講義第十九回「戦場跡だっていうからアンデッドがいるかと思ったら、戦場だった」
正直なところ、魔法使いと言われる人たちの中にはあまり付き合いたくないタイプの人間がいる。フランシス先生や教授なんかは全然いい方だ。仮に多少おかしな部分が存在したとしてもだ。ホンモノは、酷い。
「つまり我々に、その戦場跡を跡形もなく吹き飛ばして欲しい、とそういうわけだ。お安いことだ」
「…誰もそこまでしてくれとはお願いしてないんですよ、ファインブルグ教授」
物秘学科のファインブルグ教授は、当学唯一の第七位階である。曰く「歩く戦略兵器」「大破壊の末裔」ロクなあだ名がない。その教え子たちにも第六位階がゴロゴロいる、ホンモノたちの巣窟である。
「そうか。そうは言ってもそれなりには吹き飛ばして欲しいわけだよな」
「…そうです、あくまでそれなりにです」
教授の胃がキリキリ言っている気がする。変人集団だが、当学の火力としては最強クラスである。ファインブルグ研究室の面々も冒険者をやっている。目的は爆裂系魔法を思う存分ぶっ放すことに他ならない。
半円形のよくわからない球体、何のために存在するのか見当もつかないリングなどが多数存在する。
「みなさんが本気出したら数十キロメートル四方が焦土と化しますよ」
大破壊前の大量破壊兵器に匹敵するとも言われるファインブルグ研究室の魔法である。使えるところなんてそうはない。
「…出せないのか」
「出せません」
フランシス先生ができの悪い学生を見る目と同じ目でファインブルグ教授をみている。そこまで酷い扱いしなくてもいいのではないか。
「…どのくらいまでならいいのか?」
「最大威力の10%までなら…」
「その程度なら第六位階すら必要ないんじゃないのか?」
「…念のためです。魔族が出没するという話もあるんで」
「魔族?」
魔族が出没するとなると教授たちでも危険な可能性は確かにある。それなら、オーバーキル覚悟でファインブルグ教授たちを連れて行くのはよくわかる。
「もし魔族が出たなら、なんとか逃げるまで力を貸してください」
「別に吹き飛ばしてしまっても構わんよ」
「…それは言わない方がいい気がします」
「実際のところ、奴らは本当に不死身なのか?どうも信じられない」
あったことがない人たちは幸いである。…もっとも魔族にしても
「…ぼくの知る限りでは、なかなかに不死身と言えますね。頭を剣で切りとばし倒したはずの魔族が、別のところから再び現れたり…身体の半分が吹き飛んでも再生したり…」
そう。再生能力は非常に高いのだ。頭を飛ばしても再生するというのはなかなかに不死身であるといえる。
「実際自分も最下級魔族となら遭遇しましたが、斬っても突いてもなかなか死なず苦労した覚えがあります」
「よく無事でしたねシュヴァリエさん。さすがというかなんというか…古戦場跡は危険なんで学生を参加させるのはどうかと思ったんですが、シュヴァリエさんなら大丈夫ですよね」
まずい。不要なことを言ってしまったかもしれない。
「無論参加したくないなら大丈夫なんですが、参加してくれるなら
「します」
こうして自分は教授の出す
---
「え!古戦場跡に学生を参加させるの!?」
フランシス先生が教授を責めるようにいう。
「危険なのわかってるでしょ!何かあったら責任取れるの?」
「…参加するのシュヴァリエさんだけですよ」
「あ。それなら大丈夫ね」
しれっというフランシス先生。先生たち…自分のことなんだと思っているのか。
「シュヴァリエさんなら僕らより強いんじゃないですか?」
「そうねー…実戦経験多いし…」
いやいや、強さの定義にもよるとは思います。第一あなた方のような怪物相手は絶対したくない。
「いやでもお二人とまともに戦っても、勝てる方法思いつかないんですが…」
「…デュラルこの子怖い」
「シュヴァリエさんは怒らせないようにしましょう…」
