第29話 事象:ITにおけるイチャコラタイムの重要性について

「それではこちらの依頼でよろしいですね?」

「はい。お願いします」


 さて、パーティー名の登録も無事に終わり、俺達は魔導掲示板の近くにいた受付のお姉さんに依頼を受ける旨を伝えていた。


「確かに承認いたしました。『閃光纏いし希望の流星ルナティック・オーバースターズ』様のお名前で依頼を受けられるよう登録いたしました」

「……? なんでだろう。周りの視線が一気にこっちを向いた気がするんだけど」

「私のネーミングセンスに愚民どもは平伏したのよ。それより、アレン。ちゃんとお姉さんの話を聞きなさい」

「あ、ああ」


 『閃光纏いし希望の流星ルナティック・オーバースターズ』って、改めて他人から聞くと、なんか微妙な心持になるな。決まったことだから別にいいけどさ。


「カッコイイでース……『閃光纏いし希望の流星ルナティック・オーバースターズ』……」

「おい忍者、なに胸ときめかせてんだ」

「アレン、静かにしなさい。受付のお姉さん困ってるじゃない」

「……でもぉ」

「アレン」

「はい……お姉さん、続けてどうぞ」


 仕方ねえ。クラウさんがそう言うなら仕方ねぇよな。

 通りすがりの『クリスタリアの導き』の連中がなんか、「御頭、俺達も負けてらんねぇですぜ!」とか言ってじだんだ踏んで悔しがってたのは見なかった事にしておく。


「では、パーティーの皆様にも依頼内容を共有できるよう、メンバーの方のコールの方に情報を転送しておきましたので、わからなくなりましたらご確認ください」

「お、本当だ。転送されてるな」

「そうね。確認したわ」


 クラウさんがコールを開くと、空中に四角いディスプレイのようなものが魔力によって生成された。

 スケスケの液晶画面だけが目の前に展開されているのを想像してくれればその通りだ。

 魔術ってすごい。いや、魔導細工か。



「なお、途中で依頼を放棄されるようなことが無いようお願いいたします。冒険者ギルドの信用問題にもなりますので、お気を付け下さい。――とは言っても、今回の依頼は冒険者ギルドからの依頼なので、命には代えられません。魔物に囲まれたときや、強敵と会ってしまった時は無理をせずコールにて救援部隊をお呼びください。救援部隊についての説明は必要ですか?」

「いや、救援の内容によってかかるユルドが違うっていう話でしょう?」

「その通りでございます。それでは――お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「ついに出陣でース! 腕がなりまース! 今度はアレンに遅れはとりませーン!」


 ハットリが腕をブンブン振り回しながらやる気をアピールしている。

 うん。張り切りすぎて魔力切れ起こすなよ。


「あのー、どんな依頼を受けたんです? このコールとか言うのもいまいち使い方が分からないですし……」

「安心しろ。俺も良くわからん」


 マリーさんが四角いコールをその乳の谷間に挟んでため息を吐いていた。

 なんだか周りのおっさん達の眼がマリーさんに注がれているような気がする。ちょっと不愉快ではあるが、実害はないので放っておいた。

 つーか、なんでそんな踊り子みたいな衣装にしたんだマリーさん。

 戦闘できないからって趣味に走りすぎだろ。


「今回はアレンの戦闘訓練も兼ねて、冒険者ギルドからいっつも出てる依頼――薬草やら、魔物の素材の納品よ」

「え、あれっていっつも出てるのか。制限もないし、簡単な依頼だからラッキーだと思ったんだけど」

「冒険者ギルドは薬草とか魔物素材を商業ギルドに売りつけてるんでース! 冒険者も育つシ、お金も設けられますカラ、うってつけでース!」


 なるほど、と感心してしまう。

 みんな物知りなんだな。

 俺が知らな過ぎるだけかも知らんが。


「それじゃあ東門から出て、森の方に行けばいいんだよな? ハットリ」

「そうでース! 張りきっていきまショー!!」


―――――


 そんなこんなでまたもやあの森に来たわけだ。

 今度はゴブリンに遭遇しても無理やり突っ込んだりしねぇぞ!


「それじゃあ――探索するかぁ」

「私は何をすればいいですか?」

「……森の入口あたりで薬草採取ってのはどうだ? 魔物と戦うのはあんまり得意じゃないっつーか、倒せやしないしな。マリーさんとか」


 別行動を取るのはあまり得策じゃない気もするが、今日の俺は戦闘経験を積みに来たんだ。魔物というか、ゴブリンと戦わなきゃならん。


「じゃあこうしまショー! ワタシとマリーで薬草あつめまース! クラウとアレンで魔物を探しに行くといいでース!」

「えっ、クラウさん戦うのか!?」

「何よ? 悪いの?」

「いや悪くはないが――危険だぞ?」

「バカにしないでよ。私だって冒険者なんだから。それに、アレン一人で森の奥まで言って帰れなかったどうするのよ」

「でも……何かあったら俺……」


 正直言うと、クラウさんには後方に控えていてくれるだけで俺は満足なんだ。

 というより、家にいて帰りを待っていて欲しい。

 危険なことはなるべくさせたくないんだがな……。


「アレン。私言ったわよね? 冒険者パーティーに入れなさいって。マリーはともかく、私は自分で言ったことはできるようになりたいって思ってるの。だから、アレンが何を言っても無駄よ。私は決めたんだから」

