第32話 幕間

 先日、ある本を買ってきた。

 普段なら目に付くこともないような本。

 だが、いまの状況でなら役に立ちそうな気がする!


 そう思い、買ってきた本のタイトルがこれだ……!


 “恋人ができたらしたいこと・特集号”


 クッションの上に座りながら、ゲームをする白月しらつき

 真剣な目、そして綺麗な姿勢のままでゲームをしていた。


 俺はそんな彼女をはた目に見る。

 そしてこちらに視線が向いていないのを確認して、雑誌をペラペラと見る。

 ほうほうなになに、ランキング形式で紹介されているのか――


 

 “三位 バドミントン”



 カコーン


 カコーン


 寒空の下、自宅の近くにある公園。

 人っけのない場所で俺たちはバドミントンをしていた。

 しては、いるのだが、


「……」


「あ、あはは。たのしいなー」


 も り あ が ら な い!

 わかっていたさ! 暖かい部屋でゲームを楽しんでいた彼女。

 そんな彼女に向かって「四十秒で支度しな! できなきゃ、ゲームのセーブはさせないよ!」と言って、無理矢理つれてきたからな。

 彼女の機嫌は最悪。こんな見下ろすような目で見られたの、いつぶりだろう……


「さむい」


「……帰ろうか」

「ん」



 “二位 周りに自慢”



「……」


 なんだこのふざけた雑誌はっ! と怒ったのも幾星霜いくせいそう

 俺は真面目に自慢メールの文面を考えていた。


「よしっ」


 この内容なら、だれしもが羨ましがるだろう。

 そう思いながら悪い笑みを浮かべていたら、


「……ッお兄さん!」


 耳元から彼女の大声が聞こえた。

 思わず「はいっ!」と驚いてしまったが、当然の反応だろう。

 にしてもなぜいきなり叫ぶんだと思ったら、


「はぁ、やっと返事した。さっきから声かけてたのに」


 彼女のあきれた声が聞こえてくる。

 ……メールを書くことに集中していて、彼女の声に気付かなかったらしい。

 

 俺は心の中で小さくため息を吐いたあと、携帯の電源を切った。



 “一位 ひざまくら”



「おにいさんのひざ、かたいね」


「だろうな。男の膝だし」


 あのうさん臭い雑誌。

 その雑誌に書かれた二位と三位を試して、ロクな目にあわなかった。

 が、一位はそうでもないらしい。

 

 彼女の顔を見る。

 硬い膝の上にいるのに、心地がよさそうな表情をしていた。

 ……さっきまでのトゲトゲとした表情とは大違いだ。


「もう少し、このままでいい……?」

「もちろんさ。お気の召すまで、どうぞ」


 艶かな髪をなでる。

 彼女の猫のような瞳はゆっくりと閉じていき、次第に寝息が聞こえてきた。


 ……


 緩やかな時間の中。

 彼女の「こんどはわたしが……するね」という言葉に、返事を返す。

 けれども、その言葉に返事はなかった。どうやら寝言だったらしい。


 俺は苦笑いをしたあと、あの雑誌を手に取る。

 ちょっとは役に立ったなーと思いながら、ページをめくるとこう書かれていた。



 “特別編 やっぱりエッチが最高! ~体位の学び方、A・B・C~”


 やっぱりエッチが最高っ!

 じゃなかった。なんてもん書くんだこの雑誌は! 役に立ったと感じた俺が馬鹿だった!!

 彼女を起こさないようにしながら、雑誌をビニール袋に包む。そしてゴミ箱へ投げ捨てた。


「ふぅ」


 これで彼女に雑誌の内容がバレることはないだろう。

 俺は晴れやかな表情を浮かべたまま、彼女の寝顔をしばらく眺め――




 ――お約束というものだろうか。

 後日、彼女にあの雑誌が見つかってしまった。

 そして内容もしっかりと見られてしまい……


 


 

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