第14話 事象:ITにおけるギルドでのお約束について

 受付のお姉さんに言われたとおり、案内された窓口へと俺たちは向かう。

 掲示板の前にはあの忍者エルフが立っていた。


「ヘイヘイヘイヘイ! お仲間募集中でース! そこのお兄さんどうでース、一緒に忍者やるでース!?」


 否、呼びかけをしていた。

 受付のお姉さんが言っていたとおりの記入するものがあるにもかかわらず、そこでほかの冒険者に声を掛けていたのだ。


「ちょうど人手の要る依頼だったんだよな。君、役割ロールはなんだい?」

「だから、さっきから言ってるでース! ワタシ、忍者でース!」

「は? ……なんだコイツ、意味わかんね」


 こんな感じだ。

 突然の忍者宣言についていける奴はいないようで、その若者も、次に声を掛けた女性も、みんな忍者という名乗りを聞いた瞬間、逃げるように去っていってしまっている。

 ううむ、いいのにな。忍者。


 俺とクラウの進行方向は掲示板のある中心部分から少し離れた場所の受付だから、忍者エルフに声を掛けてもらうことはない。というかクラウがちょっと嫌がっていた。残念。

 だが、まだ声を掛けてもらうチャンスはある……なんとかあの忍者エルフと接触できないだろうか。


 そんなこんなしている内に、俺たちはカウンターへと辿り着いた。

 ちなみにここは羽田空港並みに広い。入り口から見た時は普通の家に見えたんだが。いったいどういう造りしてんだ。魔法でなんとかしてるのか?


「はい、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 綺麗な礼儀正しいお辞儀をして、にこやかに俺たちに話しかけてくれる受付のお姉さん。

 それを受けてか、クラウは上機嫌に返事を返す。


「ねぇ、冒険者ギルドに入るのに、必要なものがあるの?」

「冒険者ギルドへの加入をご希望ですね。かしこまりました。冒険者ギルドについてどの程度ご理解いただけておりますか?」

「各都市の住民達の依頼を取りまとめて、所属している冒険者たちにその依頼を発注してて、希望があれば依頼の途中で倒した魔物の素材を買い取ってもらえる……ぐらいの知識しかないです」

「ええ、その通りで間違いございません。では、入会に当たり、冒険者の役割ロール設定、並びに実績についてはご存知でしょうか?」


 さて、訳の分からん単語が来たぞ。


「いや、分からない。教えてくれませんか?」

「はい、かしこまりました。では、説明させていただきます。

 役割ロールというものは、冒険者ギルドへの登録時に必ず設定していただく必要がございます。こちらのリストをご覧ください」


 お姉さんが両腕に魔力を流すと――両腕が淡く光ったので魔力を流したと分かった――俺たちの目の前に向こう側が透けて見える、パソコンで言うところのウィンドウのようなものが出てきた。


 そこには大分類として戦士、魔術師、盗賊、僧侶と書かれている。


「すごいな魔術って。こんな……リストを表示させることもできるのか」

「いえ、これは魔術ではなく、このギルド自体に埋め込まれている、従業員しか使用できない特殊な魔導細工を使用しております。詳細な説明はできませんが、魔導細工技師の方の権利を侵害してしまう恐れがありますので、誤解なさらぬようお願いいたします。

 それでは、役割ロールについての説明を続けさせていただきますね。

 只今表示されているモノが役割ロールでございます。それぞれに特徴があり、こちらを設定することにより、個人の戦闘スタイルが一目で分かるようになっております。大分類を設定し、それに沿った戦闘行動を行うと、自動的に大分類から中分類、小分類へと移行していきます。なお、設定した大分類の役割ロールとはかけ離れた戦闘スタイルになりますと、自動的にコールに設定された役割ロールが直されますので、よくわからない方でも安心して戦闘を行うことができます。

 こちらはパーティーを組む際の重要な資料になりますので、初回は必須の設定となっております。なお、役割ロールの違いによる、パーティー間の争いに関しては冒険者ギルドは一切責任を負えませんので、ご了承ください」


 なるほど。これを基準にしてパーティーを組むというわけか。

 そりゃ重要だ。


「それでは設定等をコールにて出来る様に致します。合わせて実績についての説明時に個人情報などを冒険者ギルドに登録する必要がありますが、お預かりしてもよろしいですか?」

「ええ、いいわよ」

「ああ」


 コールをお姉さんに渡すと、少しお姉さんが一瞬触れた。


「はい。こちらで設定が可能になりました。ご確認ください。」


 何をしたのかわからないくらい早かった。今のでデータの転送らしきものが終わったのだとしたら、地球の技術よりこっちの魔法技術のほうが進んでるんじゃねぇのかこれ。

 なんか未来的にも見えてきた。

 おかしい。周りの人の格好は鎧兜、ローブだったりしてファンタジー風味だってのに、最新技術の機械を持ってるみたいで違和感しかねぇ。


 そういえば俺、コールの登録しただけでろくに起動させてなかったんだよな。

 起動の仕方がわからん。聞いとくか。


「おねえさん。これ、どうやって起動させるんだっけ?」

「……」


 ん? なんだ、お姉さんが何かを見てとまってるぞ?


「ちょっと、お姉さん?」

「……あの、大変申し上げ難いのですが――隣のクラウディア様は、お友達でいらっしゃいますか? 事と次第によっては兵士を呼ばなければならないのですが、正直にお答えください」


 なんだ、いきなりお姉さんの目に殺気が宿ったんだが……。

 そこで俺は気付いた。

 気付いてしまった。

 話の流れからするとおそらく次は実績の話になる。だから今、お姉さんが見ているのは俺のコールに入っている個人情報だろう。

 そして俺には――前科がある。


 それも飛びっきり風評被害にあうやつが。


 そりゃ疑われるさ。

 きっとお姉さんはこう思っているはずだ――変質者が、子供にしか見えない美少女を攫ってきたのではないか――と。


 しかも、それはあながち間違いではないことが問題だ。


 やばい。クラウの返答に全てを懸けるしか、俺に残された道はねぇ!


「あはは、友達なんて冗談よしてよ、コイツはただの変態よっ」

「なっ、どういうことですか、クラウディア様!?」


 クラウさん……頼むから空気を少しは読んでくれ。

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