生物学科第3研究室の運営費は無くなりました

第1話

 どうして…こんなことに…なったのだろうか…。私は人類のために、全てを費やしてきてここまできたのだ。人類の存続、そして、進化のために。


 人類は日々脆弱な存在になってきている。天空を駆け回る神ならば六本の脚のレイヨウも狩れるだろう。だが、脆弱な人類には4本の脚のレイヨウすら狩れるかどうか。


「…それで…人類の定向進化の研究と言う名の研究の材料、それと言うのはあなたとあなたの家族だと」

「そうだが」

「…許可取ってますか」

「人類の存続のためには些細なことだ」

「つまり取っていないと」


 深くため息をつく目の前の女性、どう見ても二十代だが実質八十の老女である。


「…それに研究費を出すと言うのは倫理規程に幾つ違反していると思います?」

「倫理規程と人類の存続、どちらが大事だと?」

「教授はそれで存続できた人類が、人類だっておっしゃるのね?面白いことを言われるわね」


 …ぞっとした。発言内容ではなく、目の前の若作りの老婆が発する魔力にだ。上位魔族に匹敵する。第七位階は爆発魔ボンバーマンだけだったんじゃないのか?


「…怒ってます?」

「ええ、とっても」


 笑顔で言われるとさすがに堪える。

 上位魔族だろうと負ける気はしないが、直属の上司には勝てぬ。


「すいませんでした」

「…さて、どうしたものかしら」


 生物学科第三研究室、ロルフ・フィッツ研の今年度の運営費は、こうして無くなることとなった。


 ---


「何やってんですか!あんたはアホか!」

「自分の上司にアホとはなんだアホとは」

「アホにアホと言って何が悪い」


 ここまでボロクソに言われると結構キツイものがあるが、実際研究費が無くなってしまったのは私の落ち度ではあるのであまり強くは言えない。


「実際これじゃ研究室だって運営できないでしょ!」

「…確かに」

「どーすんですかこの惨状を!」


 スフィア君、そう怒鳴らなくてもいいのではないか?


「そうだな…手がないことはない…」


 そう。金というものは天下のまわりものである。昔私が払った金が、いまでは立派に魔法生物学科第五研究室を作っていると言ってもいい。


「手がないことはないって…教授まさか」

「まぁ見ているといい」


 ---


「それで、僕のところに来たと」


 目の前のイノシシ?ブタ?顔の男は豚足、じゃなかった嘆息しているが、他に思いつかなかったから仕方ないだろう。


「そうだが」

「そうだが、じゃないです!」

「あんまり怒るとせっかくの顔が台無しだぞ」

「こ、の、オトコはぁ…」


 なかなかの魔力の高まりだが、先程の上級魔族に匹敵する魔力を前にした後では涼風だよフランシス君。


「ふむ、まぁ此方としても君にキリキリ働いてもらえるなら悪い話ではないな」

「それはありがたい」

「リンネル教授!」

「実際、フランシス君だけでは手に負えないデータあるよね」

「くっ…こんなデータに…」


 崩れ落ちるフランシス君を横目に、ヘリオス副教授、表情を変えずに


「でしたら教授の稼働時間の半分はいただきたいですね」


 とんでもない提案をして来た。


「な!」

「実質第五研究室の研究費でそちらの研究室の運営やるようなものです。それくらいの覚悟はおありでしょう」


 …ヘリオスくん、すっかり毒されてるね色々と。その原因の一因は自分な気もしているが多分気のせいだ。


「とはいえ君のせいだぞヘリオスくん、まさかそんなことになるとは私も思わなかったぞ」

「そうですけど、いまなら出来るんです。ならばやるしかないと思います」

「それを、私に振るのはやめてよ!」

「…フィッツ教授をこき使うことにすれば、そんなことは無くなるさ」

「そう?なら頑張るねデュラル」


 おいこらそこ、他人の目のまえで色目使うんじゃない。


「ということでよろしいでしょうか」

「…ちょっと待ってみようか?なんでそんなに大量のデータが降って湧いて出た?」

「おや、知らなかったのか?最近、生物間の遺伝子比較が行えるようになって来たのは知ってるな」


 それはもちろん常識だが、それがなんだというのかリンネル教授。


「ヘリオスくんが『天空の棺』に魔法生物の遺伝子の情報を投入したところ、似ても似つかぬ生物の結果が返って来た」

「他に魔法生物を片っ端から調べているんです。元々は魔法生物同士比較してたんですが、生物同士より遺伝子の差異が大きすぎます」

「…もう…いい加減にしてよ…」

「ロザリィにはかなり苦労かけてます。しかしもっと効率的なやり方、フィッツ教授ならおそらく色々あると思うんですよ」


こめかみに何かがこみ上げて来た。


「…あ、の、な、あ!!」


 三人がビクっとなる位大声を出してしまったが当たり前だ!そんな行き当たりバッタリの研究でよく成果出せたなヘリオス副教授!計画時点で相談しないと、群集数秘学的にはその実験系は死んでるのと同様だ!


 その後数時間、三人に説教したのだが、気がついたら仕事量が増えていた。私はアホのやうだ。

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