ウォーモンガーの教授と第六位階に危険物扱いされてしまった。冒険者が自分と相手の強さの比較するのは普通だと思うんだが、どうなのだろう。
---
…来てしまった。
その感想しか出ない。
もし時間を戻せる魔法が実在するなら今すぐ行使したい。そして先週の自分を殴りたい。
果たして古戦場跡は、戦場と化した。
「みなさん絶対に巻き込まれないで下さい!線より前には出ちゃダメです!」
教授が魔法で黄色い線を空間に出現させる。爆裂音が止まない。凄まじい速さの詠唱でアンデッド達が吹き飛んでいく。そうかと思えば別のところで起きた巨大な爆発で、無数のアンデッドが天に召される。
「ま、巻き込まれたら死ぬ!」
神殿騎士のウォーリーさんは顔面蒼白である。まるで巨大な爆弾を無数に投げ込んでいるような状況である。爆裂研の
「…わかっちゃいたけど酷ぇもんだな…」
神殿騎士のダービーさんはというと、呆れた表情で惨状を眺めている。
「戦場跡だっていうからアンデッドがいるかと思ったら、戦場だった」
まさにそうですよダービーさん。あなたの言われる通りです。
「でもデュラル、彼ら豪快に爆発させてるのはいいけど、それでアンデッド達は消滅するのかな」
フランシス先生は冷静だな。
「アンデッドは寄生型の魔法生物によって動いていますからね…基本的に寄生生物というやつは、外殻としての死体がむちゃくちゃにされたら…通常、外に出てきます。しかし、この状況で外に出たとします…」
あ、死んだな。アンデッドだけど死んだなそれ。
「するわね、消滅」
「します」
スケルトンなどに至ってはもう骨すら残っていない惨状である。
「アンデッドの作り方はアリに感染する真菌類でも参考にしたんでしょうか。さておき、ゾンビなどの類の寄生型魔法生物は、体内の魔術回路も使っています。もっとも、この惨状では…」
「それにしても教授。ファインブルグ教授達はあれだけの魔力を使って魔力切れはしないんですか?精霊にしても供給できないですよね?」
ファインブルグ教授達の魔力も無尽蔵ではあるまい。急に魔力切れで無数のアンデッドと戦うのは勘弁である。
「…この爆発…魔力以外の物秘学と錬金術の産物でもあるんですよ…魔力は意外に使ってません…つまり…」
豪快な爆裂音が四方から鳴り響く。
「魔力切れはこの戦場跡からアンデッドが消滅する程度では起き得ないと思います…」
むしろ魔力切れて欲しいかもしれない。それくらい騒々しい。
---
「い、い、加減にしろよぉ!!」
不意に空中に一体の人影が現れた。
「魔族…」
「ここの戦場跡の
見た目は結構若い。少年のようにすら見える。
「…下級じゃないですね。中級クラス…?」
「おー、こんなところに人間か?ヤケに豪快に爆発させてんじゃねーか!」
「ふむ。まさか魔族が出てくるとは思わなかったな。どれ。みんな目をつぶって下を向け」
ファインブルグ教授の指示に全員が従う。教授の詠唱。次の瞬間、地上に太陽が出現した。…地上の太陽は数秒輝いて消滅した。
「ファインブルグ教授、まさかと思いますがあれは大破壊前のアレじゃあないですよね…」
オーク教授が下を向きながら、震え声でファインブルグ教授に問いかける。
「安心してくれたまえ。アレじゃあない」
アレってなんなんだ。教授が震え声になる代物だと考えるとロクなものではなさそうだ。
「アレならみんな跡形もなく消滅してるからな」
いい加減にしろ
「き、さ、ま、らぁ!!」
あちこち焦げ目がこんがり付いているが、魔族は元気そうである。生存確認、よかった♡
「今何考えたそこの女騎士ぃ!!」
「いや別になにも」
うかつに変なこと考えない方が良さそうである。心を読むくらい余裕でやらかしかねない、魔族という存在は。
「どうやら本当に死にたいらしいなぁ!せっかくコツコツ作った
「…テンション高いわね。元気そう」
フランシス先生も酷いな。人のこと言えないけど。
「どいつもこいつもバカにしやがってぇ!もういい!
