天まで届け、俺の生き様【事象:ITにおけるケモ耳美少女達と変態の冒険者生活について】

蒼凍 柊一

第一章 事象:ITにおける冒険者(変態)と個性豊か過ぎる仲間達について

プロローグ 事象:ITにおける逃亡から始まる物語

第1話 仕事を放り投げ、俺は桃源郷へ――

「おいアレン、まだ仕上がらねぇのか!!」


 物が散乱している作業場に、親方の野太い声が響く。

 あいつはこの魔導細工店の店主、憎き俺の敵、もふもふの敵でもある――ヴァレンシュタインだ。

 なぜ俺の敵かと言うと、


「ひぃ、すんませんすんません!」

「ばかやろう、すんませんじゃねぇだろうがっ! 納期すぎちまったらホントに済まないんだよバカヤロウ!!」

「やめろ、やめてくれぇ、殴らないでくれぇえええ!」


 ――ガツン!!


「イテェ……! いてぇよ……! どれくらいイテェかってーと、王都の一番高い橋から頭から落ちたときくらいイテェよっ!!」

「うるせぇ黙って働け! ホントに王都の橋から突き落とすぞ!」


 ご覧のとおり、奴は俺の事を叱るのだ。

 俺はただこの世界で唯一の味方であるあの「もふもふ」を見たいだけなのに!

 こんなブラック企業、就職しなきゃよかった……。いや、就職した訳じゃなく、させられたんだが。


 俺が悲哀に暮れて、作業をする手を止めずに目だけ外に動かすと――どうやら天は俺に味方をしてくれているらしい。

 極上の「もふもふ」少女が外に居たのだ!!


「あ、ネコ耳少女だっ! ははは、はははははははは!! いい身体してんなぁ♪ よし、攫ってうちの子にしよう!!」


 思わず仕事道具を放り出して、俺は外へと出ようとするが――


「このクソガキ!! あいつぁまだ年端もいかねぇ子供だろうがっ!! 二児の父親なめんな! この犯罪者め!!」

「いてぇ!!!!!! 耳引っ張るんじゃねぇよこのクソオヤジめっ!!」

「うるせぇ、大体お前が仕事放り出して子供攫うとか腐ったこと言い出すからじゃねぇか!! 職人は職人らしく働けてめぇっ!!」


 ぷちん、と。

 その言葉で俺の中で何かがはじけた。

 つーか切れた。

 あんなに極上の獲物ネコ耳ちゃんを見逃させて、その上仕事しろ――だと?


「ぐああああああああああああああああああああ!! もうやだ! もういやだああああああああああ! 魔術道具技師こんな仕事なんてしたくなかった! そんな天賦の素質スキルいらねぇよ! なんだよ、徹夜あたりまえで一週間の労働時間168時間ってのはっ! このクソ親方!! 丸々一週間寝てねぇんだぞこっちは!! その上給料は日当の癖に安いし、ここに連行されてくる前に日課にしようと思ってた『ネコ耳を愛でる』ことすらできねぇなんてもう限界だ! あんまりだぁああああ!!」

「な、なにを――」

「大体親方がこんなに仕事を取ってくるから悪いんだ! しかも他の若手には休みやって、俺には休みネェとかふざけんな! 『耐力振り切れてるお前ならできるだろ?』 じゃねぇっつーの! 俺の原動力は『ネコ耳』なんだ!! ネコ耳に触れないと俺はエネルギー切れちまうんだよっ!! つーわけで、俺は今日限りでこのふざけた職場を――――――」


 言うぞ、俺は言うぞ――!!


「辞めてやるぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 言ったぁあああああああああああああああ!!


「だったら、もっと早くいいやがれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

「ぐべはああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 親方のグーパンをモロに腹にくらった俺は、作業場の壁を突き抜け、作業場に面している石畳の大通りの地面に叩きつけられた。

 多分、三バウンドくらいしただろう。

 だけど大丈夫――俺、丈夫なだけが取り柄だから☆

 クソいてぇけどな!!


「いてぇええええええええええええええええええええええ!!」

「テメェなんて衛兵に御用になっちまえっ! このクソガキ!!」

「俺は捕まらねぇ!! なぜならこの国は――そっち方面の法律が整ってねぇからなぁ!!」

「言ってろ――。はぁ……。お? これだけ仕上がってりゃ納期も間に合いそうだな。おいアレン。それだけ言うならお前今日で退職だ。報酬は払わんから、どこぞで野垂れ死んでくれ」


 な……なん、だと!?


「え……!?」


 本当に、聞き間違いじゃないだろうかっ!?


「なんだ、金が欲しくなったのか?」


 この親方から、【どこぞで野垂れ死ね】という言葉がやっと出てきたなんて!

 これで俺は――、俺は――!


「辞めて、いいの!?」


 仕事を、辞められる――!!(感涙)


「……このクソガキ……。ああ! お前なんてお払い箱だ馬鹿野郎!!」

「おい魔石投げるんじゃねぇっ、ぐぼはあああああああああああああああ!!」


 そうして、俺は泣き喚くほどの痛みと共にかけがえのないもの――【自由】と【ネコ耳】に出会う権利を手に入れたのだった。


「いやっほぅ!! やった、俺は、俺はついに人並みの生活を手に入れたんだ――――!!」



 こうして俺は、都市フェレンにおける最底辺生活を抜け出し、自由な、人並みのまっとうな暮らしを送れるようになった訳だ。


 え? なんでこんなファンタジックな単語がいくつも出てくるのかって?

 それじゃあ、話をしよう。あれは今から二週間前――俺がまだ【地球】の高校生だった頃の話を――

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