第28話 事象:ITにおけるパーティーの名前について

 呪いの性質として、俺は死なない体を手に入れた事が判明した訳だ。

 だが、マリーさん曰く、死ねば死ぬほどMPを消費してしまい、大勢のゴブリンにタコ殴りにされて、連続して死ぬと、本当に死んでしまうらしい。


 面倒な身体だ。

 だが、戦力としては申し分ないんじゃないだろうか。家事が得意なお猫様と、駄女神は戦闘は全くできんし、ハットリは日本刀背負ってるけど近接戦闘はサッパリだ。


 あれ、こうして見ると――前衛、俺しか居なくねぇか?

 でも深く考えてもしょうがないよな。うん。

 それより今はどうにかして俺が強くならなきゃならん。

 そこが今は最優先事項だと思う訳なんだが。


「パーティーの名前は『黒剣墓場ブラックソード・グレイブ』で決まりよっ」


 ――決して、パーティーの名前を決めることで言い争いなんてしない。


「センスないでース! クラウ! ここは『風魔甲賀伊賀五右衛門』で決まりでース!」


 ――決して! しない!


「痛々しい名前ばかりですねぇ。もう『アレンのハーレム』でいいじゃないですか」

「パーティーの名前なんてどーでもいいっ!!」


 そう、なぜか今、パーティー名をどうするかで俺達は揉めていた。


 事の発端はあれだ。

 俺の戦闘訓練にもなるいい依頼を見つけて受けたまではいいんだが、外に出ようとしたら初回だけはパーティー名は未設定でいいが、二回目の依頼からは名前を決めてください。と受付のお姉さんに言われたからだ。


 そして、このざまだ。


 何一つとして決まらん。

 クラウさんはなんか中二臭い事いってるし、ハットリはもう日本人だし、マリーさんなんて論外だ。

 なんだ俺のハーレムって。


「どうでも良いとはなによっ! 名前はやっぱりカワイイのがいいと思わないの!?」

「そうでース! アレンは無神経でース!」

「だからもう『アレンの性欲の捌け口』でいいじゃないですか」

「二人でヤってればいいじゃない! 口を挟んでこないで!」

「ふざけないでくださーイ! これは生き残りをかけた命がけの論争でース! アレンが好色なのはしってましたガ、今は変態は黙っててくださーイ!」

「ほら、お前のお陰でとんだ風評被害だよっ!! マリーさんあんた黙れ!」


 ぎゃあぎゃあと俺達は言い争いを始めた。

 そして中々決まらない。


 ――かくなる上は。


「よし、じゃあじゃんけんだ! じゃんけんやるぞ!」

「いいわね、私と戦う事、後悔するといいわ!」

「ヒィヒィ言わせてやるでース!」

「私も参加しまーす」


 俺の一声で四人は一斉に拳を構えた。

 よかった。じゃんけんは異世界にもあるんだな。

 トランプもあったからもしかしてとは思ったけど、あってよかった。


「いくぞ、じゃーん、けーん」


 ――ほい。


 クラウさん――パー

 ハットリ――チョキ

 マリーさん――パー

 俺――チョキ


「よっしゃああああああああああああああ!」

「Hooooooooooooo!」


 クラウさんとマリーさんは敗退だ! やったね!!

 これでいかがわしい名前とか、中二臭い名前は回避できたぜっ!


「ぐすん……絶対『えっちしようよ☆』の方が良いですって」

「『黒剣墓場Ver.2』とかにしたかったのに……もうっ」


 よかった! 本当によかった!

 まだハットリのがマシだっつーの!

 だが――マシというだけで最善ではない!


「……ハットリ……ここは譲る気はないぜ?」

「抜かしてるといいでース! 師匠に勝てる弟子なんていませーン!!」


 ――じゃーん、けーん――



―――――



「それではパーティー名『ラストオーダーは猫でいいんですか?』でよろしいですか?」

「ハットリぃ!! 何言ってんだっ!! ちょっとまってください受付のお姉さん!」


 俺はハットリの両肩を鷲掴み、なんとか阻止するべく言い募った。


「ハットリ。良く聞け。これはだめだ。これだけはやめろ。いろんな方面から怒られるから」

「なんででース? かわいいじゃないですカ?」

「……知っててやってる? つーか忍者関係の名前にしないの? ねぇなんで? なんでこのチョイスなの?」

「クラウはカワイイのがいいといいまスシ、マリーはエロい事しか言いませ~ん。みんなの意見を尊重した結果でース」

「……わかった。俺の意見も採用してくれ――三~八文字で頼む」

「また面倒なこといいまース。じゃあ仕方ありませーン。『忍者バスターSASUKE』でどうでース?」

「だめだ。マニアックすぎるし、またいろんな方面から怒られるから。つーか忍者をバスターしてるんだが」

「……仕方ないでース。ワタシネタ切れでース。クラウにまかせまース」

「本当に!? やったわ!」

「なんでそこでクラウさんに行くんだ! 俺に寄越せ、俺に!」

「器の小さい男は嫌われますよアレンさん」

「マリーさんそれ言う?」


 くっそぉ。

 予想外だ。

 ハットリがまさかの提案をするとは思わなかったし、出てくるのがもう狙ってるとしか思えないものばかりだ。


「……じゃ、永久の――」

「はい却下―!! 次マリーさん!!」

「いいんですか? 『肉便器』で――」

「ふざけんな! てめぇら真面目に考えてんのか!?」


 もうだめだ。おしまいだ。


「なによ、もう。じゃあアレンが決めたらいいじゃない」

「そうですよ。大すべりして頭打って死ねばいいんです」

「……ひでぇな……まぁいい。主導権は俺にある。合法でいいモノを考えたからこれで行くな。受付のお姉さん。パーティー名は――『クラウさん&エリスちゃん ファン☆クラブ』で決まりだ」

「そのパーティー名は既に登録されていますので、無理です」


 登録されてんかい!!

 大すべりだよっ!!

 つーか誰だッつの!!


「ねぇ、アレン? 何言ってるの?」

「アホでース」

「欲にまみれてますねぇ」

「……もうあれだな。中二病の方がましだわ。クラウさん。頼んだ」


 こうして俺は、パーティー名を考えるのをあきらめた。


 ちなみに、クラウさんは悩みに悩んだ挙句素敵な名前を付けてくれたよ。


閃光纏いし希望の流星ルナティック・オーバースターズ』だそうだ。


 長い上にやっぱり中二臭かった。

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