数百メートルにわたって地面が盛り上がる。まるで大地の津波だ。あんな攻撃受けたら死ぬ。さすがにみんな恐怖を覚えている。これで中級クラス?勝てるのか人類。
そんな中、一人笑っている男がいる。
「さて、久しぶりにアレでも使ってみるかな」
ファインブルグ教授、なんてことを言ってるんですかあなた。
「アレはヤメて下さいぃ!!魔族どころかみんな消滅してしまいます!」
「そうか。なら仕方ない。あいつだけ吹き飛ばしてしまうか」
「そこのニンゲン!貴様だけは、バラして
大地津波の真ん中で
using System sc
using System dt Frame sc
using System dt Frame dt Controls sc
using class CENTRIPEAD_CANNON ...
巨大な火球が収束していく。
「目を閉じて下を向け!」
またか!先程よりは小型の太陽を…爆音!それも連続して!
「そんなもん何度も喰らってや…ってどこにぶつけてるんだよ、バカか?」
ちょっと見上げてみる。大地の津波のど真ん中を太陽が貫通していく!…でも当たらないよな、確かに。ファインブルグ教授、なにしてるんですか…と思った次の瞬間。
魔族の片腕と上半身の半分が吹き飛んで、大きな穴が開いた。ふらふらと魔族が降りてくる。
「な!な!なにが起こったぁ!」
魔族はなにが起きたか全く把握できていないようだ。それは自分も同じだ。いつ吹き飛んだ?
「お前は強さでは私と同等かもしれないが、頭の方は少し足りないのかもな」
「…岩石津波をカモフラージュにしたんですね。やっぱり怖いなぁファインブルグ教授」
しれっとオーク教授、いつの間にか地上に降りた魔族の背後に回り込んで
「お、お、オークだとぉ!」
驚く魔族の、ミスリルショートスピアを抉れた内臓に突き刺した。
「再生などさせませんよ」
「…お、オーク…ごと…き…がぁ!」
魔法を教授に放出しようとする。
「…誰が…オークですか?」
「なん…だ…と?」
「…として…死者を弄ぶ外道を裁くために、ここにきました。オルクスの名を心に刻み…」
教授が離れた瞬間、光の柱が魔族を貫いた。
「…カロンの川を渡って下さい」
ミスリルショートスピアに、奇妙な組織が付いていた。どこかでみたような気もする。
---
「デュラル。せめて何か一言言ってからやってよ。気づかなかったらどうするつもりなの。あとなにあれ」
若干不満そうなフランシス先生。先生でもないが、なんで教授はあんなことを言ったのか。
「…ちょっとカッコつけすぎましたか?でも、まだ知られてはマズいんですよ」
「オルクス…大破壊前の死神の名だな。ミスリードを狙ったのか」
「そうですね」
息をするように意味不明なウソをつくのはどういう理由だというのか。
「でも、魔族は死んだんでしょ?死ぬ相手に教えても無駄じゃないの?」
確かに、普通に考えたら、死んだ相手に情報を教える意味なんてない。
「ええ、相手が死んだとしたら…意味はないんですよ。でも…死んでいないとしたら?」
「死んでいない?」
「そうです。これまでも死んだと思われた魔族が復活した事例は無数にあります。そういう意味では、死ぬ相手に情報を教えるのは無駄ではないのです」
教授、考えすぎなんじゃなかろうか。
「それも嘘の情報?なんで?」
「オークが魔族を殺すなんてありえない、その固定観念を増強させるため、だろ」
「ファインブルグ教授にバレていたら、…バレている可能性はありますね」
なんでそんなに味方まで騙したいんですか。
「だがな、
教授二人の会話が恐ろしすぎる。一体なにと戦っているのか。…あぁ魔族か。
「さて、彼らにとってはどう映るでしょうね。オークが魔族を殺したというより、人間よりの魔族が魔族を殺した可能性の方が高いと思うんですが」
「あくまで一般論だな。相手が一般論で収まっている相手ならそう上手く乗ってくれるだろう」
「内紛でもしてくれればいいんですが、それでなければ静観してほしいですね。…それにしても…これは…」
「デュラル」
「あらかた片付けられたようですし、帰りましょうか」
魔族の死体の一部が、鈍く輝くミスリルショートスピアの先にぶら下がったままだ。
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