第四回
太陽が黄色い。
まだぼくは若いと思うが、太陽が黄色い。一週間で91回か…ぼく死ぬな。いや、まだ死ねない。
「とにかく栄養と休養だな…研究室で、ボロくそ言われてるけど仕方ない」
この一週間、まともに実験できてない。リンネル教授も文句を言いたげだが、特に文句はいわれない。それが地味に苦痛である。
「た、ただいま…」
「おかえりー…ムリしてないデュラル?」
「ムリし過ぎたよ」
ロザリィはというと、10日前の状態が嘘のように元気になっている。ぼくから色々と91回程エナジードレインした結果である。無論あのままだと死ぬか暴走して最悪死人が出ていたかもしれない。ぼく一人の犠牲で済むなら安いものだ。…犠牲とはなんだろう。魔力のフルチャージはできているようだ。91回か…よく生きてたなぼく。
「しばらく休も、ね」
「明日は一日中寝てて、いいかい」
「寝てていいよ」
「魔力はもう十分だよね」
「う、うん…」
夕飯もソコソコに風呂に入ってすぐ寝た。10日前みたいに後ろにロザリィ(金髪巨乳美少女)がくっついて寝てるけど、もう勃ちさえしない。
ぼくの記憶が確かなら、個体差はあるが人間でも1日で最大40回程度は可能なようだ。人間より精力だけはうえのオークが高々週91回程度で死ぬことはないはず…だ。トラが羨ましい。トラは1日100回は行けるようだ。但し繁殖期に限るはずだ。
---
翌日休みの日だから、昼まで寝ていようと思っていた。気がついたら午後三時である。
「うわ…荒んでるなぁ…」
「デュラル、起きた?」
見るとロザリィが部屋の掃除、洗濯までしてくれている。嫁か?魔力と引き換えか?よく考えたら金払ってすることをダブルでしてもらってるだろ、死ねぼく。
「なんか…色々なごめん」
「謝られること、何にもないよ」
にっこり微笑んでそう言ってくれるが、ロザリィは知らないんだ。自分がやってることを有償でやったらいくらになるか。多分一週間でぼく破産…は!ぼくは恐ろしいことに気がついてしまった。
---
「家族会議をしよう」
「家族会議」
素直に応じてくれるロザリィ。まぁ、家族じゃないけどね。
「まず、ぼくは学生です」
「知ってる」
「
「うん」
ぼくたちは多分、先週とベクトルは異なるが、同レベルに危機にあると思っている。それを共有したい。
「自分で言うのもなんだけど真面目なタイプだから、貯金はあった」
「貯金」
「さらに龍退治の報奨金もあった」
「報奨金」
「…君がきて10日でそれが半分になってる」
「…半分!?」
ロザリィも危機に気がついたようだ。
「無論服とかの初期費用も多いから、ここからあんまり急激に減るわけではないけど…」
「…まずいね」
先週までの非現実的とも思える危機の次は、わりとしゃれになってない現実的な危機だときている。
「あと根本的な問題として、同棲アウトなんだ…」
「同棲?」
「今ぼくらがしてるやつだよ!」
「えー」
実は
「そうなる前に現実的な回答が必要だよね」
「うん」
「問題その一、お金がないこと。…貧乏学生カップルかよ!」
「わたし学生じゃないけど」
「そうだけどね。問題その二、住む家をどうにかすること」
「まだ問題はあるわ。問題その三」
他にあるか問題?あたまが回らないのは(主に性的な意味で)荒んでる生活してたからか?
「そもそもわたしって…
そうだよ!なにやってんだよぼくも!よく気がついてくれたなロザリィ!もっと早く気がついて欲しかったよ!!…ぼくも気がついてなかったよ!あとこの10日ですっかり世俗に染まったね。
「わたし…働こうと思う」
「えぇ?!」
「だって今わたしたちの危機って、ほとんどわたしのせいじゃない。今度はデュラルをわたしが助けないと」
なんか泣けてきた。ロザリィが気丈で。ぼくは彼女を助けようとしたつもりが、かえって助けられるとは。自分が情けない。
「それはいいけど、何をして働くの?」
「家事くらいはできるわ」
確かに。料理も美味しかったし、部屋もきれいになってる。
「明日から、仕事探す!」
「まぁ今日は新月で休みだし…」
夕飯には明日から頑張るために、精力のつくものをと色々と二人で食べた。でも節約しようとそのあと二人で風呂に入ったのは失敗だったな色々。
---
「ヘリオスくん、進捗どうなってる」
「今週から頑張ります」
「普段真面目な君が、ここ一週間むちゃくちゃだったからなぁ」
「…危機は脱したんですが、別の危機が…」
「なんだろう、ファンタジー世界の話は平和的な解決ができたが、現実世界で新たな危機がってそんな感じか」
「はい…」
「まぁでも君は大したもんだよ。あの学部長ですら無人神殿なかったら死んでた状況をどうにかしたんだよね」
「え?ま、まぁ…」
ちょっと待ってください教授、いま妙なこと言いませんでしたか?
