――持続時間三分。敵を殲滅してください――




 気付いた時には、走り出していた。


 いや、斬っていた。


 ゴブリンを一刀両断にしていた。


「ぐぎゃあ!?」

「ぐげげげっ!」


 体の緊張が全て解けたかのような錯覚に陥っていた。

 思ったとおりに体は動き、ゴブリンの攻撃より早く俺の剣が奴らの首を刎ねていく。


「はあああああ!!」


 三匹、四匹。


 刹那の内に奴らの数は半数近くまで減っていた。


 ゴブリンの動きが遅い、遅すぎる。

 いや、俺が早くなったのか?

 訳が分からないが――これなら、行ける!


「げぎゃっっ!!」


 盾で奴の顔面をぶん殴って昏倒させ、体を一突きにする。

 血のりを振り払い、次の目標へと突進する。


 ――生きるためなんだ。殺そうとしてくるものは、殺すしかないんだ。


 そうしなければ、殺されてしまうから。


 心の中で懺悔を繰り返しながら、俺は剣を振るい続ける。



 三分もしないうちに、周りは俺とクラウ、ハットリしか居なくなった。

 十匹は居たであろうゴブリン達を、倒したのだ。



「……すごいでース。目にもとまらぬ早業でース」

「あ、アレン……ど、どうしたの?」


 俺はクラウの心配する声を聞いたのち、意識を失った……。


――エネルギー、エリス・10%、クラウディア・10% これ以上の使用は命に係わります――

――『神威』、スリープ状態へ移行――

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