第22話 事象:ITにおける追い出された後の夜の散歩について

「……で? どういうことなの? なんで半裸の女と一緒にその……き、キスとかしようとしてたりしたのよ! 刺すわよ!」

「クラウさん。落ち着いてくれ。そして短剣を俺に突きつけないでくれ。萌えちゃうだろヤンデレとか!」

「何意味わかんない事いってんのよっ!!」

「まぁまぁ二人とも落ち着いてください」

「あんたには聞いてないわこの痴女っ」

「ち、痴女!? 貴女私の事を痴女だなんて良くもまぁ……それを言ったら、あなたなんて泥棒猫ですよっ!」


 ああ――やっぱりクラウさん怒ってんなぁ。

 でも怒ってるクラウさんもかわいいなぁ。ほんとに。


 状況がわからないよな。

 説明しよう。


 マリーさんの得物がクラッカー(役立たず)だったことが判明したすぐ後、俺はクラウさんの誤解がまだ解かれてないことに気付いて、説明しに来たわけだ。

 幸い隣の部屋に泊まっていることはメモに書いてあったから、ノックして扉を開けてもらった。

 忍び込んでないよ?


「ン……うるさいでース。何騒いでまース? もう夜中の十二時でース。よい子は寝る時間でース」


 俺とクラウさんとマリーさんの言い合いが聞こえたのか、眠そうな声を出しながら、ベッドからハットリが――


「え? ……は、ハットリ……さん?」


 上半身を起こしたハットリ……のはずの美少女。

 忍者装束を脱いだハットリはまさに別人だった。

 というか、俺の予想以上の美少女ぶりだ。


 透き通るような白い肌。顔はクラウさんとマリーさんを足して二で割ったような美人さだ。かわいいし綺麗。唇なんてぷるぷるしてて吸い付きたいくらいだ。

 でもしゃべり方は日本かぶれのアメリカ人だけど。

 耳は漫画とかアニメとかで良く見る、とがったエルフの耳だ。

 そして髪の毛は……美しい藍色をしていた。


 だが、それよりももっと目を引いたのは――


「ん? なんでース? そんなに珍しいものを見るような目で見てこないで下さ―イ……」

「だ、だってハットリ……お、オマエ――なんで頭に、『角』生えてんの?」


 そう、彼女の頭に、小さくはあるが――灰色のねじれた角が生えていたのだ!

 お前もう何なんだよっ! エルフじゃねぇのか!?


「…………忍者エルフは角がありまース。常識でース。それよりアレン。アナタ、その女性はなんでース? もしかして夜の街で手籠めにして来たんでース? 中々やりまース。今度ワタシも連れてってくださーイ」

「アレン。それについては聞いても無駄よ。私も聞いたけれど、忍者エルフには角があるで一点張りだったから」

「そ、そうスか」


 いやもう、ハットリについては詳しいことは聞かないことにしよう。


「あらあら、珍しいですね。こんな世界に忍者エルフ族がいるなんて」

「よくわかりまスネ。そこのオネイサン。いかにも、ワタシは忍者エルフでース。もしかして、同郷の方でース?」

「おいちょっと待てマリーさん。なんだ忍者エルフ族って」

「ううん、アレンさんに説明すると、私この人に殺されちゃいますしねー」

「え!? どういう事だ!? 言っちゃいけない掟でもあるのか!?」

「話したらその首とりまース。いくら同郷でも、抜忍は打ち首でース!」

「あらあら、困りましたねぇ」


 謎だ。謎すぎる。


「それよりアレン! 誤魔化されないわよっ! 今はハットリなんてどうでもいいの! なんなのよその女は!?」

「えっと、話せば長くなるんだけど――」

「アレンさん。私から話をしますので、貴方は外を散歩してきてください」

「は!? いや、マリーさん何言ってんの!? ねぇマジで何言ってんの!?」

「貴方からパーティーに入る了承は得ているでしょう。それに、こっちは女同士で話さなきゃならないことがたっくさんあるんです」


 どゆこと!?

 真剣なまなざしで語りかけてくるのはいいけどさ、マリーさんシャツ一枚じゃあ説得力に欠けるよっ!

