第4話
「国家への叛逆の可能性?」
唐突に男に言われた内容に唖然とする。意味が理解できない。
「はい。将都の軍は、ホウライ学院に戦力が集まりすぎていることを危惧しています」
「東方学院にも同等の戦力はあるだろう」
「ですが、彼らは軍人です」
将都に存在する東方学院の研究者たちは、全員軍閥に属していることは知っている。
「軍人かそうでないかがそこまで大事か?」
「軍人でもない第七位階の爆弾マニア、第六位階の
戦力の半分は爆弾マニアのところか。あとギーテンも第五位階で冒険者だ。十分戦力だ。うん、キマイラくらいなら倒せるなこの戦力なら。確かに危険といわれても仕方ない。
これだけいれば千人の通常兵力に匹敵するとすらいえる。
「それで、この危険集団をどうすると」
「確認なのですが、ここまでの戦力がたまたま集まっただけだと?」
「まず間違いないな」
ヘリオス副教授など、そもそも入学すらできるかと思われていたくらいである。狙って呼ぶなんてあり得ない。
「なるほど」
「大体我々の多くは国家への所属という意味では冒険者ギルドに所属しているわけだぞ。叛逆する意味などなかろう」
「…あなた方はそう思われていても、将都ではそうは思っていません」
「何故だ」
「まず第一に…オーク教授でしたっけ、ヘリオス副教授の存在です」
「彼こそ叛逆とか考えるわけがなかろう」
「オークというのは魔族の庇護下で繁殖する種ですよ!」
そんな一般論を言われてもだ、そもそも根本的なところが間違っていることに気がつかないのか将都の連中は。ヘリオス副教授は魔族になんの庇護も受けてないし、そもそも嫁すら自力で捕まえているんだが。あ、嫁じゃないかまだ。
「はぁ?」
「はぁ?じゃないですよはぁ?じゃ」
「大体君らの考えてるオークとヘリオス副教授じゃ、全然別種といっていいレベルだと思うんだが」
「どういうことです」
「どこの世界に実力もないのに副教授にする学院があるっていうんだ」
「実力のあるオークなんて危険物そのものじゃないですか!」
「そんなの言ったら、うちの子たちはヘリオス副教授の教え子だし、彼にも育ててもらったようなもんだ」
「オークに育ててもらったぁ!?勇者のあなたの子たちが!?」
何をそんなに騒いでるんだか。将都の連中はこれだから困る。そういう人たちがいるのは仕方ないとはいえ。
「オークに育てられては何か問題でも?」
「勇者でしょあなた方!勇者が魔族の側の存在のオークに育てられる時点でですね!」
「ヘリオス副教授が魔族の側?それじゃフランシス魔導技術士もその扱いでないとな」
「彼女は『聖女』でしょうが」
「破門されてるのに?」
「破門!?」
「実質的にヘリオスくんの嫁だよ。早く結婚すりゃいいのに」
「嫁ぇ!?『聖女』がぁ!?」
「どっちかっていうとフランシスくんの方がヘリオスくんのこと大好きだし」
「…危険だ…ホウライは危険すぎる…」
何が危険なんだか。人の恋路を邪魔する奴はケンタウロスに蹴られて死んでしまえ。
「危険だ危険だっていうなら、ファインブルグたちのがよっぽど危険だろうに」
「…あの人たちは爆発魔法さえ使えれば満足なんですよね…もう理解しました」
そっちを理解できるのなら、ヘリオス副教授のことも理解できるのでは?
「むしろあなたの方を危険視せざるを得ないです。魔族の側の存在とそれほどまでに近いというのは」
「だからヘリオス副教授は魔族になんにもしてもらってないと思うんだが」
「そういう問題じゃないんです!」
「そういう問題だろうが!」
何を言っているのか全く理解できない。
「あなた方は自分たちが危険な存在だということを自覚していなさすぎます」
「そりゃ自覚してたら行動変えるだろうけどな、で、どうする?学院副教授やってるからオークを逮捕?オークと恋愛したから逮捕?」
「そうは言っていません」
「じゃあどうすればいい」
「…ホウライ学院側が、軍と共同研究に応募していただければそれで」
「なんだ、そんなもんでいいのか。そんなことなら普通にやらせてもらうぞ」
「学院長はそうは思っていないようですが」
それはまずいな。
「だとするなら学院長を説き伏せる所から始めないといけないか」
「はい」
ハードルが高いな。軍との共同研究を拒む理由というのはイマイチわからないが。別に学院長が反軍事という話は聞かないから、『神殿』関連の可能性の方が高そうだ。だとすると難しいことになりそうではある。
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「そう、ですか」
学院長に軍側との共同研究の話を早速報告する。私もバカではないし、反省もする。
「実行するとなると『神殿』との関係はさらに悪化するわねぇ」
「そういうものなのか」
「そうねぇ」
やはり『神殿』との関係悪化が問題か。ヘリオス副教授、フランシスくんの問題はもちろん、学院長もおそらくは…。
「しかし軍との関係が拗れるというのもまずいな」
「ええ」
「学院長、よろしいですか?」
「モーガン教授?」
見るとモーガン教授が学院長室にやってきていた。手には書類を持っている。
「前の学院の同僚が、共同研究の話を『神殿』から持ちかけられたのですが、手こずっているようで、手伝えないかと考えています」
「あらまぁ」
「おぉ」
「ん?フィッツ教授?どうしてここに」
「いや、こちらも軍との共同研究を持ちかけられたので来たのだが」
渡りに船とはこういうことをいうのかもしれない。運が向いて来たのか。待望の予算がどうにかなりそうな気がする。
…気がするだけなのは何故だろう。
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