第4話 彼の会社事情

 ぼーっと、ブラインド越しから朝日を眺める。

 ああ、あの朝日のように輝ける人間になりたい。

 

「うーん、良くないねぇ」


 バカなことを考えていると、椅子に腰掛けている営業係長は一枚のA4用紙を手に持ちながら口を開く。始まってしまった……始まってしまいました。 

 週末恒例、係長の憂さ晴らし、もとい反省会のお時間です!

 

「すいません……」


 心の中とは裏腹に、俺は立ったまま背を丸める。

 そして、反省している様な声色こわいろで謝罪をした。


「――また島流しか」「係長も大変だよな」

 

 周囲からボソボソとあきれたような声が聞こえてくる。

 そりゃ呆れもしますよね。毎週金曜日、朝礼代わりに叱られているのだから。

 最初の頃は恥ずかしかったな。同僚達が見ている中で怒られるの。 


「ウチは“本社”に比べるとノルマが緩いからねぇ……。

 クビ、とかにはならないけどさ」


 でも、なんだって慣れる。

 今ではもう係長の話なんて右から左に馬耳東風。

 五十人以上から送られる冷たい視線も気にならなくなった。


「でもボーナスとかには響くわけだよ、だから中村君自身の為にも頑張って欲しいわけさ」

「係長の言う通りです。反省し、精進して参りたいと思います」


 だけどな、今週は自分なりに頑張ったつもりだ。休日の息抜きでやる気も上がってたしさ。

 なのに営業成果はゼロだった。へこむよ、こんなんじゃ。


「うんうん、言葉だけじゃなく結果に出てくる事を期待してるよ。本社での成績を見る限りもっと凄いんだから」

「ははは……あれは偶然で」


 このままじゃ、今月も営業成績はドべかな。

 またこの定年間近しらがまじりの爺さんに叱られにゃーならんのか。それだけが憂鬱だ。

 本当、会社辞めようかな。いいことが無さ過ぎる。


「なんたって額が違うもんね、額が。

 ウチのトップの……十倍だっけ。君が売り上げてた額」


「確かそれぐらいですかね。

 ただ、支社と本社では役割や規模――取り扱っている物が違いますから」


 またこういう話か。

 係長の本社に対する嫉妬、というか比較だ。ことあるごとに本社がどーたら言うからな。何があったのかは知らないけど、毎週のように聞かされる自分としては面倒で仕方がない。


「そうだけどねぇ。やっぱり君としてはその辺が気になるんじゃないの?」


「と、言いますと」


「こんなチンケな額を売り上げても仕方がないんじゃかって」

「いいえ、そんな事は」


 中々に鋭い。正直に言えばそれはある。

 仕事に対するやりがいがないのも事実だ。やっている事がメーカーの営業と変わらないし。

 

 だけど、それは二番、三番に来るような物で、結局は……。


「そうかい? まぁならいいんだけど」


 係長はどうでもいい事かのように言葉を吐き捨てた後、机に肘を置いたままペンを回し始めた。この人も大概適当……って、ペン回しうまっ。しかも早い! 手馴れているな。これは小学生の頃はペン・マスターって言われていたに違いない。クソ、態度はイラっとくるのに、無駄に感心してしまった。

 俺が頭を痛めていると、 

 

「じゃあそういうことだから。前任者を超えるのは難しだろうけどさ。君なりに頑張ってよ。営業はたたでさえ人が少ないんだから」

「……はい。それでは失礼致します」


 係長が話を終えた。

 はぁ、前任者がな、本社出身じゃなければ。心の中でため息を吐き出しながら、自分の席へ戻った。




「ふぅ」


 やっと戻れてこれた。

 端に席があると移動するのも一苦労だ。最近慣れてきたけどさ。

 ただ、慣れてきた理由が呼び出しをたびたび喰らってるからってのは笑えない。


「にしても……」


 なんかあの係長、俺に対して攻撃的なんだよな。

 本社から来たってのがそんなに気に食わないかね。他の人への反応を見る限りもっと穏やかな感じがするのに。……いや、そもそも仕事が出来ないからか。まったく。パソコンを立ち上げながら、頭を掻いていると、


