第15話 事象:ITにおける黒猫が策士な件について

「皆さーん! 悪人の取り締まりにご協力ください!!」


 まずい、これは非常にまずい。

 お姉さんが人を殺せる目で俺を見てきている!

 やめて、そんな目で見ないでっ! 目覚めちゃうからっ!


 なんて、そんなこと言ってる場合じゃない! でもお姉さんの眼がクールすぎて困っちゃう!


 ヤバイ、何度も言うが、ホントにそんなこと言ってる場合じゃねぇなこれ。


 周りの談笑していた冒険者たちが俺を取り囲んでいる。

 早く誤解を解かなければ。


「ちょっと待ってくれ! 違う、違うんだって!」

「何をあわててるのよアレン?」

「お前が余計なことを言うからだろうっ!?」

「お前じゃないでしょ、クラウと呼びなさい!」

「っちっくしょうっ! やっぱかわいいな! 結婚してくれ!」


 ええい、名前を呼ぶことを要求してくるなんてなんて奴だ!

 かわいいじゃねぇか。


「おいおいあんちゃん、威勢がいいなぁ? 一体どうしたってんだい」

「は、はは、違うっての。俺はなんもしてねぇ! クラウに求婚しただけだろうがっ!」

「サマエルさん! 良いところにおいでくださいました! この人、このクラウ様を攫って来たみたいなんですっ!」

「冗談じゃねぇ! こんなイケメン捕まえといてそりゃねぇだろう――」

「よし殺そう。決めた。今決めた。オレがあんちゃんにトドメさしてやるよ」


 ちょっとまてっ、なんでおっさんそんな乗り気なんだよっ!!

 つーか落ち着けよみんな!

 クラウは何をしてるんだ!?


「おいクラウ! いつの間にそんな所カウンターの向こうでお茶をいただいてるんだよっ!? 誤解を解いてくれ!!」

「え? 私?」

「え? 私? じゃねぇよぉぉおおお! クラウさん、あなたですよ!? 俺は貴女に話しかけてんですよっ!? つーか他に誤解を解いてくれる奴が一体どこにいるんだ!? なぁ教えてくれよ!? なぁ!?」


 必死で叫ぶ俺に、サマエルと呼ばれたいかついおっさんが俺の方に手を乗せてきた。


「あきらめろ。お前は既にオレに叩きのめされる運命なんだよ」

「うるせぇ! 冤罪でぶっ殺されて黙っていられると思ってんのかっ!!」

「死ねば黙ってられるでしょうに」

「クラウさんあんた何言ってんの!? だから誤解を――」

「だから、誤解ってなんの誤解よ?」


 俺が今一度助けを求めるが、クラウは取り合ってもくれない。

 一体どうしたというんだ。

 おいサマエル! お前はお前で剣を俺の頬にピタピタさせてくるんじゃねぇ!


「なんの誤解ってお前、この流れだと俺八つ裂きにされちまう! なぁ合意だったよなアレ? お前と俺との関係は合意の上に成り立ってた! そうだろう!?」


 なんか、援助交際がばれたオッサンみたいな口調になっちまった。

 こんな事を俺の人生の中で言う時が来るなんて……泣けてくらぁ。


「そうね……あんなに揉みくちゃに一方的にされたのは初めてだったわ……。確かに、正直アレンの手はこれ以上ない位のものだった。それだけは真実よ。でも――」

「で、でも?」

「あなた、どさくさに紛れて私の下着をとって――その、あまつさえ……お、おっぱいまで触ったでしょっ?」

「……あー……」


 気まずい沈黙が流れる。

 体を抱えて俺を見る黒猫美少女。


「もう私、お嫁に行けないわぁっ」


 よよよ、と泣き崩れるフリをするクラウ。

 この演技派女優め……! でも可愛いから許す!


「おい、あんちゃん、今のは……本当かい?」


 もうここまで来たら言うしかネェ。

 本当の事を――な!


「……俺は後悔はしてねぇ……!! 本当に気持ちよかったです☆ できることならもう一回、いやもう一生揉ませてくだあぁああああい!」


 にこっ。


 父さん、母さん――俺、言ってやったよっ!


