第7話 元就活生、異世界に馴染み始める。



「まいどー」



 なんとかピンチを切り抜けた私は意気揚々と店を後にした。



「なんでこんな事に……」


「兄貴ぃ……元気出して下さい」



 お兄さんは自分の財布であろう皮袋の中を眺めながら意気消沈している。



「どんだけ食ったらあの店で銀貨一枚になるんだよ……」


「えーとッ。スープが3杯に黒いパンが5つ、あと肉を焼いたやつが3つかなー」


「「どんだけ食うんだよ……」」



 私の説明に二人はほぼ同時に溜息を吐いた。


 そんなに食べた覚えはないけど、確かに3回目の注文の時は従業員おばちゃんも苦笑いしてたようなー。



「あ、そうだ!」



 私が思い出したように声を上げると、二人はビクッと反応した。



「服屋さん知ってる? そんなに高くないとこ」


「し、知ってはいるけどな」


「じゃあ案内してッ!」



 私は再び満面の笑みで微笑むきょうはくする




 ***




 お兄さんに連れてきてもらったお店で私は店主に相談を始める。


 勿論、彼らには店の前で待っているようにお願いちゅうこくしてある。



「おっちゃん。この服いくらぐらいになるー?」


「ふむ。見た所、上等な布を使った服ですな」


「当たり前やんッ! 私の大事な一張羅やからな!」



 店主おっちゃんの話に私は胸を張ってそう述べた。


 彼は先程からジロジロと服の至る所を観察している。



「……これなら、金貨2枚……いや3枚でどうかな?」


「ん〜私はあんま詳しないけど、もうちょっと高くならんかな?」


「むむむ、これ以上は……」


「じゃあ一回別の店でも聞いてく「4枚でどうじゃ!」」



 店主おっちゃんの反応に私はにっこりと微笑む。値段交渉は私たち大阪人十八番おはこなのだ。


 なぜ私が一張羅リクルートスーツを売ろうと思ったかというと、コレが目立ち過ぎるからだ。


 お兄さんチンピラたちと歩いてる時もそうだったが、通行人に物凄く見られる。


 なので取り敢えず、動きやすくて、ここに馴染む服装で色々調べようと思ったのだ。



「じゃあそれで! あと女の子が着るオススメの服ってありますか?」


「それじゃったら、エプロンドレスはどうじゃ?」



 そう言って、選んでくれたのがいかにも町娘っという感じの、ブラウンのワンピースにエプロンが付いたような服だった。



「じゃあそれと、短パンを」


「ズボンかい?」



 私の言葉に、店主は疑問を持ちつつも私のサイズにあるズボンパンツを選んでくれた。



「ほほー。スカートの下に履くのじゃな。成る程、似合っておるのー」


「へへー。当たり前や」



 その他にも、革靴ビジネスシューズの代わりに、こっちの革靴とビジネスバックの代わりにショルダータイプの鞄を買った。


 結局、一張羅リクルートスーツの他に靴とシャツと鞄を買い取って貰ったので、買い取り金額は金貨7枚になった。


 そこから、エプロンドレスとズボン、革靴、鞄の代金を差し引いて、金貨6枚と銀貨2枚が手元に残った。




 ***




「おまたー」



 店から出ると、彼らチンピラは健気に私の事を待っていてくれていた。



「一体どれだけ……お前、さっきの服は?」


「売った。それでコレ買った」



 お兄さんチンピラに買った服を見せびらかすように、私はその場でクルリと回って見せた。



「あとコレ」



 私はお兄さんチンピラの手を取り、その中に銀貨を一枚入れた。



「これで借りは無くなったから」


「え? いいのかよ」


「男がグタグタ言うな」


「「はい!」」



 私が睨みを利かせると、二人は姿勢を正して返事をした。



「あ、そういえばアンタらの名前は?」


「お、俺か? 俺はダラムだ」


「俺はヤヌック。兄貴の子分だい」



 私の質問に二人とも素直に答えてくれた。



ウチかおるや。そんじゃあ、ダラム、ヤヌック。私を酒場まで案内してッ!」


「「はい?」」



 二人は首を傾げて返事をする。どうやら訳がわかっていないようだ。



「付き合ってくれたお礼や。ウチの奢りで好きなだけ飲みぃーッ!」



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【買い取り内訳】


リクルートスーツ 金貨4枚

ワイシャツ    金貨1枚 

革靴       金貨1枚

ビジネスバッグ  金貨1枚


エプロンドレス  −銀貨4枚

ズボン      −銀貨1枚

革靴       −銀貨2枚

鞄        オマケ


合計 金貨6枚、銀貨2枚



【現在の薫の所持金】


金貨6枚

銀貨1枚


日本円4,327円(使用不可)


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