第5話 事象:ITにおける全裸の必要性について

 ある日、森の中――あなたは全裸の男に出会ったらどうしますか?


「助けてくれぇ!」


 訂正。森の中を通る道を歩いている途中、全裸のフル○ン男が両手を上げながら必死の形相で、助けてくれぇ、と叫んでいたら――どうしますか?


「うわああああああああああ!? 変態だぁあああああ!?」

「うえええええええええええ!? まってくれ、誤解なんだ、助けてくれ!」

「た、助けてくんろぉおおおおおおおお!!」

「おいまて、服寄越せっ!!」


 ――ま、当然逃げ出すよな!

 わかっていた。わかっていたさ。




 あの原因不明の痛みにのたうちまわった後、どうするか悩んだ。

 何をどうするか悩んだのかと言うと、この全裸状態をどうやって回避するかだ。

 不自然なほどに静かな森だったが、遠目に人の街らしきものが視えたので、そっちの方に向かうことにしたのはいいのだが――。


 どっからどうみても俺は――全裸だった。


 やはり街道にフル○ンで躍り出たのはまずかったようだ。頭がイカレてたみたいだ。そりゃ旅人も普通に逃げ出すさ。俺だって絶対逃げ出すもん。

 しかし、どうしたモノか。

 フル○ンでさえなければいける気がするんだよな。

 そこで名案を思い付いた。


「……そうだ、葉っぱを腰に巻いたらいいんじゃないか!?」


 そう。隠すものがない訳じゃない。葉っぱがあるじゃないか!

 これなら服だと言い訳ができるし、原住民っぽく振る舞えば大丈夫じゃね!?


「そうと決まれば早速採取しよう!」


 颯爽と俺はフルチ○のまま森の中へ駆けてゆく。

 そうして、手ごろな葉っぱを見つけた。

 熱帯雨林の葉っぱとまではいかないが、そこそこ面積のある蓮の葉っぱのようなものを見つけたのだ。――ちょっと、棘があったが。


 背に腹は代えられない。

 街に入るにはどうしてもこうしなければいけないんだ。

 全裸の状態でどんなに言い訳しても聞き入れられないのは明白だからな。

 想像してみろ、フ○チンの男が「俺は怪しい者じゃない!」って言ってる姿を。確実に怪しいだろ?

 ところが、ほら、そこに葉っぱを足してみるんだ! 一気に怪しさは半減! 通りすがりの美少女だって、この姿をみたら――なんでこの人こんな場所でこんな格好してるの? 可哀想に……。ってなるから!


「痛っ、棘がケツに刺さる……アウチ! つつっ……俺のデリケートな美尻になんつーことをしやがる……」


 そんなこんなで、ようやく葉っぱを腰に巻きつけることに成功した。

 大事なところは隠せた。

 これで万事OKだ!!


 お、ちょうど良いところに向こうから人がやってくる。

 三人くらいの若い男だ。

 見るからに中世の騎士っぽい感じだ。重装の鎧とまではいかないが、街の紋章っぽいもの――盾とライオンの紋章――を三人揃って同鎧の胸のあたりに着けていた。

 荷物を運んでいる様子もないし、ここら辺を見回りに来た善意ある自警団の人かなんかだろうか。

 同時に、ここはやっぱり異世界なんだな、と実感する。現実世界だったらあんなの絶対いない。

 ここで人に出会えたのは二度目。

 天運は我にあり!

 僥倖ってもんだ。今度は頑張って対話しよう!


「おーい、た、助けてくれぇ!!」


 俺はその三人衆の目の前に躍り出る。


「な、何奴!! 魔族か!?」

「ま、待ってくれ! 俺は怪しい奴なんかじゃない!! 槍を向けるんじゃねぇ!」

「嘘をつけ、そんな怪しい恰好をしている奴がいるか!」

「おりゃああっ!!」

「アウチ!! おい、問答無用でケツに棒をぶっさすな!!」

「うえ、葉が破れたけど、こいつ葉っぱ以外に何も着けてないぞ! 変質者だ!!」


 あれ? 雲行きが怪しいな……一芝居打たないと捕まっちまうかも?

 魔物に襲われた事にして、服を犠牲にした線で無実にならないだろうか。

 ――しかし、このスカートみたいなのは落ち着かないな。スースーしやがる。変な趣味に目覚めちまいそうだ……。


「違う! 俺は変質者じゃない! いや、今の状況を見れば確かに変質者かもしれないが、今はそうじゃないんだ! 信じてくれ!! 俺は魔物に襲われたんだ!」

「ほう――ならお前、所属はどこだ?」


 俺に槍を構えていた男が、目を細めて尋ねて来るんだが……しょ、所属だって!? 意味わからん!

 なんだこの世界は! 外に出るにも何かの役職にでもついてなきゃいけないってのか!?

 そうだ、と、とりあえずアレだ!

 ――ラノベの花形、というより、異世界ファンタジーの花形! あれしかねぇ!!


「ぼ、冒険者だ!!」


 名乗った途端――


「冒険者ぁあ?」


 思いっきり疑われた。

 これ、やばいぞ。


「なら、登録名を名乗ってみろ」


 あ、やべ、詰んだ。これってきっと冒険者ギルドみたいなところに登録してある名前のことだよな……とりあえず自分の名前でも名乗っとくか。

 ――あれ? 俺の名前ってなんだっけ?

 ええい、適当に名乗っとけ!!


「あ、アレンだ!」

「アレン? 聞いた事がないな……」


 騎士っぽい人の一人が、なんだか小さい箱――四角くて、表面に奇抜な模様の細工がされているもの――を取り出した。

 それを俺の目の前まで持ち上げる。


「冒険者ギルドへつなげる。お前の名を名乗ってみて、それで照合できたら、お前を保護してやろう。おいお前ら、こいつが逃げないように囲め」


 えぇ……ファンタジーなのに遠隔通信できる道具みたいなのあるのかよ……。

 つーか、騎士のおっさんの腕光ってるけど――あれってもしかして魔力って奴か?

 というより、そんなことはどうでもいい。俺の正体がばれようとしている――。なんとかしないと本当にヤバイ……けど、けどもう手詰まりだ!

 ええいもう自棄だ!! どうにでもなれ!


『はい、こちら冒険者ギルド、フェレス支部です』

「フェレス騎士団、オズワルドだ」

『オズワルド様、声紋認識で本人確認いたしました。本日はどのようなご用件でしょうか?』


 すっげぇ……箱のなかから女の人の声が聞こえる。

 これって携帯に相当するものなのかな。

 そしてこのおっさんやっぱり騎士だったのか。口調からすると、結構偉い奴なのか?


「冒険者ギルド所属の冒険者だと言い張る『全裸の』妙な男を捕らえた。照合をしてほしい。名前はアレンだそうだ」

『かしこまりました。少々お待ちください』


 いつの間にか他の二人の騎士っぽい人たちは俺を取り囲んでいる。

 いつでも身柄を確保できる状態ってわけか。

 で、でもほら、アレンなんてありそうな名前、いっぱいあるし! 大丈夫大丈夫!


 そこで俺は出逢ってしまった。

 異世界ファンタジーであることを再度認識させられた。


「え、なんなのあの人」

「うわ……全裸よ……キモ」


 通りすがりに――なんと――……ネコ耳生やした女の子、獣人がいたのだ!!

 もう一人の方は人間だが、そんなものはどうでもいい!!

 俺はあのネコ耳少女にどうしようもない胸の高鳴りを感じた。

 それに飢餓感のようなものも一緒にだ。


 あのもふもふを――触りたい!!


 そう思った時にはすでに口は動いていた。


「うへへ……嬢ちゃんいいネコ耳してんじゃねぇか! 俺にもふもふさせやがれ!!」


 数秒の空白――まるで時間が止まったようだった。


「キャアアアアアアア! へんたぁあああい! 騎士さん、そいつ殺して!!」


 全員が、「え、何言ってんのコイツ、マジドン引きなんだけど」みたいな顔をして俺を見ている。


 え、俺今、何言った!?


「やっぱり変態だったかこのクソ野郎!! 死ね!!」


「うぉおおおおおおああああ! ケ、ケツに、槍の柄をツッコムなっ! 死、死ぬっ! これマジで洒落になんねっつーの! ゲイに目覚めたらどうしてくれんだ!!」

「お前の発言の方が洒落にならんし、ゲイなぞ俺の知ったことではないわ!」


 そうして、次に無情な現実が突きつけられる。

 ネコ耳少女はこちらを振り返りもしないで行ってしまった……。畜生!!


『お待たせいたしました。冒険者ギルド内にそのような人物はおりません。念のため商業ギルド等にも問い合わせを行いましたが、該当する者はおりません。――その『全裸の』不審人物を確保してください』

「よし、おとなしくしろテメェ」

「え、な、何かの誤解じゃ――」

「大体、葉っぱ巻いた冒険者なんてどこにいんだ! 奴らは自分の装備に命かけてんだ! その装備を魔物にやっちまう馬鹿なんていねぇよ!」


 あ、そんなもんなのか――って。

 なんだか両手に荒縄の感覚が!?

 本気でこれ――もしかして俺、捕まった、のか?


「お、おい何も縄で縛らなくても良くない……!?」

「うるせぇこの変質者め! お前はみっちり俺たちが取調べしてやるからな! 覚悟しろ!!」

「えええええええええええええ!? いきなり逮捕されんの!?」

「おとなしくついてこいよ、さもないと――テメェの無駄に立派なソレ、斬り落としてやる!」

「ちょ、はは……冗談じゃねぇ……」


 お父さんお母さん――俺、公然猥褻罪で捕まったの、初めてだよ……。

 なんだよもう、異世界に来ていきなりフル○ンで、しかもおっさん三人に捕まるとか――地獄でしかねぇ……。

 せめて、せめて、綺麗な騎士姫様に折檻されたい!!


 そんな俺の淡い期待は――散る。


 約3時間に渡るおっさんの尋問の末、俺は懲役2週間を喰らっちまった。

 刑が意外と軽いのは、俺がこの世界について何も知らなかったという異常と、悪意はなかったという事で情状酌量され、フル○ンであったことに対しての刑は実はゼロだったわけだ。


 問題だったのは――あの発言。

 あの異常発言のせいで、俺は懲役を喰らった。

 口は災いの元、とはよく言ったもんだ……。


 異世界転移した初日に、こんなことになったのは俺位なものじゃなかろうか――。

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