「いつもご苦労ね。プー太郎」


 隣から老いたおばさんの声が聞こえた。

 唯一俺のあだ名を公然と呼ぶ人だ。

 

「全部自分のせいだけど」

「ははは……」


 シビアな言葉に苦笑いが自然と出てしまった。

 自分のせいか、その通りなんだろう。頭ではわかってるさ、わかってるつもりだ。

 

 憂鬱になりかけてきた頭を振り払い、目の前に意識を向ける。

 パソコンの画面はいつの間にかログイン画面へと移り変わっていた。俺はいつもと同じようにパソコンへNAMETAKEなめたけとパスワードを入力し、ログインをする。

 

 画面が移り変わる間、目を閉じていると、


「係長もね、本社から島流しにされた人間なのよ」

「えっ」


 キーボードを軽快に叩く音が聞こえる中、またしても隣から声が聞こえてきた。


「十年前ぐらいだったかしら、出世争いに負けてここに流されたのよ」

「……そうなんですか?」


 初めて聞いた話だ。

 俺はおばさんおつぼねのいる方へ顔を向ける。仕切りがされているから、意味のない行動だ。けれど、つい顔が動いてしまった。


「ええ、下の世代に優秀な人がいてポストを奪われたんですって」

「へぇ……」


 なんでこの人がそんな情報を知っているんだろう。疑問に思いながらも耳を傾けた。


「ここってエリア別採用でしょ? 支社で採用されたら、支社で終わるのが普通じゃない」

「そんな話を聞いたような、そうでもないような」


 元から本社で採用される事しか考えていなかったから、その辺は詳しくない。

 思い出してみると、確かに本社や海外で会う人達に支社での勤務経験がある人はいなかった気がする。


「まぁ、そうなのよ。で、逆もしかりよ。本社から支社へ行くってパターンも珍しいわけ」


 おばさんはゆっくりした口調でそう言った。

 だが、口調のペースとは裏腹にキーボードを叩く音の早さは尋常じゃない。話しながらでも業務をしっかりとおこなっているのだろう。反面俺は何の変哲もない仕切り板を眺めているだけだ。


「プー太郎でしょ、係長でしょ。あとは普段見ない幹部連中。

 それとあんたの前任者――鮫島さめしま君ぐらいね。本社からウチに来たのは」


 はぐれメタルみたいなものね、と言葉を続けた。

 この人、ドラ○エやんのかよ。


「鮫島君はあんた達とは別パターンだけど。自分から申し出てここに来たんだから」

「奥さんの実家絡みでしたっけ」


 又聞きでそう聞かされたことがある。

 結局前任者と会うことはなかったな。正直……だ、俺がこうなったのもお前のせいだぞ! と言いたい気持ちも無くはなかった。けど流石にそれは理不尽か。


「そうそう。奥さんの親が体を壊しちゃったとかなんとかで。結局ここでじゅう……十二年働いて、辞めちゃった訳だけど。今の時代に家業を継いでやってけるのかしら」


「さぁ……」


 あまり興味はなかった。会う機会があるとも思えないし。


「あんたも運がないわよね。鮫島君がダメ人間だったら、あまり期待されずに済んだのに」


 俺は髪を軽く掻いた。

 

「顔も中々男前だったしねぇ。まぁあんたも顔はそんなに悪くないけど」

「ははは、そりゃどうも」


 年齢差が二十以上もある相手と比べられても、反応しにくい。

 確かに写真で見た限り男前だった。真面目そうで、なおかつ男を感じさせるような顔。女よりも男に好かれそうな顔だった気がする。


「で、その鮫島君って係長に凄く好かれてたのよ。理由はわかる?」


「うーん……成績が良かったからですか」

 

 一瞬、係長がゲイで、前任者の顔が好みだったから。

 と答えようか迷ったが辞めた。そんな軽口を叩けるような間柄じゃないはずだ。


「そう、その通りよ」

「そうなんですか」


 だからどうした。そりゃ基本的には成績がいい人を好むだろう。


「で、鮫島君ってね、優秀だったけど決して一番手、二番手に来るような人じゃないわ。それでも係長は他の誰よりも彼を好んでたの。理由は彼が本社出身だから」


「えーっと、それだと自分の扱いおかしくないですか?」


 本社出身の人間が好みなら、もう少し当たりが優しいはずだ。ああも毎週イヤミを言うはずがない。


「プー太郎が最初に答えた、成績が良いってのも重要なのよ。成績がそれなり以上で、本社出身。これが係長にとって重要なわけ」


 田貫たぬきさんはそう言い切ると同時に、隣からキーボードを叩く音が消えた。

 

