第23話 事象:ITにおける狐娘の救出について

「うおぉぉぉおおおお!」


 俺は雄叫びを上げながら、おっさん達に殴りかかる。

 許せない。俺のエリスちゃんとにゃんにゃんしようたって、そうはさせん!


 まず、鎧着てるおっさんの顔面を殴り、昏倒させる。

 きっと奴らはそれで怯むはず。

 そこで近くにいるもう一人のおっさんの顔面も殴り、昏倒させる。

 そして、もう一人のローブ着てるおっさんの顔面も殴り、昏倒させる。


 計画は完璧だ!

 後は、実行に移すだけ!


「な、なんだお前、どっから――」

「うるせぇ、小さい女の子に乱暴しようたってそうは――」


 俺の拳が、吸い込まれるようにおっさんの顔面へと向かう!

 よしっ、これで――


「……ッ!!」


 いつの間にか俺は、麗しい女の子の真っ白なふともも様が顔面にクリティカルヒットし、地面に叩きつけられてた。


 え、どゆこと。


 状況が理解できん。今確実にエリスちゃんの生脚だったよね。

 蹴りを受けた所が痛くねぇのが証拠だ。

 だが、地面に強打した後頭部が悲鳴を上げてる。クソオヤジに殴られたときほどじゃねぇが、イテぇ!!


「ほわあああ!? どゆこと!? ねぇどゆこと!?」

「……盗み、ダメ」

「はぁ!?」


 盗みダメ?

 意味わからん! 何か勘違いしてるのか、エリスちゃん!


「……よ、よくやったエリス。ほら、そんな奴ほっといてさっさと人気のないところに行くぞ」

「うん……。あれ……この人、見たことあるような……」


 冷静に考えよう。

 何故、俺は地面に倒れてるんだ? エリスちゃんを助けに入ったはずだよね。


 そこで、俺の頭に先ほどの言葉が木霊する。

 盗み、ダメ。


 客観的に見てみよう。つーかエリスちゃんの立場になって考えてみよう。

 彼女は純粋だ。きっとおっさんの言葉を信じちまっているに違いない。

 とすると、俺の行動は――。


 報酬を受け取ろうとおっさんに着いていった→変な男がおっさんに殴りかかろうとしている→きっとこの変な男は報酬を盗む気なのか。


 盗みダメ。彼女はそう言っていた。ということはだ。

 こうなるのは必然なのか。はは。ヤベェ、やっちまった感半端ねぇわ。


 誤解、されたというのか……。

 きっと盗みという言葉はきっと彼女が受け取る(と思っている)報酬の事を指して言ったに違いなくて、このような思考回路に彼女の頭はなっているはずだ。


 迂闊だった。

 ちょっとエリスちゃんが半裸になったあたりで助けに入っとけばよかったんだ。


 何やってんだ、俺!!

 そんなこと言ってる場合かっ。エリスちゃんホントに路地裏に連れ込まれちまってるじゃねぇか!


 痛む後頭部を抑えながら、急いでエリスちゃんの後を追う。


 今度はミスしないために、奴らから少し離れた物陰に隠れる事にしよう。


―――――


 俺が蹴り倒された場所から二本大通りを挟んだあたりの、小さな路地に奴らはいた。

 明らかにヤバイ雰囲気がするというのに、エリスちゃんは従順について行っている。

 ちょっとガード甘いんじゃないのか、エリスちゃん!! 逃げて、食べられちゃうぞ!!


「……止まった?」


 後ろからつけていっていたが、ある程度路地の中に入ったあたりで奴らは停止した。

 なんつー場所だ。行き止まりで、しかもここまでは一本道でエリスちゃんがおっさんに挟まれる形で一列になって歩いていたもんだから、包囲されちゃってるじゃないか。

 そして、俺は目撃してしまう。

 一番後ろのおっさんが、後ろ手に荒縄を用意したことに。

 まだだ、まだ、現行犯じゃない――。耐えろ俺。耐えろ俺!!


「さて、約束のモノをやろう――」


 おっさんは懐にあるであろう何かを取り出して、エリスちゃんに渡す。

 ついに――先頭のおっさんがエリスちゃんの両腕を抑えにかかった!!


「おら、縛っちまえ! じっくりたっぷり楽しませてもらうからなぁ!!」

「……なん、なの?」


 冷静にエリスちゃんは聞き返しちゃってるよ。

 まだ絶対に自分の置かれてる状況理解してないよねあの子!

