第7話 …………、事情を聞く。



 酒場に担ぎ込んだ、ヤヌックは従業員おばちゃんに応急手当をして貰っていた。


 身体中、痣や腫れが酷かったが、大事には至らなかった様だ。



「誰にやられてん?」


「ヘヘヘ。大丈夫ッスよー」



 さっきまで死にそうな声を出していたヤヌックアホは、ヘラヘラと笑いながら喋っている。



「だから、誰にやられたんやって」


「本当、大した事ないんで。姐さんも気に……」



 私はヤヌックアホ胸倉むなぐらを掴み、もう一度言った。



「誰にやられてん?」



 すると、ヤヌックは私から視線を逸らし、口を噤んだ。


 私はそのままヤヌックアホを壁につけて、もう一度訊ねた。



「オラ、誰にやられたか聞いてんねん、ボケ。答えろ」


「……ッ。言いません」



 私はそのままヤヌックボケを床に叩きつけた。



「カオルちゃん、ダメッ! 坊ちゃんが死んじゃうッ」


「おばちゃんは黙っててッ!」



 止めに入ろうとした従業員おばちゃんを睨み、私はうずくまヤヌックボケの髪の毛を引っ張る。



「おい。質問に答えろ」


「し、死んでも、言いません」



 私はそのまま、顔を床に打ち付ける。



「なぁ、誰にやられたんや?」



 ヤヌックボケは涙と鼻水を垂れ流しながら、必死に首を横に振っていた。



「だ、だめ……てず」


「あ?」


「いっだら……姐さんが……」


うちがなんや?」



 そこまで言うと。


 ヤヌックは、それ以上何も言わなくなってしまった。



「……チッ」


「はぁ、はぁ……か、カオルちゃんッ!」



 私がヤヌックボケをどうしようか考えている最中に、息を切らしたルクレオが店にやって来た。



「何やねんッ」


「こ、これ! ヴィエンヌ商会から警告文がッ!」



 その名前を聞いた直後、ヤヌックボケが一瞬だけ反応したのを私は見逃さなかった。



「おい、ルクレオ。ヴィエンヌ商会それ、どこにあんねん?」




 ***




 私はアイテムボックスから新しい相棒金属バットを取り出す。



 ……ガラ、……ガラガラガラ。


 ……ガラガラ、……ガラ……。



『………ッ!!』



 後ろから、ヤヌックアホが何か叫んでいる。


 しかし、私の頭の中には相棒の笑う声だけが響いていた。


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