「屈折してるのよ」


 田貫さんはあくまで淡々とした声で、そう断言した。

 

「本社から島流しにされて逆恨みしているのに、本社にいたという自分を誇ってるの。

 だから本社にいた人間が活躍すると我が事のように嬉しく感じる。逆に成績が悪いとあんたみたいな扱いになるわけ」


 ちょっと信じがたい。

 この人の事情通っぷりは認めるが、流石にこの推理はなぁ。


「本当ですか……?」


 俺がいぶかしみながら疑問を口にすると、隣からプラスチックの箱が開く音が聞こえた。その後ガサゴソと包装紙が擦れ合う音が聞こえたらと思ったら、

 

「間違いないわ」


 ベージュ色の仕切り板の奥からタヌキが出てきた。

 いや、本当にそっくりだよな。名は体を表すというべきか、顔にしろ体型にしろタヌキそっくりだ。若い頃もこんな感じだったんのかなと本人には聞けない事を考えていると、


「だからこれでも食べて頑張りなさいよ。

 プー太郎が人並み以上の成績出したら、間違いなく手の平を返すから」

 

 田貫さんは透明な包装紙に包まれたチョコレートを二つ手に持っていた。

 そしてその内の一つを俺の手にポンと投げるように手渡しをする。俺は手の平のチョコを見たあと、少し驚きながら感謝を告げる。


「あ、ありがとうございます」

「いいわよ」


 そう言うが早し。田貫さんはすぐに顔を引っ込めた。

 そして再びキーボードを叩く音が聞こえ始め、俺の手には小さなチョコが一つ置かれている。

 

「…………」


 どうしよう、って悩むことでもないか。

 ありがたくいただこう。俺は包装紙を適当に取り払いチョコを口へ入れた。


「……あまい」


 そして、おいしい。

 普段食べるようなチョコとなんら変わりないはずなのに、とてもおいしい。

 心が落ち着いて来るのを感じる。いつの間にか苛立っていた心もチョコのように溶けていくみたいだ。


「ありがとうございます」


 俺は小声で田貫さんに感謝をして、椅子から立ち上がった。


「いい天気だな」


 窓のブラインドを開き、外の景色を眺めた。

 四階という高さ、それに方角もあいまって、見えるのは太陽に照らされた焦げ茶色の山だけだ。

 でも今の俺には充分すぎるほどに美しく見える。趣があるという奴だろうか。

 なんにしろ……


「よしっ!」


 やる気が出ててきた。どうせなんだし今週ぐらいは最後まで頑張ってみてもいいだろう! 俺は立ち上げたばかりのパソコンをシャットダウンし、資料の入ったビジネスバッグを手に取った。


「行ってきます!」


 自分に喝を入れるため大きな声を出す。

 すると、


「うるさいわよ」


 田貫さんの平坦な声が返ってきた。


「はいっ……」


 もっともだな、と思いながら俺はいそいそと部屋を出た。

 一つぐらい成果を出してみせると覚悟を決めながら。






「そんなに上手くいかねーよな」


 小さな公園のベンチに座りながら、買ったばかりの熱い缶コーヒーを口に流し込んだ。今朝食べたあのチョコとは違い、苦さ百パーセントだ。人生の厳しさを俺に教えてくれるね、うん。


「どうしたもんか」

 

 俺はスーツの裏ポケットに入っている辞表届を思い出し、ため息を吐いた。

 いつでも辞める準備は出来ている。


「だけど」


 そう簡単には振り切れない。決断ができない。

 

 でも、だ。今日もお得意さんへのルート営業は見事に空振り三振へと終わった事実がある。

 ルート営業とはいえ前任者から引き継いだ仕事だ。既存の取引を続けているだけだと俺の手柄にはなりにくい。営業成績を上げるにはどうしても既存の取引にプラスして新しい製品を買ってもらうなりしないといけない。

 

 けれど、そう簡単にはいかないんだよなぁ。一つ一つは安い製品でもまとめて買ってもらうとなると結構な値段になるし。しかも本社の時と違って、取引相手も規模が小さい所ばかりだ。だから資金的にも余裕はなさそうだしな……。


「ふぅ」


 熱いコーヒーをもう一度口に含み、空を見上げた。

 太陽はまだ出ているけれど、風があって少し寒い。そろそろコートを出す時期かな。


「前任者――鮫島さんがもっとダメな人間だったら」


 引き継いだ顧客と取引をすればするほど、そう感じる。

 

「どうしたらあそこまで信頼、信用されるものかな」


 自分としては困ったもんだ。

 安易に新製品を勧めれば「今の製品でも充分使えると前に鮫島君が言っていた」と言う。今使っている製品の耐久年数から考えるとそろそろ買い替え時ではと言えば「金欲しさにそう言ってるんでしょ! 鮫島君はそんなにガメつくなかったわ!」と言われる。

 他にも「鮫島君の方がもっとわかりやすく製品の説明をしてくれたな」とかもあるけど、これはもっともな意見だ。

 

 俺が転勤して来てから取り扱っているOA・事務用品――パーソナルコンピュータや机とかについての知識はまだまだ未熟だ。今まで使ってきた知識とは別物なせいで、人に上手く説明できるほどじゃない。もっと勉強しなくちゃいけない所だろう。

 

 なんにしろ、今の取引相手の殆どがコトあるごとに鮫島くんがーと言ってくる。それだけ鮫島さんが頼りになったのだろうが、自分としてはやりにくくて仕方がない。そろそろ鮫島ノイローゼになりそうだ。夢とかにもサメシマクンガー族が出てきそうで怖い。


「それにな」


 自分自身の営業にも問題があるのは理解していた。

 彼女に振られて落ち込んでいることや鮫島さんが残した影響――雰囲気もあって、仕事中も変に生真面目になっている。

 俺の営業の売りはフランクさだ。ササッと人の懐に飛び込んでいくようなタイプの営業。そんな人間が生真面目にやった所で上手くいく訳がない。人には人の戦い方がある。


「問題点はわかってるんだけどさ」


 解決方法が出てこない。

 このまま仕事を続けた所で上手くいくとは思えないが、どうすればいいかもわからない。本社時代なら先輩や上司に相談もできたが、今の支社で相談できる相手って言ってもな……。


「あーダメ! 考えすぎて頭が痛くなってきた」


 もう決めた。次の出勤日までにいい方法が見つからければ会社を辞めてやる!

 

 思い立ったが吉日。俺は残っていた缶コーヒーを飲み切り、ゴミ箱へ投げ捨てる。カランと缶がゴミ箱に落ちる音に気をよくしながら、近くに停めてある営業車に乗り込み、会社へ戻った。

 

 土曜、日曜日にいい方法が浮かぶことに期待しながら――――






「冷静になったはず、なんだけどなぁ」


 いや、むしろ冷静になったからこそ今ここにいるんだ!

 そう自分に刷り込みながら、俺は駅の改札を通り抜ける。時刻は十九時を回ったばかりだ。次の日も休みとあってか、まだ帰宅している人の数は少ないように見える。

 とはいっても先週来た時のように構内は人だらけだ。むしろ先週よりも多いかもしれない。ハロウィンの影響もあるのかな、とカボチャの飾りを見て思った。なんにしろ人が多いと落ち着く。

 

「早すぎたかな」


 リラックスしたところでもう一度時間を確認する。前回少女と会った時間は二十二時を回っていたはずだ。明らかに今日は早い。

 でもだ。ああいうのは先着順だろうし、早いに越したことはないよな。


「よしっ、いくぞ」


 俺は腹に力を込めて、人通りの少ない西口へ歩き出した。

 先週出会った少女と会う為に。




 先週と変わらず、閑散かんさんとしている西口のロータリー前。

 駅に向かって歩いている人がちょろちょろいるぐらいで、タクシーでさえ少ししか停まっていない。平日ならもう少し人で賑わっているんだろうな、と前回は気付かなかった存在を見てそう思う。


