第21話 事象:ITにおける女神との不純異性交遊について
「まって、待ってくれ! クラァアアアアアアァァァウッッッ!!」
俺は扉に向かって絶叫する。
せめて、せめて誤解を解かせてくれ!
「なにアニメの最終回バリに女の子の名前叫んでるんですか? 馬鹿ですか? ああ、馬鹿でしたね」
「え!? は!? いや、今回は俺だけが悪い訳じゃないから何ともいえねえけどさ! マリーさんにそんなこと言われる筋合いはねぇと思うよ!? つーか服着てくれ! 襲っちまうぞ!」
「だから私はいつでもウェルカムって言ってます!」
「うるせぇこの痴女めっ! 俺が理性保っていられるうちになんか身に着けてくれ!頼む!」
「ひどい、ひどいですよっ! こんなにもあなたの方から誘っておいて、お預けのままなんて! 早くぶち込んで私の処女もらってくださいよっ!」
何考えてこんな発言した!?
アホかこの女神は!
……うん。言っても聞かないからここは――これしかない。
俺はベッドから降りてすぐさま――五体投地の姿勢になる。
恥もヘッタクレもあるか! 俺の初めてはクラウさんかエリスちゃんがいい!
いや、まぁ、正直イマスグぶち込みたいのはやまやまなんですけど、ね。
ほら、こう――信頼度と言うか、なんというか。そういうモノが俺の中で勝手に設定されちゃってるわけで、マリーさんは比較的ちょろい部分があるから、あとで誘いかけても乗ってきてくれるかなぁ、とかそんな最低な打算があったりなかったり。
ホント最低だな! 俺!!
だが、生まれ持ってしまった性なんだ。
見境なく女の子襲うのやめなきゃ。
「お願いしますなんか着て下さい。このとおりですお願いします。本当にお願いします。これ以上クラウさんからの俺の評価を下げないためにもお願いします。お願いします」
「……むー。仕方ありませんね……」
俺の必死の懇願が届いたようだ! やったね!
ベッドの上から衣擦れの音が聞こえる。やっと服を身に着ける気になってくれたか。よかったよかった。
あ、もう少しおっぱい見ておけばよかったかな……。
だが、ここは我慢だ。
いくらマリーさんが手籠めにしやすいからと言って、合意ではないエッチは俺の本意ではない。つーか初めてはクラウさんがいい。今はっきり自覚したけどさ。
いつの間にか衣擦れの音が止んでいる。どうやらマリーさんはベッドから降りたようだ。
これでマリーさんを見ても俺の煩悩はきっと鎮まってくれるはずだ。
いや、鎮ませないとヤバイ。
「あの、体を起こしても大丈夫か?」
「ええ、いいですよ。――ふふっ、仕返し完了です」
とんでもない発言は聞かないことにした。
なんですか仕返しって。知らない。何の仕返しかなんて聞きたくない。
まったく、暴走状態になるとこれだから俺はダメなんだよ。
思いつつ、顔を上げた。
「……あー、俺の服着る? そう来る?」
「だって着る服無いんですもん。仕方ないじゃないですか」
俺が視たのは、今まで携帯していた俺の予備の服を着たマリーさんだった。
ブカブカだ。しかも上に一枚。麻のシャツ。一応裾はお尻やら前やらはギリギリ隠せるレベルだ。
めくってみたい。いや、もうあんな思いは……だが……見たいのは男ならしょうがないよね? ね?
って、鎮まれ俺の右手!
大体マリーさんの乳首がたってて、シャツが透けて見えるのが悪いんだ! あんなんイチコロだわ! 煩悩鎮まらんわ! つーか余計エロいよ!
なんなんこの人。確実に俺を籠絡させにかかってるのか?
そんな色々な疑問、葛藤、性欲を乗り越えて――俺は発言する。
「……まぁ、いい。眼福だし」
「変態……」
いやいや、マリーさんに変態って言われたくねぇよ。
俺より上の変態に言われたくねぇよ。
というか、それより重要なことがあるっつーの。こんなどっちがより変態かなんて誰も得しない話なんてどうでもいいんだっ!
