講義第十一回「服を着着てない系の教授とかまた変なあだ名付くじゃないですか!」
教授が出張から帰ってきたその日、自分はbufferの調整中にミスに気がつき、急いで作り直していた。気がついたら先輩達は帰宅してしまっている、そんな時間になっていた。もうすっかり暗くなっている。仕方がないので閉鍵呪文を詠唱し、スペルキーをフランシス先生か教授に渡そうと思い、2人を探してみたが部屋にはいない。先ほど言っていた宿泊室にまだいるのだろうか。宿泊室のドアをノックする。中から声が聞こえてくる。
「ぅん…ってちょっとデュラル!」
「この時間に来るって…そういえば、まだ!」
「服!わたしの!」
「まずいです!服を着着てない系の教授とかまた変なあだ名付くじゃないですか!」
服を着てない系の教授って…何を言っているんだ2人とも…まさか…
「すいません、遅くなりました」
教授が慌てて服を着て出てきたのだが、シャツのボタンがズレている。
「こんな時間まで作業ですか」
「すいません、bufferの調整に間違いがあるのに気がつきました。それで急遽作り直しました」
「よく気がつきましたね」
「チェックリストを見直したら間違いに気がつきました」
「次は調整前にチェックきちんとやれば大丈夫ですよ」
という教授こそ、服のボタンの間違いに気がついてください。フランシス先生もモゾモゾと部屋から出てきた。
「…ってシュヴァリエさん?こんな遅くまで…どうしたの」
「先生、スペルキー持ってきました」
「あぁそうか、ありがとね」
そういうフランシス先生に至っては、服の前閉じてなくて胸元が見えそうである。君ら何してたんだと言いたくなる。というより先生さっきまで疲労困憊だったはずなのになんかかなり血色がよくなってませんか?目の下のクマは山に帰ったのか?髪の毛だけはさすがにボサボサであるが。
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「…ロザリィ、そろそろ彼女にも話しといた方がいいと思うんだけど…」
話しといた方がいいって、そんな教授と先生がそういう関係だということ話されてもどうしろというのか。
「そうね…今日はもう遅いから、要点だけ話さないと」
要点って何だというのか。僕たち結婚前提に付き合ってますとか言われても困る。
「…シュヴァリエさん、フランシスくんってどう見えます?」
「どうって、普通の人に見えますけど…」
…学内で行為に及ぶ位ぶっ飛んでる人だとは思わなかったですけどねあなた方。
「…この歳で位階6の高位魔導師が?普通ですか。普通の定義とはなんだろう」
「教授、何がおっしゃりたいのか話が見えないんですが…」
「…私はせ…いえ、エルダー・サッキュバスなの」
「サッキュバス!?」
そんなバカな話があるか!サッキュバスは既に絶滅した、そう書籍には記されていたはずだ。
「まさか…サッキュバスは絶滅したって…」
「シュヴァリエさんはさすがに知らなかったと思います。実際にはサッキュバスは今も普通に存在しますよ。つい最近も彼女以外の存在に出会いました。呼ばれ方は全然違いますが」
この研究室に来てからは驚いてばかりだ。今まで自分は何を知ってきたのか。何を知らされて来たのか。…実質的には何も知らないのだ。
「…高位魔導師に匹敵する魔力をエルダー・サッキュバスは持っています。短期的になら上位魔法生物をも上回る魔法出力が可能です。また、普段も生命活動に魔力を利用しており、身体能力を引き上げています」
「…その代償に、生成魔力以上に魔力を使えてしまうの。魔力枯渇に陥った場合生命活動に支障をきたすことになるわ」
「せ、生命活動に支障ですか…」
「そう。高エネルギー輸液などで命を繋ぐか、もっとダイレクトに魔法生物由来のmitochondriaを取り込む必要があるの。」
魔法生物のmitochondria…それでか、先生がその場に座り込んでたのも血色がよくなったのも!
「ああ!全く誰がこんなバカな設定作ったんです!卑猥な本かゲームですか!!」
珍しく教授が真っ赤になってキレている。フランシス先生は涼しい顔をしている。教授の怒りはわからないでもない。
「シンプルに魔法生物mitochondriaの供給を行う方法が精液ってわけ。精子形成時にmitochondria以外の細胞質を脱落させるのは知ってるわよね。もっと強引に魔法生物mitochondriaを『奪う』ことも可能ではあるけど…」
それはまぁ本で読んだことはありますけど…
「それにしたって、どっちかのうちでヤればいいじゃないですか!」
それ位は言ってもいいだろうと思う。
「…その、魔力枯渇に陥っていたんですよ。彼女は…」
「普段はそんなことにならないようにバランスとってるんだけどね」
緊急時なんでしょうがないってことなのかもしれないですが、知らない人からしたらそうは思えないのではないか。
「…無茶な解析するのやめてくださいね!僕だって心配なんですよ!!」
「『神殿』関連の解析、でも?」
「でもです!」
何故そこで、『神殿』が出てくるのだろうか?
「…わかったわ」
「…もちろん、ペースを守って行う分にはきちんと解析してもらって大丈夫ですよ」
「うん」
「シュヴァリエさんはもう帰宅してください。明日にでももう少し詳しい話をさせてもらいます」
…魔力枯渇の解決ができてないんだろうか?まぁいずれにせよお邪魔ではあるかもしれない。
「私も明日同席させてもらうわ。私達の昔話を、ちょっとね」
教授がバツの悪そうな顔をしている。
「デュラルは悪くないと私は思っている。むしろわたしは『神殿』から解き放たれてよかったわ」
フランシス先生が寂しそうな微笑みを浮かべていた。
「でもね、デュラルは一生後悔し続けるんだと思う」
「…そうですね…だからこそ『聖女』の解放というのが、ぼくの、いやぼくたちの悲願です」
『聖女』の解放?何故そこで聖女が?
「…まだ話が見えないんですが…」
「『聖柱』なんて犠牲が当たり前なんて、そんなの、間違ってます…おっと、それでは今日はこの辺りで」
凄く気になる単語を並べられて、どう反応していいかわからない。
「先生たち、ひとつよろしいですか」
「何かな」
「魔力供給って、実際のところどうやってるんですか?」
これにはさしものフランシス先生も耳まで顔を真っ赤にする。教授は両手で顔を覆っている。
「い、言わせないでくださいよ!」
…答え言ってるようなものじゃないかそれ?
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