「西口の方って会社ばっかりあるんだな」


 視線の先には夜空に鈍く光る高層ビルの群れがいる。

 あの中にはおそらく多くの会社が入居しているのだろう。それ以外の使い道はあまり思い浮かばないし。もしかしたら会社があまり入居せずに、スカスカかもしれないが……。


「だったら自分の会社もここに来てくれよぉ」


 よりによってなぜあんなド田舎に会社を置くのか。

 まぁ理由はあれだろうな。土地代が安くて、県境けんざかいに近いからだろう。一つの支社でいくつもの県をカバーできたほうが何かと安く済む。要はケチ。


「はぁ……それにあの子はいないし」


 西口に来て十分以上経つが、一向に見当たらない。前回のベンチにはいないし、他のベンチにも同様にいない。コンビニや駅の周囲も粗方探してみたが、全然見当たらなかった。


「そもそもあの年代の子がいないというね」


 考えてみればそりゃ当然だよな。

 西口は会社ばっかで遊ぶような所はない。新幹線口――繁華街があるのにわざわざこっちには来ないよな。


「どうするかな」

 

 これじゃあ、わざわざ貴重な時間を使ってここへ来た意味がない。そう思いながら、黒と橙色を基調としたジャケットのポケットから、スマートフォンを取り出す。

 そして今日――土曜日の朝からメモ帳に書き溜めている改善案を見た。

_________________________

・一から営業とは何かを学ぶ

・係長や周りに頼み込んで営業のサポートをしてもらう

・取引相手を変えてもらう

・ギンギラのシャンブレースーツとサングラスを装備して相手を威嚇

・田貫さんに相談する

・タヌキに相談する

・鮫島信仰主義の破壊

・あっあたタタタタ、新しい彼女を作る

・スッキリする(性的な意味で)

・係長の白髪を金髪に染め上げる

・辞める

・~~~

・~~

・~

__________________________


「どれもこれも酷い」

 

 俺は冷たい風に頬を打たれながら、自分の無能っぷりに涙した。

 

 社会人のアイディアがこんな物でいいのだろうか! 

 しかもこの酷いアイディアの中で、採用したのが『スッキリする(性的な意味で)』ってどうなんだろう。


「でも、でもだ」


 強い刺激は人に大きな変化をもたらすって言うしな。気持ちを変化させるには一番効果的かもしれない。

 もし本社時代の営業スタイルに戻れれば、ノルマの達成は絶対にできるという自信がある。


「どうせするならあの子が……」


 俺が彼女と別れてから初めて魅力を感じた少女。できるならそういう子と一夜を共にしたい。恋人を作るのはまだ……できそうにないけど、一夜限りの関係と割り切れる相手ならきっと。


「泡と大して変わらないみたいだしな!」


 ブルーになりかけた頭を振り払う。

 そう、ネットでこの辺の相場を調べてみたが、三万円ぐらいなら決して高くない。むしろあれだけ綺麗な子なら安いと言っても過言じゃない。

 でも、まぁ中高生に手を出すリスクがある訳だが……ま、いいか。そうなったらなったで、それも人生さ。


「って、肝心のあの子が見つからないんじゃ仕方がないか」


 俺は頭を掻きながらとりあえず繁華街へ行くことにした。

 前回より時間が早いのが原因かも知れない。ならまた居酒屋で時間を潰してここに来ればいい、そう思いながら。




「どうするよ、俺」


 繁華街と新幹線口を結ぶ、大きな噴水広場にあの少女はいた。噴水のふちに一人で座っている。

 格好は前回と同じ制服だった。足の長さに反して短いスカート、それを補うように履いている長いソックス。上半身は白いシャツに髪の色と同じチョコレートブラウンのセーターを着ているだけだ。やっぱりいつ見ても寒そうに見える。というより実際に寒いだろうな。


「さて」


 どうしたものか。つい焦って木の陰に隠れたはいいんだけど、このままって訳にはいかない。

 声を掛けるか、素通りして居酒屋に行くか。どちらかの判断をしないと。考え込もうとして――やめた。チャンスは何時までもある訳じゃない。もしかしらこの瞬間、少女に声を掛ける不埒な奴どうぞくがいるかもしれないからな。

 俺は急いで財布から三万円を取り出す。そして、木々の間から抜け出してあの子の元へ向かった。




  

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