「一体どうやってそれほどの魔力を供給したんだ?」
「いや、単に…することしただけで…」
「それで済むはずがなかろう!」
リンネル教授に妙なところで怒られている。
「まさか複数人で無理に…」
「いや、ぼくだけで」
「きみだけ?死ぬぞ!下手したら!」
「ちょっと太陽が黄色くなりましたね」
「ヘリオスくん…それで済むはずがないんだ普通。彼女の魔力を一人の人間がその方法で賄おうとするなら…腹上死確定だぞ」
「えぇ?」
「君は…どういう存在なんだ?いや、そもそも魔法が使えるオークの時点で異常な存在だったか」
何てことだ、知らなかった…普通の人間ならとっくに死んでいたのか…。無知とは恐ろしいものだ。
「そうか…本来魔力はない代わり膨大な精を持つオークと魔力を持つ人間のハイブリッド化…きみたちの定向進化…だからか…」
「いや、魔法が使えるだけのただの…」
「ただのオークは魔法も使えなければ知的好奇心もないんだよ…君は見た目以外は人間に近い…いやその魔力生成速度は人間を超えている…」
まさかと思うが、彼女がぼくのところに来たのは、ぼくなら彼女に魔力を供給しきれるからだと、本能的に気づいていたからなのか?可能性は否定できない。
「君は、世界をも変えうる存在ですらあるのかもしれないな。君の彼女も。彼女はどうしている」
「仕事探すって言ってました」
「仕事」
「はい」
「…なんか、普通にいい子だね」
「はい」
ぼくらは異常な存在なのかも知らないけど、現実問題としてぼくらが今抱えてる問題は、結構ぼくらにはキツイが、普通の問題である。そういう意味では、ぼくらは普通の存在だ。
その日は前日無茶はしなかったので実験は順調に進んで、何とか遅れは取り返せそうである。
---
夜。帰るとロザリィが夕飯を作ってくれていた。
なんとなくだが、食材が貧しくなっている気がするのはきっと気のせいだな。
「ただいまー、仕事は見つかった?」
「デュラル、大変なことに気がついた」
「なんだい」
「身元怪しいから仕事探すの厳しい」
なんだよそれは、このままいくとぼくら詰むぞ。でも確かに身元が怪しいとできる仕事減るなぁ。どうしたらいい…待て。わざわざ普通の仕事探す必要ってあるのか?
「ロザリィ…今週末だけど、やりたい仕事がある。一緒にやってくれないかい?」
「いいけど…何をするのデュラル」
「
---
冒険者ギルドにやって来た。
ここなら
「さてと、お金になるヤツだけじゃなくて研究対象になるヤツを狩りたいところだね」
「研究対象って何を狩るの?」
ギルドの初心者講習を受け終わったロザリィが戻って来た。初心者用のローブと杖しか用意できてない。ぼくはというとレザーアーマーを鉄板で補強してる鎧にアイアンスピアだ。本当なら新作のアイアンハルバードが…
「…うーん、この前は龍の組織を入手できて、それとワイバーンくんを比較してるんだけどね…もっと他の生物と
掲示板を見てみるがめぼしいお金になりそうな駆除対象の
「…大変だ!女子校のプールにローパーを放ったバカがいやがる!」
「ローパー!!」
ローパーは地味に嫌がられるモンスターだ。特に女性にとっては天敵だ。いやらしい本のように何かを産み付けたりはしないが、触手でうねうねするだけで十分嫌がられるのは仕方ないだろう。何考えてんだそのバカ!夏でもないのに!飼ってたのか?…まてよ?
「よし、ローパー倒そう。研究ネタになりそう」
「わたしもいくよ」
「ロザリィはやめといた方がいいと思うなぁ」
「最悪うねうねされるだけでしょ?」
「もうちょっと恥じらいとか一般常識をだね」
「それに…魔力なら全快してるわ。わたしの力を一度試してみたい」
「わかった」
かくしてぼくたちは、女子校のプールのローパー狩りをすることになった。
---
一撃だったな。ローパーくんはロザリィをうねうねする見せ場もなく、あえなくこの世からご退場となった。ぼくをうねうねするのは嫌だったらしい。確かに誰も得はしない。
ローパーの体内の水分が沸騰して茹でローパーが出来上がった。微妙に旨そうな匂いがする。これ食べれるかな。あ、実験材料…遠くから女子学生たちが何か話してるのが聞こえる。うねうねとはなんだったのか。
「ロザリィ、次はもっと弱い魔法お願い」
「これ以下だと多分一撃では殺せないわ」
「いや一撃でなくていいから」
「えーでも」
「実験材料が手に入らないんだよ!」
割と死活問題である。論文が書けなければ魔導技術士になれない。
「わかった。あ!そうだ、いいこと思い付いた!」
何を思い付いたんだよロザリィ。
…果たして二匹目のローパーは自分の触手で触手責めされていた。水属性魔法による操作か…その発想はなかった。あまり自分の触手で触手責めされるローパーは見たことがない。全世界のローパーに触手責めされた女性の皆様、仇はとったぞ。
「…うわぁ…哀れな…」
「これなら実験材料採取できるでしょ?」
「誰が得するんだろこの光景」
「…」
ロザリィに無言で脛を蹴られた。すまない、いってみただけだ。三匹目は脛を蹴られた分の腹いせにぼくがスピアの石搗きで事切れるまでどつきまわした。すまないローパー。
---
「金貨5枚…すごい…」
学生の
「ローパー一匹金貨2枚だけど、組織の分ちょっと減ってる」
「仕方ないか。でもこれだけあったら」
「一週間…」
「え?」
「二人ぶんの生活費と考えたらそんなもんだよ」
ロザリィは多分頭はいいと思うんだが、いかんせん宝箱入り娘だったこともありまだ一般常識に欠けている。
「二人ぶんだと欲言えば月に金貨20枚は欲しいところだよ」
「そんなに!?もっと節約しないと!」
「節約は限界があるよ。収入増やさないと」
「でもどうしよう…」
「はっきり言って今日のローパーとか、滅多にあることじゃないよ。普通だと1匹銀貨5枚がせいぜい」
「キツイなぁ」
ぼくらの普通の危機は、まだまだ終わってはいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます