第30話 彼と彼女の幼馴染
自宅から車で四十分。
俺たちは大型のショッピングセンターに足を運んでいた。
そこの三階で彼女の日用品を買い終えたあと、一階へと場所を移していく。
「混んでるなぁ」
カートを押しながら周囲を見渡す。
年が明けたばかりのこの時期。学生も社会人も休みのせいか、ショッピングセンター全体が賑わっていた。さっきまでいた三階は勿論のこと、一階の食品売り場にも人が多くいる。
「福袋、シけてるね~」「まぁ仕方がないでしょ。この日まで売れ残ってたやつだし」
食品売り場から少し外れた場所にある休憩スペース。
そこで学生二人が大きな袋を広げながら、愚痴っていた。
……仕方がない、という言葉はいかんよ! いかん! と思いながら、後ろを見る。
「残り物には福がある。ってわけじゃあないみたいだな」
自分の少し後ろを歩く
「もう五日も経ってるからね。それに、彼女たちが買ったの洋服でしょ? 余計にだよ」
友達もこの時期に買って痛い目みてたし。
彼女はそう言い、長い黒髪を手櫛で
俺が少しだけ見惚れていると「どうしたの」と聞かれてしまった。それに対して自分は「幸せを噛みしめていた」なんてアホなことを言いながら、話題をズラす。
「そうだ。残り物っていえば、買い残しはないか?」
洋服や歯ブラシ、それに……下着とか。
そういった必要な物は三階でもう買い揃えたはずだが、買い漏らしがあるかもしれない。
……下着売り場に入りたかったような、そうでもないような。
ちょっと前の出来事に
「買い残し? たぶん無いとおもうよ。パジャマまで買ってもらったからね」
白月が青果売り場を見ながら答えた。
そして彼女がリンゴを手に取ったところで、こちらをちらりと見る。
「……ところで、お兄さんってなにが――」
彼女はそこで言葉をつまらせたあと、顎先に白い指を置く。
「そうだ、あれを買ってなかった。ちょっと三階に行ってくるね」
「はいよ、お金はさっきの分で足りる?」
「充分だよ。今日借りた分、あとでちゃんと返すから」
気にしなくてもいいのに。
そう口にしたい気持ちを押しとどめながら、髪をかく。やっぱり白月は真面目だ。
……さっき三階で買い物をしていた時『お金を返す』『返さなくていいから』論争が起こったのは記憶に新しい。論争に負けたのはもちろん俺だ。
だから、ここは彼女の意思を尊重しよう。お金にきっちりとしているのは良いことだし。
「じゃあ、お兄さんは夕ご飯で食べたいものを考えといてね」
「了解。じゃあこの辺ぶらついてるから。もし見つけられなかったら、メールしてくれ」
俺がそう言うと、白月は首を縦に振る。
そして彼女はリンゴを元の場所に戻したあと、エスカレーターのある方へ歩いて行った。
にしても夕飯か。なにがいいかなぁ。ピザ、チキン、寿司……と出来合いの物を考えているうちに、
ンン?
ふと思った。
「あの言い方――まさか白月が夕飯を作ってくれるんじゃ」
ありえる。
メールとかのやり取りで、料理ができそうな雰囲気があったし。
それに今日の朝に見た洗濯物のたたみ方もなんかこう、女子力高かったしな。
これは期待できるんじゃないの!
そう思いながら、お菓子コーナーにカートを動かしていく。
これはもう癖だ。スーパーとかに行くと必ずお菓子コーナーやつまみのある場所に行ってしまう。
独身のね、料理できない人間はお菓子で栄養を補わないといけないから。
そう自分に言い訳しながら、体を動かしていく。……自分の下腹部から視線をそらして。
天井に吊るしてある案内標識。
それを頼りにお菓子コーナーの近くまで来た。
来たのはいいのだが、お菓子コーナーの一歩手前――飲料コーナーで、彼と目が合ってしまった。
カゴにアミノ酸とプロテイン、それにスポーツドリンクを詰め込んだ彼。
「「あ」」
俺と同じ人を好きになった、白月の幼馴染。
こういう時ってどうしたらいいのだろう。と思いながら、とりあえず頭を下げた――
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