第5話
軍との共同研究で何をするか、私としては当然のように自分の研究の延長で行いたいと思うのだが、中々そうもいかないだろう。一方、リンネル教授が提案した共同研究案は軍も興味を持ちそうな内容である。魔族というのがどういう存在なのかの真相解明。こちらについては自分としても知りたいところである。
「ダミー提案で私の研究について出してはいけないだろうか」
教授会で軍との共同研究案について、私は先手を打つことにした。若干みなどよめく。
「あの、ちょっとよろしいでしょうか」
「なんだねヘリオス副教授」
「ダミー提案だとしても、教授の研究というのは興味があります。どのような研究ですか」
「よかろう。簡単に説明させていただこう」
私が行っているのは、特定の遺伝子が継承されやすくするために、精子の中で遺伝子が発現しているものが選別されやすくなるようにコントロールする方法である。目的の遺伝子を含まない精子を様々な方法で減速させることで、特定遺伝子を含む精子が卵子に到達するようにする。魔法により進行具合の確認も行うことができる。
精子の速度を遅くするために魔法生物mitochondriaと特定のタンパク質を用いて、速度を遅くする。その一方で、特定の塩基配列を含む場合に魔法生物mitochondriaを乖離させる仕組みも開発した。これらの一連の流れで狙った遺伝子を含む精子の受精確率が大幅に向上させることができた。
また、魔族由来のタンパク質による精原細胞、精子の選別も試みた。このタンパク質がある場合通常の精原細胞や精子は死滅するが、特定の遺伝子が継承されている精子は死滅せず活動することもわかった。これで勇者因子の選別も試みている。
「…それ、人間でやったんですか!?」
「やったが、何か」
ヘリオス副教授が頭を抱えている。他の教授の何人かがドン引きしている。そこまでのことではないだろうに。
「でも普通に有用性は高そうですね、人間でないなら。農学部とか大喜びなんじゃないでしょうか」
「そうですね」
発生系の研究室の面々には理解してもらえている。有用性については結構あるはずである。
「しかし人間ともなると有用性の高い因子の継承が困難でな。勇者因子の継承はほぼ成功しているのだが、それ以外に何を継承するかを色々と検証してみたのだが、どうにもうまくいっていない」
「継承、成功してるんですか」
「うちの子どもたちは全員勇者因子継承できた」
「それって12人も勇者が増えたってことか!」
お前が勇者だったらもっと効率的に勇者増やせたかもなヴォルフガング。もっともさすがにそれをやったら終わる、主に私の人生が。
「…でも、勇者をそんなに増やすこと自体ホウライの戦力の増強を疑われませんか?」
その発想はなかったぞヘリオス副教授。
「まだ子どもなんだし問題ないだろう」
「大問題ではないですか!?魔族としては天敵をそれだけ増やされたってことですよ!相互確証破壊の原則から外れます」
勇者を対魔族兵器と考えるとそういう発想にもなるか。
「勇者の戦力は対魔族以外だと、そこまで問題にならないと思うのだが」
「ジャックくん、今で第五位階ですよ。多分第六位階にまでは行けますよ彼」
「そうだろう有能だからなジャックは」
「他の息子さん娘さんも第五位階は確実ですよ」
「まぁジャックほどではないにしろ勇者因子も継承できてるしな」
「…普通にフィッツ教授の家だけで、最終的には千人分の戦力じゃないですか!」
その発想もなかった。やはり対話というものは重要である。自分の視点以外を手に入れられる。
「…フィッツ教授のせいなのではないか?将都に反乱を疑われたのは」
リンネル教授、それはさすがに言い過ぎなんじゃないのか。
「むしろ軍が警戒しているのはヘリオス副教授の方だと言っていたぞ、軍の使者は」
「…ぼくなんか警戒しても、と言いたいところなんですが…」
「そりゃ我々は君のことをよく知ってるから、警戒の必要なんぞカケラもないと思っているよ。でも、将都の人間からしたら魔族の側のはずのオークが教職などあり得ないのかもね」
「だとすると、逆にぼくらも積極的に軍に協力する必要性があるってことですよね」
「そういうことだね」
協力する方向ってのはそれはそれでありがたいが、リンネル教授案が通ると私の案はスルーされてしまうことになる。それもそれで困る。
「やはりメインのプランの魔族の正体暴きだけで行くことにしようよ」
「むぅ…」
「フィッツ教授、不満か」
「不満がないとは言わないな」
実際、ここでカネを引き出せなければ私はリンネル研の家畜である。取り戻さねばならない、矜持を。
「かといって、生殖細胞系列の遺伝子操作を人間に行うのはリスクが大きすぎませんか」
「遺伝子操作は行っていないぞ、選別しただけだし」
「それはそうなのですが」
「不満そうだな」
「…実際、そういう非人道的な遺伝子の操作の結果生まれたのがぼくですからね…」
ヘリオス副教授…気にしすぎだと思うが、そういう心の傷はは本人がちょっとずつ癒して行くしかないだろう。
「まぁそこを突き詰めると、我々全員が非人道的な遺伝子操作とやらの産物の可能性もあるんだけどね」
「リンネル教授」
「あくまで可能性だけどね」
そういうことでいうと、魔族自体も作り出された存在だということになるのか?いずれにしろ何とか食い込めないものか。
「話は変わるが魔族の正体を暴くにしろ、どういうアプローチでやって行くつもりだ?」
「んー…君に任せるよ」
「え?」
「ヘリオスくんやギーテン副教授をうまいこと使ってやれば何とか見つけられるんじゃないかな」
リンネル教授ぅ!カネにあんまりならないわ仕事はハードだわってろくなことがないじゃないかそれは!責任も無駄に重いし!
運営費は少しは獲得できそうだが仕事量考えると割に合いそうにない。私の仕事、増えすぎではないだろうか。
魔学部魔法生物学科のオーク教授 とくがわ @psymaris
ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?
ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔学部魔法生物学科のオーク教授 の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます