15-2 新たなる出航(最終話)
―― 数ヶ月後 ――
「艦長! 荷物の積み込み完了しました」
制服に身を包んだ海兵が報告した。
「宜しい! 出航準備は完了だな、副長」
艦長席がくるりと回ると、そこには真新しい士官制服を着たラヴェリテが座っていた。
「はい、艦長!」
コーレッジがそう言って敬礼する。
「しかし、船強奪のお尋ね者から外交特務艦へ昇格とは、驚きだぜ……いえ、驚きですね」
「一時は海賊になるしかないかと思っていたんですけどね」
隣に並ぶジョルドゥがそう言った。彼も真新しい制服に身を包んでいる。
「あ、ラヴェリテ艦長。今日はお祝いにチョコレートケーキを作っておきますから」
「えっ? ほんとう! い、いや……ご苦労。では、後で皆で頂こうか」
艦長席の横でケイシー・ルー大尉が上機嫌で立っていた。
「ラヴェリテ。大したものだわ。短い間にMC-97R型巡洋艦の大体を把握するなんてね」
「ケイシーがいろいろ教えてくれたからだ。私ひとりではとてもエイクスの言う言葉などわからなかったし」
「これで私も寂しくない」
「やっぱり、ケイシーも寂しかったのか?」
「八百年も独りだと……ね」
ラヴェリテは、周囲の様子を見た後、ケイシーを手招きした。顔を近づけるケイシー。
「ケイシーも私の副長だからな。それでもって友だちだ」
「ば、ばか言ってるんじゃなわよ」
ケイシーは、顔を赤くして目をそらす。
「私はずっとそう思ってたんだからね」
「ケイシー・ルー副長、こういった時はどうすればいい?」
「そうね、士気向上の為に、ここは乗組員たちに一言ってとこかしら」
「ああ、それなら考えてある」
ラヴェリテは、ゴホンと咳払いするとマイクをつかむ。
「あーあー、私は、ヴォークラン号艦長のラヴェリテ・ローヤルティである」
そう言うと用意していたメモを取り出すとマイクに向かって喋り始めた。
「えーと、じゃない……本艦は、これより、外交任務を行う皇女を乗せ東方の各国へ向け出航する。全員、海軍の精神と名誉を忘れずに職務に忠実な行動を望む! 以上だ」
ラヴェリテは、言い終えた後、ホッと一息ついた。
「すごいわね」
ケイシー・ルーが感心する。
「昨日、スウィヴィ少佐に書いてもらったんだ」
「あら……そう」
ケイシーが苦笑いした。
「では、エイクス航海長。出航する」
ラヴェリテがエイクスに指示を出した。
「アイアイサー」
室内に声だけが響く。
MC-97R型巡洋艦は、ゆっくりと岸から離れていった。
ヴォークランの乗組員となることになった時、エディス皇子から外航船として各国を回ったらどうかという提案があった。もちろん大使は、専門の別の者がやる事にあなるが、ラヴェリテは喜んでそれを受け入れた。
せっかくヴォークランの乗組員になったのに航海に出れないのでは意味も半減する。そもそも航海とは目的地があるものだ。目的地のない航海は迷っているのと同じである。エディス皇子はその目的を与えてくれた。
最もエディス皇子にはヴォークランの姿を見せる事によって優位性を示すという外交上の計算も多少あったようではあるが……
海に出ようとするヴォークランが修理の済んだミラン号の横を通り過ぎる。
ミラン号は、取り壊しが中止となり、貿易船として新たな航海に出ようとしていた。修理の際に外装の多くを作り直し、老朽船とはいえないほど見違えた姿になった。
船の先端から少女が白い髪をなびかせてヴォークランに向かって手を振っている。
「どうしました? 艦長」
コーレッジが尋ねた。
「ん? ミラン号……我々の船に別れをしたんだよ」
ヴォークランが、湾を出ると真っ青な水平線が広がっていた。
「思い出さないですか? 艦長。ミラン号で乗り出した時にも似たような光景でしたよね」
「でも、コーレッジ副長。似ているようで全然違うぞ」
「何がです?」
「あの時は、仇討ちの為の出航だった。実は、あの時の気持はあんまり楽しくなかった」
コーレッジは黙ってラヴェリテの言葉を聞いていた。
あの時は、自分も乗っていた船や仲間たちの復讐を思い、ラヴェリテを利用して仇討ちの手段を得ようとしていたのだ。今、考えると自分が恥ずかしくなる。
「なあ、コーレッジ副長」
「なんでしょう? ラヴェリテ艦長」
「父上は、見ていてくれるかな……」
ラヴェリテは、水平線を見ながらそう言った。
「ええ、中佐はきっと見ています」
コーレッジも同じ水平線を見た。
ヴォークランは、湾の外に出ると速度を上げていった。
船首から起きる波が大きくなっていく。
船は、新しい海を目指して大きく舵を切った。
「ラヴェリテと謎の幽霊船」おわり
海賊ラヴェリテと謎の幽霊船 ジップ @zip7894
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