 つーかクラウさんすっげぇ睨んできてるよっ。


「……いいわ。説明なら中で聞くわ。アレン、あなた隣の部屋で休むか、そこらへんぶらついてきなさい」

「あれれ、いいんですかクラウさん隣の部屋なんて。ばらしちゃいますよ? 貴女がs――」

「さっさとそこらへん散歩してきなさいアレン。盗み聞きしたら殺すわよ」


 ああ、クラウさんまでそんなことを……。

 いや、ここは粘っても結局クラウを怒らせちまうだけだ。

 誰が説明しても結果は同じだしな。

 クラウさんを見たことで俺のMPもちょっと回復した気もするし、ちょっと夜歩きするくらい大丈夫だろう。ん? てことは、クラウさん処女なのか。


 処女なのか!! ヒャッハアアアアアアアアアアアアアアア!!


「わ、分かったよ。ひゃっはー……じゃなくて、また明日話を聞く」


 そうしてマリーさんは部屋の中に入り、残る俺は夜の街へと繰り出すことになった。


―――――



 ところ変わって、冒険者ギルドやら魔術師ギルドやらのある区画――通称、ギルド区画と呼ばれているらしい――を抜けて、独りで俺は東門の近くの商店が立ち並ぶ通りを歩いていた。


 夜の街を歩くなんて初めてだ。

 というより、この世界に来てから夜歩きするなんて思ってなかった。

 宿屋戻れるの、いつになんのかなぁ。


 だが、こうして一人の時間を作れるのはいいことだ。

 さっきのマリーさんとの一件でむらむらしちゃってたから、どっかでアレしたいんだけど、いい場所ないかなぁ。


 でもクラウさんのケモミミもっとモフモフしたかったなぁ。

 ああエリスちゃんのケモミミもモフモフしたいなぁ。

 またメイド喫茶行きたいなぁ。


 そんなことを考えていた時、門の開く音が聞こえた。

 誰だ? こんな時間に街に入って来るなんて。


「ははは、今日の収穫はたくさんあったなぁ!」

「そうだな! これなら当分遊んで暮らせるぜ! ぐふふ」


 東門から入ってきた一団――話の内容から明らかに冒険者だ。

 どうやらかなりの収穫があったらしい。

 声だけ聴いて、俺はそちらを振り返る。


 むさくるしい重装備のオッサンが二人、むさくるしいローブのオッサンが一人。

 そして、その一団から少し離れた所に、見るからに聖職者だと分かる白と青の装飾が施された、動きやすそうな変わった軽装備をしているクッソかわいい銀髪の狐娘が一人――。


 え、アレ、エリスちゃん!?


「……? 見間違い、だよな?」


 ははは、ケモミミ恋しさでついに俺も幻覚を見ちまったか。


「ねぇ……ちょっと」

「あぁ? なんだよ? ぐふふ!」


 いや、しゃべり方と言いあのスタイルと言い、あのケモミミのふさふさ具合といい、絶対にあれはエリスちゃんだ。

 一体何してんだ。こんなところで、あんなおっさんと。


「約束の……討伐報酬、まだもらってない」

「……。何言ってんだ、これからやるって。ほら、ちょっとそこの路地に入ったら渡してやるからよ。ぐふふ! ひひひ!」


 なんだあいつ。気持ち悪いしゃべり方する奴だな。

 嫌な予感しかしないんだけど。

 頼むエリスちゃん、どういう事情があるのかは知らないけど、君はそんなおっさんの口車に乗せられて、路地裏に連れて行かれるなんて、エロ同人みたいなことにはならないよね? ね?


「……わかった」


 わっかちゃうんかーい!!

 おいおい、あきらかに鼻息荒くなってんじゃねぇかアイツ!!

 いかがわしい事されちゃうのは目に見えてるじゃんか!


「おう。俺達は約束は守るぜ? ぐふふ。ぐふふふふふ!」


 ほら、ぐふふとか言ってんじゃん! キモイじゃん!


 仕方ない。ちょっと後をつけてみるか。

 エリスちゃんが襲われそうになったら助けるだけ。

 事情が分からないのに突っ込んだら、ただの間抜けだ。

 わかんないよ。あのおっさんが実は語尾にぐふふ、ってつけなきゃ死ぬ呪いを受けてるのかもわからん。


 この世界にはケモミミ処女とイチャコラしないと死ぬ人間も居るくらいだからね。

 不本意なのかもしれないじゃないか。


「初めてだろうけど、痛くないからね。ぐふふ」

「どういう……こと?」


 いや完全にアレは変態だ。

 殺す。

 今殺す!!


「テメェらなに俺のエリスちゃんに手を出そうとしてんだボケェエエエエ!!」


 さあ――殺し合いの始まりだっ☆

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