講義第八回「魔力があるかないかの組み合わせだけで魔法を実現する方法、ってところかな」


 今日は初の野外実習である。久しぶりにブリガンダインを装備し、ショートスピアと盾を背中に背負う。騎士時代を少し思い出す。おっと、急がないと。目的の森まで魔導列車と乗り合い魔導車を乗り継いでやってきた。新緑が眩しい。停留所で乗り合い魔導車を降りると、教授たちを見つけた。森の入り口の看板前に二人の武装した兵士、いや、騎士がいる。


「お久しぶりです!教授!」


 若い騎士がにこやかな笑顔で教授を迎える。


「お元気そうで何よりです。他の皆さんは知ってると思いますが。紹介します。レイチェル・シュヴァリエさんです」

「よ、よろしくお願いします」

「レイチェル・シュヴァリエ…あの西部戦線の『女騎士』さんですか!?オーガキングを屠った?お会いできて光栄です!」


 なんかどこに行っても無駄に知名度が高いな。死にかけのオーガキング仕留めたのはそこまで大きいのか。…最もアレ放置してたら10人単位で死傷者が出てた可能性は否定しない。


「いえ、そんな大したことは」

「いやいや大したもんですよ」

「そんなことよりお前の自己紹介もしろよ、自己紹介」

「はい!自分はアルファード・R・ウォーリーです!」

「そして俺はチャーリー・ダービー。よろしく」


 若い騎士と年嵩のヒゲ騎士の自己紹介が済むと、私たちは森の中の道を進み始めた。教授が何やら詠唱をしている。やがて道が二つに分かれた所にきた。どっちに進むのか見当もつかないのだが、


「こちらです。皆さん迷わないでくださいね」


 教授が左側の道を進み始めた。


「教授、なんで分かるんですか?」

「さっき詠唱してましたよね。あれは森の精霊と交信してたんですよ」


 なるほど。言うならばマッピングマジックか。それにしても疑問もわく。


「森の精霊にどんな感じで交信してるんですか?」

「森の精霊ですが、かなり古いプロトコル使ってますね。多分、大破壊直後の文法です」

「古いプロトコル…?」


 プロトコル…?魔法とは違うのか?


「今の魔法で使っている処理とはある意味では異なるわ。根源言語、と言われているわね」

「根源言語?」

「魔力があるかないかの組み合わせだけで魔法を実現する方法、ってところかな。使うの大変よ」

「フランシス先生は使えるんですか?」

「一応ね。根源言語を使えば理論上は全属性の魔法を使用可能ではあるの」

「全属性!?」


 適性を無視して魔法が使える…また常識的とは言い難いことを言い出すなぁ…


「もっとも人間の頭のほうがついていかないわよ。一部の人は使いこなしてるけど…」

「ぼくの母もそうですが…森の精霊もですね。息をするように根源言語を制御してます」


 森の精霊というのは想像以上に人間を超越した存在のようだ。


「対話用の言語を翻訳できるようになって、『交渉』が楽になったもんで…おっと、皆さん、来ましたよ…」


 目の前には灰色の、3メートルはあろうかというサイズの不定形生物が存在している。


「グレイウーズですか」

「やれやれだな。オレらの実体攻撃は効きにくいぞ」

「だったら」


 そういうことなら仕方ない。第3位階程度で十分ではあろうけど…詠唱を開始する。


 EXEC DIM OBJF AS FRAME

 DIM OBJW AS WIND

 DIM OBJN AS NUM

 WHILE OBJN eqr ZERO then ...