「クラウさん……」


 ぷい、とクラウさんはそっぽを向いてしまった。

 俺は――俺は――


「な、涙で前が見えねぇ」

「何泣いてんのよっ、ほら、行くわよっ」

「ま、待ってくれよっ、独りじゃ危ないってのっ」


 俺はクラウさんと並んで森の奥へ向かうのだった。


「アレーン、クラーウ、危なくなったらコールで連絡するでース! 忍法で一応アナタ方に何があったのかは分かりますガ、たまに効果がきれまース! なんにせよ、気を付けるでース!!」


 後ろから、ハットリの声が聞こえたので、おう、と短く返事を返した、

 マリーさんが「くっさ、これめっちゃ臭いじゃないですかっ! なんかクソ神の匂いもしますし! もういやです!」とか叫んでたのも聞こえた。


「そうだ、クラウさん。今のうちに言っておきたいことがあるんだが」

「なによ? 変な事行ったらぶっ飛ばすわよ?」

「愛してる。俺と結婚してくれ」

「バカっ!」


 脛を思いっきり蹴られた。

 容赦ねぇなぁ。

 だが――それが逆に気持ちいい!!


「俺、この依頼が終わったら結婚するんだ☆」

「気持ち悪いわ。一体どうしたの?」

「いや、フラグだけ立てとけば俺だけに被害がとどまって、クラウさんは無事でもどれるかなってさ」

「意味が解らないわ」

「俺がクラウさんを守るってことさ」

「……」


 俺の言葉に一瞬びくりと反応したクラウさんは、黙り込んでしまった。

 一体どうしたんだろうか。


「なぁクラウさんどうしたんだ?」

「クラウと。クラウと呼び捨てにしなさい。いいわね?」

「どうしたんだよ急に。まさか、俺の嫁になってくれるのか!?」

「そんな訳ないでしょっ! 気分よっ、気分! 私はアレンって呼び捨てにしてるのに、アレンが私の事呼び捨てにしないからなんか気分が悪いのよっ! それだけなんだからっ」

「……ふ、ふふ、はははははは!!」

「ひっ、なによいきなり!?」


 最高だ! クラウさんがめっちゃかわいい!

 宿屋着いたらモフってやんよっ!!

 今ならゴブリンだって百匹はぶっ殺せるぜ!!


「クラウ、愛してる!! 結婚してくれ!!」

「いやよっ!」


 くそ、照れやがって!


 そうして、俺はすっかりクラウさんに熱を上げてしまった。

 どれくらいイチャコラしてただろうか。ゴブリンの姿が遠目に見えたのは結構時間が経った後だった気がする。


「アレン、しゃがんで……」


 くい、と俺の服の裾を引っ張るクラウ。


「居たのか? 俺には全然見えないんだが――」

「まっすぐ行くと、茶色っぽいのが見えるでしょ? あれよ」

「あぁ、あれか」


 目を凝らすと、森の奥深くに単独のゴブリンを見つけた。

 餌でも探してるんだろうか。地面を掘っているように見える。


「――私がやるわ。上からの不意打ちで一発で仕留めるから。やらないとは思うけど、もし私が失敗した時の為に、アレンはゴブリンに見つからないように着いてきてよね」

「あぶねぇって……」

「森なんだから獲物はいっぱいいるでしょう? それに、アイツを殺したら、仲間が血の匂いを嗅ぎつけて復讐しに来るかもしれないわ。その時に活躍するのはアレンなんだから。頑張りなさいよ?」

「……お、おう」


 変な気迫に押されてしまった俺は、クラウさんの言うとおりにした。

 すると――クラウさんは器用に木に登り始めたじゃないか。

 パンツ視えた。

 今日は黒と白の縞パンか。しかもガーター付。スカートで森に来るなんて、やっぱりクラウさん分かってらっしゃるわ。


「ちょっと、パンツ視ないでよっ」

「見てない見てない」

「……何色だった? 答えたら今日いい事してあげるわよ」

「黒と白。最高だった。そのパンツ後でくれ」


 瞬間、クラウさんが目の前に降り立ち、俺の首筋に短剣を突き付けた。

 びっくりしたなんてもんじゃない!


「っ……流石お猫様。身軽さには自信があるってか」

「アレン。モフモフさせてあげる時はある程度は好きにさせてあげるから、こういう時くらい真面目にやりなさい?」


 耳にそっと囁いた後、俺の顔を見てにっこり笑うクラウ。

 背後に般若が見えた。こりゃあ逆らわない方が無難だ。

 あ、でも良い匂いだった。もう一回してくんねぇかなぁ。


「思考が口にでてるわ。刺すわよ?」

「……すんません……つーかちょっと刺さってるし。いてぇ」

「どうせ死なないでしょ? 私と居れば。ほら、さっさと殺るわよっ」


 またもや木の上まで軽々と登るクラウ。


「……」


 俺は草むらからゆっくりとゴブリンに近づいていく。

 ふと上をみると、クラウが木と木の間を跳び移っていた。

 あ、パンツ見えた。ラッキー。

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