 今出てっても……。


「ぐへへ、オマエみたいな奴、好みなんだよなぁ! 娘みたいでよぉ!」


 あのおっさんクズだ。最低だ。自分の娘みたいだからって襲うか? 嫌悪感しか感じねぇ。

 その時だった。

 ついに、エリスちゃんが。


 奴の股間に勢いよく蹴りを入れたのは。


「グゥゥッッ!?」


 ……。あれ痛ぇよなぁ……。同じ男として言うが、あれは痛い。

 あぁ、見るだけで肝っ玉が縮んじまう。

 これなら心配するまでもないか? 何気にエリスちゃん強いみたいだな?


「抵抗すんなよオチビさん!」

「……! 触らない、で!」


 瞬時にエリスちゃんは後ろのオッサンの脛に蹴りを入れた。

 イテェなあれも。

 でも、一番後ろのオッサンの荒縄に気付いてないみたいだ。


「良くも、やって、くれたな、この――」


 おぉ、金的されたおっさん復帰早いな。

 と、呑気な感想を抱いていたら、一番後ろのオッサンが絶妙なタイミングでエリスちゃんの事を荒縄で捕まえにかかった。

 よけろ、エリスちゃん!!


「うぅっ……はな、して!」

「そうは行くかよっ……ヘヘ、びっくりさせやがって、このキツネめっ、俺たちの言うとおりにおとなしくしてりゃあ良いものを!」


 エリスちゃん荒縄で捕まっちまった!?

 まじでヤベェ! 早く助けに行けばよかった!!


「ちょっとまてやああああああああああ!!」


 俺は一気に物陰から飛び出し、一番後ろのローブを着たオッサンに股に蹴りを入れた。


「があああああああああああああ!?」


 思いっきりやってやった。

 感触が分かるくらいだ。

 うん。俺よりちいせぇな。おっさん。


「助けに来たぜエリスちゃん!!」

「さっきの、変な人!?」


 変な人呼ばわりかい。

 まぁいい!


「何をやってる! そんなガキさっさと殺せ!」


 流石冒険者だ。仲間が一人やられたってのに、立ち直りが早いな。

 正直まずい。一番先頭だった奴がエリスちゃんを縛ってる縄を持ってるし、エリスちゃんをはさんで俺の目の前のオッサンは鎧を着てて、しかも剣まで持ってやがる。


「……坊主、死にたくなかったらこっからいなくなれや。そうすりゃあ見逃してやるよ」


 鋭く光る長剣を俺の眼前に突きつけながら、おっさんは言い放つ。


 見逃してやる?

 いなくなれ?


「……確かに、素手じゃ俺は死ぬな」

「ハッ、それくらいは分かるか? 坊主」


 もっともだ。このまま突貫しても死ににいくようなもんだ。


 だがな。


 ふざけんじゃねぇ。


 こんなところで、エリスちゃんを見捨ててたまるか。


「もふもふを――俺のメイドさんを、見捨ててたまるかよっ!! 『神威』!!」


 何となくで叫んだ『神威』。


 それは、俺の予想通り……発動した。


――音声認識――

――『神威』スリープ状態より復帰します――

――蓄積エネルギー状態確認。結果、エリス・25%、クラウディア・8%――

――敵影殲滅に必要なエネルギーを逆算――

――演算完了――

――『身体強化・極』発動しました――

――持続時間10秒。敵を殲滅してください――


 なるほど、神威って叫んでも発動するのか。

 早めに知っておけばよかった。

 でも、なんでゴブリンとの戦いで勝手に発動したんだろうな。


 ええい、今はそんなこと考えてる余裕はねぇやっ!


「ふっ!」

「なっ、なんだっ!?」


 ことは一瞬で終わった。


 剣を突き付けてきている奴の顔面に一発、加減して右フックを入れてやる。

 面白い位に吹っ飛んでくれた。


 全部が全部スローモーション映像のように見える。


 おっさんが何事か叫んで、口から唾が吐き出るその瞬間には――おっさんの身体は行き止まりの石壁に轟音と共に叩きつけられていた。


 立っているのは、俺とエリスちゃんだけだ。


――エネルギー、エリス・20%、クラウディア・8%――

――戦闘終了を確認――

――『神威』、スリープ状態へ移行――


 MPってこのパーセンテージがそうなのか……。クラウさんの少ないな。後で補充しとかないと。


「ふぅ、無事かっ、エリスちゃん!」

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