 火球を風圧で絞り込み、不定形生物の中にねじり込む。…グレイウーズのコアを爆散させる。構成魔力が天に昇り…『神殿』に回収されていく…そう、害獣魔法生物を駆除した場合、魔法生物の魔力の支配は近くの『神殿』に移るのだ。


「さすが女騎士」

「当たり前のように魔法使うんだな…」


 騎士二人組は若干尊敬の目で見ている。


「あらら、私の出番ないわね」


 チェイン先輩が残念そうにこちらを見ている。


「むしろチェインくんにやらせたほうがよかったかも…」


 とは教授。


「あ、そうですね…」


 よくよく考えたら冒険者カードのクラス上げが必要なのは先輩達だった。ついやってしまったな。


---


 数匹の害獣(中には魔法生物もいたが)の駆除を行いつつ森の奥の精霊を目指す。


「ところでシュヴァリエさん、森の精霊ってどんなのを想像する?」


 イタズラでもするかのようなロワイエ先輩の表情からすると、人型ってことはないだろう。いや存外逆に人型か?


「うーん…想像もつかないですが…」

「まぁ見れば分かるけどね」

「…見て漏らした人が何か言ってる…」

「ちょっと!そんないうほどじゃないです!」


 フランシス先生、いまちょっとなんか問題発言しませんでした?…何やら遠くの方に光の柱が見える。


「あれ?こんな所に塔が見えますけど、あの中に森の精霊が?」

「塔…うーんまぁ塔と言えなくも、ないか」

「もう少し近づけは分かります」


 教授が静かに、だけど力強く言った。私たちはその塔に近づいていった…なんてことだろう。

 塔に見えたのは巨大な、途方もなく巨大な、緑を中心とした七色の光を放ち様々に変化する存在だったのだ。


「森の精霊に到着です。さて、今年の交渉をしないと…」


 というと教授はまた詠唱を始めた。森の精霊の一部が変形する。教授は持っていた記憶結晶を変形した森の精霊の穴に挿入する。精霊の一部に人が映し出される。…学長?


「学長ももう歳だから、とかで交渉を学内の教授にやらせてるんですよね。納得してもらえればいいんですが…って、条件ダメですかこれ」

「困ったわね。…ちょっと連絡するわ」

「お願いします」


 フランシス先生が交渉の間に立って連絡している。教授と学長でしばしやりとりがあり、やがて…もう一つ記憶結晶を取り出した。


「森の精霊も生物だという話はしましたっけ?ですんで、住む所の交渉をしてたんですよ」

「ここじゃだめなんですか?」

「いえ、この精霊ではなく、この精霊の子供達です。まさか双子だとは…いい場所を把握できててよかったですけどね」

「代わりに魔力収支は十分になりそうね。子供達からも魔力貰えそうだし」

「それにしても、場所ってどこに…」

「…この近くに古戦場跡が何箇所かあってね、そこのアンデッドを排除した後森の精霊の子供達に移り住んでもらうことになるわ」

「大仕事になりそうですね。ファインベルク教授のメンバー位必要かもしれません」

「…あそこの人達はちょっとキツいなぁ…」


神殿騎士のウォーリーさんが凄くイヤそうな表情で周囲に同意を求める。そんなにイヤなのか。ファインベルク教授の研究室は物秘学と錬金術の成果から「爆発」を起こす研究室をしている。…意味が理解できない。


「爆裂研の人達なら確かにアンデッドもひとたまりも無いかもね」

「あんまり来てほしく無いなぁ…」


…ウォーリーさん…どんだけ嫌われているのか爆裂研究室。爆発に巻き込まれでもしたのなら良くわかる。


「ならお前だけで古戦場跡のアンデッド始末するか?」

「やっぱりいいです」


 ダービーさんもイヤそうな顔をしている。おいおい、ファインベルク研はどれだけ嫌われてるんだ。


「彼らの『爆裂魔法』ならカケラも残らないわね…それでいいのか…」

「そこは抑え目にして貰えば…それで浄化した後には森の精霊が我々に魔力供給をしてくれると。助かりますね」


 ホウライの魔力供給が森から行われてるとはこういう形だったとは。しかし精霊と対話するというけど、対話というより『操作』とでもいうべき感じがする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る