第33話 事象:ITにおける知り合いとの邂逅率(出会い過ぎ)について

「……」


 なんだ、体だが熱い……。

 俺どうなったんだ?


 ――そうか。

 クソオヤジに伸されてそのまま倒れたんだっけ?


「起きたか」

「こ、ここはどこだっ!? いってぇっ!?」


 目を開けて勢いよく顔をあげたら、クソオヤジの頭に激突した。

 クソオヤジは激突した頭をかばいもせずに平然と話を続ける。


「やっぱりお前、無理に身体強化してたろ? 魔力だかなんだか知らねぇが、冒険者やるんだったらもっとマシな力の使い方をしろ。すぐに治癒魔術を掛けてやったから体の方は大丈夫だろうが……おい、いつまで痛がってんだ」

「……クソオヤジ、オマエ一体何者なんだ……!? ただの工場牛耳ってるクソオヤジじゃねぇのかよっ!?」

「ハン、誰だって知られたくねぇ過去位あらぁ。お前に話す義理もなけりゃ、話してやる気もない」


 なんだよそれ。

 気になるじゃねーかっ。


「教えてくれよぉクソオヤジぃ」

「うるせぇっ! ほら、さっさとこれ持って嬢ちゃんたちのところへ行けや!」

「わっ、ととっ」


 クソオヤジは金の縁取りがされた軽装鎧と鋼鉄のような硬さを誇っているが、見た目よりも幾分か軽い盾、そして何やら紋様が掘り込まれた剣を渡してきた。


「なんだよ? これ」

「……剣と盾と鎧だよ」

「だから、なんでこんな高そうっつーか、すげぇ強そうな装備を俺に渡すんだよ?」

「チッ」

「なんで舌打ちするんだ!?」

「……。お前、冒険者なんだろ? なら、昔俺が使ってた装備をやるっつってんだ。ありがたく受け取っておけ」


 は?

 なにそれ。

 くれんの? タダで?


「どういう風の吹き回し?」

「……剣と盾には耐久力を上げる付呪、鎧には俺の戦闘経験が刻まれてる。それつけりゃあお前でもマシな動きの参考程度にはなるだろうよ」

「ははぁ、分かった! 俺の剣を折ったから、それで申し訳なく思ってこれをくれるんだな⁉ いや、助かるぜ――」


 いつの間にか、俺の目の前に拳が迫ってきてて。


 次の瞬間には俺の身体は盛大に吹っ飛ばされてた。


「黙ってとっとと行け! あと、嬢ちゃんたちにすまなかったと伝えておけっ!! …………死ぬなよ」


 ずしりと重たい小銭入れが俺の腹の上に乗っかってきた。

 これもくれるらしい。だが、小銭が詰まったそれは最早凶器。

 身体強化を施されてない俺の身体には、少しきつかった。


「ぐふっ……ははっ……死ぬかよ、クソオヤジより強ぇパンチかます奴なんて、いねぇからな――」


 だが、気分は爽快だ。


 誰より嫌いだし、誰より頼りにしたくないクソオヤジだった。

 だけど、本当は誰より頼りになるクソオヤジから、冒険者だと言う事を認めてもらえたのだから。


―――――


「あいつ、いいツラしてやがったなぁ……」

「親方、どうしたんです? 珍しく笑っちゃったりして」

「……うるせぇ。お前らさっさと仕事しやがれ。新入りだったアレンはもうこねぇらしいからな」

「えぇ!? アレンさん本当に辞めちまったんですか!? あんなに仕事早かったのに……もったいねぇ」

「バカヤロウ! てめぇ、新入りに仕事抜かれて何寝ぼけた事抜かしてんだ!! そんなこと言う暇あったら、さっさと腕を磨きやがれ!!」

「す、すいやせん! うすっ!」


―――――


 早速俺は道端でクソオヤジ――もとい、ヴァレンシュタイン……ああ、クソオヤジでいいな。

 とにかく、クソオヤジから貰った鎧を身に着けてみた。


 着た瞬間――何も変わらない。

 あれ? 戦闘経験刻んどいたとか言ってたけど、どうなってんだ?


 あんな別れ方した手前、戻るのはナッシングだ。

 まぁ、いっか。減るもんじゃないし、なんかのきっかけでなんかが起きるんだろ(適当)


 そんなことを思いながら、俺は新しくなった盾と剣を愛でながら冒険者ギルドの宿屋に向かった。




 路地を三本抜けてクソオヤジの工房から離れたあたりで、またしても俺は知り合いに出会った。

 というより、捕まった。物理的に。


 その人物とは――


「よぅ、坊主!」

「その声は、ヘラクス――! 久しぶり!」


 そう、獄中で知り合ったヘラクスだ。

 相変わらずの巨体と髭もじゃは変わらなかったが、恰好が全然ちがう。

 獄中にいたときは麻の布の服でボロボロだったソレは、打って変わって銀ピカの重装甲の鎧を身に纏っていた。


 つーか俺の胴体掴んで持ち上げるのやめてくれませんかねぇ!

 ふわふわして落ち着かねぇっつーの!


「がっはっは! いつでも坊主はお調子者だな! 今何してんだ? え?」

「冒険者やってんだ。金ないからな! あと、おろしてくれ!」

「冒険者かぁ! いいなぁ! だったら仕事で会うかもしれんな!」


 俺の訴えを無視して、続けるヘラクス。

 人の話し聞けよぉ。


 ……ん?

 仕事?


「仕事って、なんだ?」

「そりゃお前さん――俺の恰好見てわからねぇか?」

「いや、全然わからん。もしかしてヘラクスも冒険者だったり?」

「がっはっはっはっは! 俺が冒険者ってタマかよっ! 戦士ギルドだ! 戦士ギルド! ようやく俺をハめたクソみてぇ奴らを裁いて叩き潰して、戦士ギルドの長になったんだよっ!」


 ……へ?


「戦士ギルドの、長?」

「おうともよ。もともと俺は戦士ギルドの幹部だったんだが――まぁ色々あってな、職を追われてたわけだ……そんな話はどうでもいい! 坊主、お前さん見たことある鎧着てるが――そいつぁ一体だれの者だ?」


 いきなり真面目になったヘラクスにクソオヤジの事を伝える。

 隠す事でもないし、別にいいだろ。


「なに? あのヴァレンシュタイン――【罪業背負いし天下無双の虐殺者クリムゾン・アニヒレイター】から、譲り受けただと?」

「お、おう」


 なんでそんなに真面目な顔なのか、少しばかり期待の色も混じった答えなのか。

 聞いてみると、納得する答えが返ってきた。


「あいつぁな、俺の宿敵なんだよ――」


 全然いらない情報キター!

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