 その後俺は冒険者ギルドの皆さんにぼっこぼこにリンチされた。


 クッソイテェ。まじ死んじゃう。

 あ、やめて、ケツに棒をぶっ差すなぁああああああああああ!


「アァウチ!! 死ぬ、マジコレ……ヤバス……おいそこのどさくさまぎれに蹴りつけて来てるエルフの姉ちゃん……そんなに足上げて蹴っちまっていいのかい? 白いパンツ視えちまったぜ? カモン! オラ、もっとこいやああああああああ!!」

「っ!? なんなのコイツ――!? キモっ!」

「ははっ……! ケツに棒をぶっ差した今の俺に――エロさで勝てると思うなよ!?」


 俺は一体何言ってんだ。


「こいつぁ見上げた男だぜ……。皆、手ぇ出すなよ……コイツ、変態マジモンだ……! このオレが始末つけてやる」

「はは、おっさん、少しはできるようだなぁ? だが、今の俺に勝つことはできねぇぞ。なぜなら俺はロリコンでもあるんだから――」


 気付いた。

 なんかしゃべってる間に、おっさんが目の前にいる事に。

 そして、グーで俺の腹を殴ろうとしてることに。


「口上が、長いんだよぉおおおおお!!」

「ぐべはああああああああああああああ!!」


 宙高く舞い上がる俺。

 まき散らされる俺の情熱パトスと、ケツにぶっ刺さった棒。

 そして俺は堅い床に叩きつけられ――ツーバウンドした。


 クソ、イテェ。

 クソオヤジ程じゃねぇが、いてぇ。

 だけど、なんでみんな俺のケツに棒をぶっ刺さすんだ。

 いくらなんでも好きすぎじゃありません? 流石俺の美尻。



―――――



「……本当に誤解だったんですか?」

「いえ、あながち誤解って訳でもないわ。彼にアレな事されそうになったのは間違いないけれど。それでも、彼みたいな人は他にはいないわよ。あんなに突拍子も無くて、意味不明な行動ばかりだけれど――気付いたかしら? あの人、最初から私のこと、髪の毛の先から、足のつま先まで、全部、信じきってるのよ」

「く、クラウディア様……それはどういう――」

「誤解を解いてくれ、って言っていたでしょう。あの人。ふふ、あんなことされてもずっと女を信じ続ける男、今のご時世いないわよ。あぁ、当然だけれど、今のはアレンには内緒よ?」

「……ところで、貴女様が本当は何者なのか、あのアレンさんにはお話されたのですか? どうやら彼は何も知らなさそうですが……」

「私が自分から話すわけないじゃない? 話すことがあったとしても、まだよ。焦らなくてもいいと思うの。今はまだ……道端で偶然出会っただけの、気の合う美少女一人、ってところで私は満足してるのよ」

「自分で美少女っておっしゃるあたり、クラウディア様ですよね……。かしこまりました。私どもも出来うる限りサポートをさせて頂きますので、どうかお怪我などなされませんように」

「ええ、でも、特別扱いは無用よ? あなた達もビジネスだもの。私に気を遣わなくてもいいの。自由にやりなさい」

「私どもは私どもの意志で動きます。それが冒険者ギルドの流儀であり、未来の世界の為ですから」

「ふふふっ、そうね。そうだったわね……」



―――――



 あれから十分くらいの後、俺は目を覚ました。

 どうやらサマエルさんの鉄拳を腹に喰らって伸びていた間に、クラウが誤解を解いてくれていたらしい。


「なぁ、俺ボコられる意味あったのか?」

「あったわ。これであなたと私は対等よ」

「意味が解らんが、納得したならそりゃ良かった。それじゃあ本当に俺を殺す気はなかったわけだ」

「……? パーティーの仲間をなんで殺すのよ? 今のは、貴方が他の女の子にもああいう事をしかねないから、先手を打って罰を与えただけじゃない?」


 それはアレか? 私以外に手を出すんじゃないわよ的なアレなのか?

 お兄さん勘違いしちゃうぞ?

