第10話 勇者様(仮)、禁断の果実に手をつける…



「あ、姐さん。お早いおかえ……」


「ハァ、ハァ……おばちゃん、おる?」



 私は大急ぎで酒場に戻り、従業員おばちゃんを捕まえた。



「そんなに慌てて。どうしたんだい、カオルちゃん」


「おばちゃん、ソレってどこで買ってるん?」



 私はカウンターに設置された、大きな樽を指差した。



「ああ、これはいつもティアーノ商会から卸して貰ってるんだよ」


「それって、どこにあるんッ!?」



 私の鬼気迫る迫力に少々引きながらも従業員おばちゃんは丁寧に教えてくれた。



「この通りを上がって行ったところだよ。分からなかったら、坊ちゃんに聞けばわかるわよ」


「この通りをずぅーと行ったとこやなッ! ん? ……坊ちゃん?」



 従業員おばちゃんはヤヌックを指差している。



「おばちゃん。ヤヌックアホが坊ちゃんってどーゆー事?」


「あらやだね。坊ちゃんはティアーノ商会のお坊っちゃまだよ」



 それは初耳だ。が取り敢えず、ヤヌックアホ連れて拉致して私は再び走り出した。




 ***




「いやっしゃいませ〜」



 店に入ると前掛けを付けた店員がこちらにやって来た。


 まさに酒屋って感じだ。



「ってヤヌックですか。今度、店のお金くすねたら……おや、其方そちらのお嬢さんは?」


「もうそんな事しないよッ! 姐さんがティアーノ商会ここで買い物があるらしい……ってあれ? 姐さん?」



 店員さんとヤヌックが何やら揉めていた様だが、私はそんな事は気にせず、お目当のモノを探した。



「あったあったーッ♪」



 私がお目当のモノを見つけると同時に、ヤヌックと店員さんにーちゃんがやって来た。



「お客様、本日は…「これちょーだいッ♪」」


「はい?」



 丁度良かったと、店員さんにーちゃんに購入する事を告げたのだが、なぜか首を傾げられた。



「だ・か・らッ! この樽、ウチが買うって言ってんねんッ!」


「ぇえ!? コレ、『エール樽』ですよ!?」



 勿論と私が頷くと、店員さんにーちゃんは若干顔を引きつらせながらも金額を教えてくれた。



「き、金貨1枚になります」


「ほな、金貨1枚っと」



 私がアイテムボックスから皮袋サイフを出して、金貨1枚を店員さんにーちゃんに手渡した。


 だが、なぜが店員さんにーちゃんはポカンと口を開けて呆けていた。



「これで好きな時にエールが飲めるわーッ♪」



 私が樽に抱きついていると、店員さんにーちゃん正気こっちに戻ったらしい。



「あのお嬢さん、これをどうやって運ぶつもりですか?」


「あーそれな、気にせんでも大丈夫やで」



 確かにこの樽は大きい、確かエール100杯分くらい入っているらしい。


 しかし、そんな事は問題ではないッ!


 私は意気揚々とその場でエール樽をアイテムボックスに入れた。



「「は?」」



 店員さんにーちゃんは再びポカンと口を開けて呆けていた。


 今度はヤヌックも一緒にだ。



「あ、この樽置いてた台も貰っていい? っておーい。貰うでー」



 私はアイテムボックスからエール樽を取り出し、今度はエール樽と樽台を一緒に入れる。


 二人は口を開いたまま、視線だけ移動させその一部始終を確認していた。



「ほな、無くなったらまた来る…「ち、ちょっと待ってくださいッ!」」



 用も済んだので帰ろうと思った矢先、店員さんにーちゃんに足止めを食らった。



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【組織情報】


【ティアーノ商会】

 商業ギルドに加盟する、中商人のティアーノの商会。

 主に、酒類の買い付け販売を商いにしている。


 ちなみに、ヤヌックの実家である。



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