第13話 事象:ITにおける冒険者の心構えについて
円形の東広場。それを取り囲むようにして建っている大小合わせて五つのギルドの施設。看板にはそれぞれ、魔術師、冒険者、戦士、商業、農業と書かれていた。
とても分かりやすくて良い造りをしている。
その中の冒険者ギルドの前に、俺とクラウは立っていた。
「ここか」
「ついに来たわね」
道中クラウに冒険者ギルドの事を訊いてみたりしたが、答えはどれも俺が知っているものと変わらなかった。
何をするところなんだ、と問えば、各都市の住民たちの依頼をまとめていて、それを斡旋する施設だとか。要するにアレだ。依頼を達成すると幾分かの報酬がもらえ、冒険者たちはその報酬と、依頼の中で必ずと言っていいほど出会う魔なるもの――人ではないもの、魔物と呼ばれる種族――を討伐した素材を冒険者ギルドに売って生計を立てている訳だ。
そんな冒険者ギルドの一員になろうとして、今俺たちはここに居る。
ちなみに装備とかは何も買ってない。何が必要なのかは冒険者ギルドの人に訊けばいいと思ったからだ。
そしてついに俺たちは 冒険者ギルドの扉を開ける。
俺の身長の倍の大きさはある大きな扉を開けると、そこはファンタジーの世界だった。
耳の尖っている人種はおそらくエルフだろう。獣や鳥の一部を体に宿している獣人・鳥人らしき人もいる。果てはヘラクスのような巨体を持った、巨人まで居た。
その様々な人種と同じくらい目を引いたのが、各々が纏っている防具の品だ。
魔術細工に彫られている魔術とは別のものが掛けられている鎧を纏った者、大きな武骨な斧を二本持っている者、常時燃えているように見えるのに、抜刀しない限りは熱を放たない大剣を背負っている者。
「おぉ……!」
日本では見られなかった光景に、思わず歓声を上げてしまう。
しかし人が多い。
受付は四つあるのだが、どのカウンターも人が並んでいた。
「これ、並ばなきゃならんのか」
「そうみたいね。ほら、新人受付の窓口があるわ。ほら、行くわよっ!」
クラウもこの光景を見るのが初めて見たいだ。周りを見渡して、他の冒険者たちの装備をみて興奮しているようだ。
あれすごい武器ね、とか、おっきな人ね。私初めて見たわ。とか。羽毛に包まれ、両手が翼になっている人間を見て、鳥人なんて初めてよっ、焼いたらおいしいのかしら? とか。
「はは、鳥人の人は食べない方がいいんじゃないか?」
「でも、手羽のあたりとかおいしそうよ?」
「カニバルなよ? 殺したら立派な殺人罪だ」
「それもそうねっ……ふふっ、こんなにすごいなんて、思わなかったわっ!」
興奮冷めやらぬ様子で、未だにはしゃぐクラウ。
微笑ましい限りだ。
新人冒険者の受付も意外と混んでおり、俺たちのすぐ前に全身暗い紫色の衣装で身をつつんだ忍者みたいな恰好した奴が居て、その前にもグループのような四人組みがいた。
「まだかしら、ねぇアレン! 私たち、冒険者になれるかしら!?」
「ああ、きっとなれるさ。どういう試験があるのか、どういう仕組みなのか全くわからんがね。俺とお前ならきっとできるさ」
「ふふふ……そうね! そうよねっ!」
もうクラウは尻尾をゆらゆらと嬉しそうに振っている。
すっげぇかわいい。嫁にしたい。
数分だろうか。妄想でクラウを五回ほど全裸にしたあたりで、俺の前の奴――忍者のような姿の奴だ――の番になった。
「ワタシ、
噴き出した。あれはズルい。日本語を覚えたての外国人みたいなしゃべり方で……「ニンジャエルフデース!」って、おもしろすぎるだろ。つーか忍者ならわかるが忍者エルフって、そんなのがこの世界にいるのか?
「忍者エルフ? なんですかそれ?」
あ、やっぱりいなかったみたいだ。受付のお姉さんがしかめっ面で忍者のような奴――声音からすると女だ――を見ていた。
「……忍者、オマエしらないでース?」
「存じ上げません。
「……? 忍者ができるのは忍法でース。それ以外にありまセん!」
「忍法……? 魔術のようなものですか?」
「ウーン、ちょっと違うでース。でも、似たようなものでース!」
「そうですか、では、魔術師で登録いたします。コールはお持ちですか?」
「イエス!」
「では、こちらで登録させていただきます……。エルフ族精霊使い、ああ、
「ダマルでース。ワタシが使うのは忍法でース……訂正しないとその首とりまース!」
おいおい、忍者! 精霊使いって言われてんじゃねぇか。そして背負ってる日本刀っぽいものを抜刀しようとすんな! 怯えてんじゃねぇか受付の姉ちゃん!
それでも忍法って……こいつ何考えてんだ? 俺と同等のアホか? 気が合いそうだな。
というかロールって何のこと言ってんだろうか。まぁなんにせよ縁があったらコイツと話をしてみたい。覆面してて素顔が見えないけど、美人だということは俺の直感で判明している。
渋々忍者ということで受け入れたお姉さんは、コールによる登録手続きを数秒で終わらせた。
「それでは、えー……忍者エルフの登録名、ハンゾー・ハットリさん。貴女は十分な実績を積んでいるので、正式に冒険者ギルドの一員となりました。ただし、注意してください。いくら精霊――」
「忍者でース! その首、貰い受けまース!!」
「こほん、いくら忍者の里で一人で魔物を狩っていた方と言っても、通例通りこの街から出るには二人以上のパーティーを組んで依頼に向かって頂きます。パーティーを組んでくださる方に当てはありますか? なければあちらの魔導掲示板におります、係の者にお申し付けくだされば、パーティーの募集・応募を掛けられます」
「ハイ! ありがとでース!」
ヤバイ、笑いをこらえられん。隣のクラウなんてもう涙目だ。
なんだこいつ、愉快すぎる。
異様に素早い動きで奴は掲示板の前まで行ってしまった。
さぁ、ついに俺たちの番だ。
「こんばんは。ようこそ冒険者ギルド・フェレス支部へ。本日は冒険者への登録受付ということでよろしいですか?」
「そうよっ!」
「……えっと、すみませんお二人ともコールはお持ちでしょうか?」
「ああ、持ってるぞ」
「持ってるわ!」
「はい、お預かりいたしますね……」
数秒のはずの時間が数時間ほどに長く感じる。
ロールとか訊かれなかったのはきっとさっきの忍者で懲りたのだろう。
たっぷり待って、ようやく受付のお姉さんが俺達二人にコールを手渡してきた。
さぁ、俺達もついに冒険者の仲間入り――
「えっと、すみません。
まじか。
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