「なぁマリーさん。なんで俺のとこに来たんだ? 一応マリーさん女神なんだろ?」
「あぁ~、一応女神でしたねぇ。以前は」
ん? なんか不穏な単語が聞こえたぞ? 最初の質問はガン無視で女神か否かを答えてきたのにも突っ込みたいところだが、俺の方も彼女の事情を知ってるわけじゃないし、順番に訊いていくとするか。
「以前は? ってことは今は?」
「ん~……。そうですね。一応後ろに羽生えてますけど、これ、もうすぐ消えます。というか、私もう女神としての力はほとんど残ってないんで」
「えーと、じゃあ今は女神じゃない? ってことは何になるんだ?」
「一応、あなたと同じ人間ですね。いやー、骨が折れましたよ。この世界の神様欺いて、無理やり人間として現界したんですから。褒めてください。良妻でしょう? 私。本当に偉いですよ。私。あ、ちなみに現界っていうのは、この世界に、概念としての神様的存在が肉体を得て存在を露わにする事です」
こんなキャラだったか? マリーさん。
残念なところは初めて会った時から変わってないけど。
「偉いとかなんとかしらねぇし……いやまぁそれが誰かの為ってんなら良妻っぽいけどさ……なんで人間として、げんかい? だったか。それをした? まさか、俺に会うためとか?」
「……」
黙り込むマリーさん。どうやら肯定らしく、かわいらしく首を立てに振ってくれた。笑顔で。
嘘、だろ。
「はは、そんなわけないよなぁ!? なぁ嘘だと言ってくれ頼む」
「あんなに私を犯しておいてよくそんな口が叩けますよね。呪いますよ? 今もすっごい厄介な呪いにかかってるようですけど、もっと呪っちゃいますよ?」
あー突っ込みどころありすぎてヤバイな。いや、シモの意味じゃなくてね?
なに、突っ込むところいっぱいあるなって。
変態かよ俺。ああ、変態だな。どうでもいいな。ごめん。
話を戻して、なんでマリーさん俺にかかってる呪い知ってんだよってこと。
知ってたとして、イチャコラできる存在であるクラウさんを遠ざけるようなことした意味がわからない。
あ、仕返しか。くっそ。このマリーさんめ。マリーさんの癖に。
「あー……ちょっと聞きたいことあるんだけど、聞いていいかマリーさん」
「どうぞ?」
「呪い、って俺誰に呪われたんだ。神様的に見るとどういう呪いなんだ。そして、呪いって言うからには解けるんだよな?」
「ん~……」
マリーさんは俺の顔をじっと見つめてくる。
何かを思案しているらしい。
先ほどまでのふざけた雰囲気は消え去り――次第に、俺ではなく、俺の内側を見ているような、全てを見透かしたような目で、俺の事を見てきた。
「ど、どうだ?」
しばらく動かなかったので、俺は痺れを切らしてマリーさんに訊ねた。
すると。
「誰に、という問いについては私にはわかりません。不明です。ですが――それがどういう呪いかは分かっています」
「本当か!? どんな呪いなんだ!? まさか、本当に獣人の女の子とイチャコラしないと死ぬわけじゃないだろう!? 現にいま、おそらくエネルギー切れで倒れたけど、俺死んでないし!」
捲し立てる。
そうだ。
俺には記憶がある。
確かにあのゴブリンを倒した時、エネルギーが足りなくなって、生命に係わりますとかなんとか――誰かわからんが――言っていたのが聞こえたんだ。気を失っちまったけどな。
俺が思うに、あれが呪いをかけた奴の声なんだろう。
だが、呪いの癖に俺の事を助けてくれもしたわけだから、恨んでいる訳じゃない。
しかし、な! 獣人の女の子に触れないと死ぬとかは止めて欲しい。本当に。切実に。俺は、いろんな女の子とイチャコラしたいだけなんだ!