 ……んな訳ねぇか。

 とりあえず謝っとくのが吉だ。


「そ、そうか。なんかすまん」

「いいえ、どういたしまして……それじゃああらためて、これからよろしくね。アレン」

「ああよろしく。できれば毎日身体触らせてくれないか? あと好きだ愛してる結婚してくれ」

「いい加減にしなさい! この、バカ!」


 思いっきり蹴りを脛に受けた。

 あはは! クラウからの蹴りは本当にご褒美だ! 痛くねぇ上に、パンツまで拝める!


 何故、あんな芝居を打ったのか聞くと、彼女は、いたいけな美少女の肌を蹂躙したのだから、それくらいの報いは当たり前。むしろ死ななかっただけ感謝してほしい位だわ、とのこと。

 納得。

 受付のお姉さんの眼もすっかりもとに戻ってた。


 なんにせよ、クラウ自身に働いた狼藉は赦されたみたいだ。良かった。これでまたクラウの身体を触ってもいいな。それに、これくらいで済むならいくらでも俺はMOFUってやるぜ……!


 まぁでもひとまずは安心、安心。


 さて、気を取り直して話の続きといこうかね。


「それで――どこまで話をしたんだっけ?」

「実績がないから冒険者ギルドに入れませんよってとこまでよ」

「ああ、そうそう。お姉さん、実績って何のことなんだ?」

「はい、それでは説明を続けさせて頂きます……。あ、アレンさん。本当に傷の方は大丈夫なんですか? 剣で斬りつけられたり、殴られたりしてましたけど」

「ん? あ、なんか大丈夫みたいなんで、気にしないでください。もう治りましたし、痛みもないっす」

「そうですか……丈夫なんですね……」

「ほらほら、俺の事はいいから」

「あ、は、はい! それでは気を取り直して――実績、というのは文字通り、これまでどのような事を成し遂げてきたか、またはどの程度の依頼をこなせるか、という目安になります。冒険者ギルドも慈善事業の団体ではございませんので、依頼をしっかりとこなせるであろう人材を求めている訳ですね。

 なので、少なくとも魔物討伐未経験者の方の入会はお断りさせていただいている次第です。」

「魔物討伐……? それは全くの支援なしで、個人でやってこいってことなのか」

「いえ、そういうことでもなくてですね、他の正規の冒険者のパーティーに入ることが可能でございまして、その方法で魔物討伐の手順、解体の方法、野営時に気を付けねばならないこと――などなどを教わる訳です。

 ですから、最初は役割ロールを決めていただいてから、パーティーの募集を書けるのが一般的ですね」

「なるほど……そういうことか。ありがとう受付のお姉さん」


 どうやら他の冒険者パーティーに加わって、魔物を倒さないと冒険者ギルドで正式な依頼はもらえないらしい。

 日はまだ落ちてはいない。

 これからすぐに魔物討伐に行けるものなのかもわからないが、とりあえずあの掲示板のところに行ってみようか。


「なぁクラウ、そういえば――俺達装備とか揃えてないよな? どうする?」

「それなら心配ないわ。アレンが伸びている間に、私は説明を一通り聞いたの。そうしたら、ここの倉庫にある支給専用の武器とかを使っていいって言っていたわ。ただし、一人につき武器は一つ、防具もワンセットだけみたいだけれど」

「それでもすげぇな冒険者ギルドは儲かってんだなぁ。さて、じゃあ――冒険者のパーティーに参加させてもらう前に、武器とか見繕うついでに役割ロールの設定に行こう。それでいいか?」

「ええ、いいわよ。それじゃあ武器倉庫に向かいましょうか。受付のお姉さんが先に行って待ってるそうよ」


 なんだか順調に冒険者生活の下地が出来上がってきた――気がする。

 初っ端から冒険者の皆さんにボコにされるとは思っていなかったが、あんまり痛くなかったから良しとしようか。


「はは、暗い倉庫で黒猫美少女と二人きり……ヤベェ! モフ、モフ……ハァハァ……!」

「ちょっと、あんまり変な事言うと今度こそ強姦で訴えるわよ!? それに受付のお姉さんも居るって言ってるでしょっ! この変態!」

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