「えーと、どんな呪いか、と問われると、私にはこう答えるしかありませんねぇ。
あなたと同い年、または年下の獣人であり、その中でも『処女』と触れ合う、また対象を視界に入れることで、あなたの生命エネルギーは溜まります。まぁ、俗称として『MP』としておきましょうか」
「やめて、そんなマジックポイントいやだ」
「何言ってんですか。MPはマジックポイントじゃなくて、『もふもふポイント』ですよ」
「……なんか可愛いな」
「でしょう? 自信作です」
はぁ……。
やっぱり、変態のレールからは脱線できないのか。
いや、脱線する気もないけどさ。
「もしかして、その
「そうですね。現象としては考えられます。呪いの効果の一部なのかどうかは定かではありませんが、生命の維持活動として、体に刻まれるタイプの呪いなんで、自然行動的にMPを摂取しにかかるのは必然ですよねー」
「……ってことはなんだ、本能って奴で、俺はMPを摂取しに行っちまうのか?」
「みたいですね。ああでも、さっき私を襲ったのはMP切れのせいにはできませんからね。私獣人じゃないですし」
やっぱり、なかった事にならないんだな。
うん。分かってたさ。
というか、ここまで良く理解できたな俺。
馬鹿にしては中々やるじゃないか。俺。
理解、したくなかったけど。
「……。これから俺、どうすりゃいい?」
「知りません。あ、そういえば、私言った通り、人間として現界しちゃってるんで、行くとこないんです」
「いや知らねぇよ」
「パーティーに加えてください」
「やだ」
「即答ですか。酷い男です。じゃああのクラウっていうこれまた厄介そうな女性に、あなたは想像以上の変態ですよ、って教えてあげます」
「やめろ。やめてください。わかったよ。わかった」
クッソ不本意だが、マリーさんをパーティーに入れることにした。
まあ、ね。
ほら、女神だし! 強いかもしれないじゃん!?
決して脅しに屈した訳でも、むにゅむにゅしたおっぱいくっつけられて籠絡させられたわけじゃないよ!? ほんとだよ!?
「それでは、今後ともよろしくでーす☆」
「……なぁマリーさん……戦えるんだよな? 冒険者だぞ? 大丈夫なのか?」
「何を言うんですか……! これを見てまだそんなことを言えるんですか!?」
じゃーん、と口で言いながら、座り込んだマリーさんは……その、非常に言いにくいんだが、ま、股の間に手をやって(詳細は見えない。つーか、完全にアレしてる女の子にしか視えなくてとっさに目を逸らしました。はい)『黒光りする銃的なモノ』を取り出した。
「じゃじゃーん! 黒光りする銃的なモノでーっす!」
「拳銃じゃねぇか!!」
「はい、大当たり! これ拳銃です! どうです!? これなら戦えるでしょう!?」
「異世界なめんな!!」
「んー、でも使い方分かんないんですよねぇ。クソ神の居るところからパクってきただけなんですよ。わかります? 使い方? なんか魔力を込めれば弾は無限とかなんとかってクソ神言ってましたけど」
意味不明な単語をマリーさんが吐きながら、俺に黒光りする銃的なモノを渡してきた。
わぁ……重さ的に思いっきりハンドガンだよこれ。
異世界に最も似合わない得物だよコレ!
だ、だが! これは戦力だ! 弾は無限の拳銃なんて、最高じゃないか!
「これに魔力を込めて、この引き鉄を引いてみるんだ。そうすると、使えるぞ。たぶん」
「へーそういうモノなんですね。それじゃあ一発!」
「へ!? ば、バか! こんなところで打つ奴が――」
瞬間、弾けた。
引き鉄を引きやがった。
爆音とも言うべき破裂音が響いた。
焦って俺はマリーさんの手から銃を取り上げる。
「ふざけんな! こんなところでぶっ放すんじゃねぇよっ! 俺に向けてなかったからいいけどな! 人に向けたら簡単に殺しちゃうんだぞ、これ!」
言いながら、俺は周囲を見渡す。
弾痕はどこだ!? どこにあたった!?
――が。
どこにも弾痕はない。
強いていうなれば、色とりどりの小さな正方形の紙が下に落ちているだけ。
ん? なんで紙吹雪に使うような紙がこんなところに……。
そこで、俺は一つの可能性に行きあたる。
「なぁ、マリーさん。今、銃撃ったよな?」
「ええ、撃ちました。気持ちよかったです」
「いや、感想は聞いてねぇ。……何が、射出された?」
そうして、答えを聞いた俺はがっくりと崩れ落ちた。
彼女は、言ったのだ。
「え? 紙吹雪が豪快にぱーんって飛びましたよ? あれで人が死ぬんですねぇ。人ってすごい脆かったんですねぇ」
「それ、拳銃の形した、ただのクラッカーじゃねぇかあああああああああああ!」
こうして、元女神マリーさんが仲間になった。
戦闘力マジでゼロ。ついでに、女神力もゼロ。
そして、俺のライフも、ゼロだ。
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