7-3 ロサーノ家での晩餐

 その日の晩は、ミカエラの家で食事会が行われた。

 食事会には、ラヴェリテとコーレッジとジョルドゥ。それとラヴェリテの執事であるアディが半ば無理やり付き添ってきた。

「美味しい!」

 ラヴェリテは、出された貝と鶏肉を合わせて炒めた料理を口にすると思わず言ってしまった。

「ほんとに? 嬉しいわ」

 ミカエラは、ラヴェリテが美味しそうに料理を食べる様子を見て嬉しそうだ。

 料理の味にもうるさい執事のアディ・オベールもミカエラの料理に感心していた。

「ミカエラ様、差し支えなければ後でレシピなど教えて頂きたいのですが」

「ええ、いいですよ。アディさん」

 そう言ってミカエラはニッコリとした。

「ありがとうございます。ですが、どうも落ち着かないですな」

「どうしましたの?」

「いや、お嬢様と一緒にテーブルで食事を頂いているのが何だか落ち着かなくて……」

「アディは、私といるのが嫌なのか?」

「そ、そんな事はありません。ただ、いつも私たち使用人は、主の方々とご一緒には食事をいたしませんのでなんだかこう……」

「なんだ、そんなことか。気にしなくとも良い。食事は大勢の方が楽しいし!」

「はあ」

「では、一緒に楽しく食事をしよ。ねっ?」

 恐縮するアディにラヴェリテはそう言ってアディに笑いかけた。

「お嬢様……うっうっ」

 アディは、ラヴェリテの言葉に感激したのか、ちょっとばかり涙ぐんでいる。 

「しかしミカエラさんは、料理が上手なのだな。きれいなだけではなく美味しい料理も作れるとは。なんという戦闘力だ」

「戦闘力って……」

「私もミカエラさんのようになりたいな」

 ラヴェリテの言葉にミカエラは、少し照れた。

「なら、今度、ラヴェリテにお料理を教えてあげるわよ」

「ほんとか?」

「ええ。それにお化粧のやり方もね」

 そう言って、ミカエラはウインクしてみせた。

「ラヴェリテは、可愛いからきっとお化粧したら、すごい美人になるわよ」

「え?」

「そしたら、ミラン号の乗組員は、みんなラヴェリテに逆らえくなるでしょうね」

「ん? 今も逆らう者などいないぞ? むしろよく働いてくれて感謝しているのだ」

「やだ、ラヴェリテったら」

 ミカエラは、大笑いした。

「おかしなヤツだろ? こいつ」

 コーレッジがワインを飲みながらそう言った。

「いつもこんな調子なんだ」

「こら! 船長に向かって、こいつ呼ばわりは無礼だぞ」

「船長の世話を焼いてるんだよ」

「そ、そうなのか? ならもっと焼いてくれていいぞ」

 いつの間にか食卓はラヴェリテを中心に笑いに包まれていた。


 そして食事も終わり、和やかな歓談が進んだ頃

「あらあら、眠っちゃって」

 ラヴェリテは、いつの間にかテーブルにうつ伏せになり眠りこけていた。

「お嬢様は、船が出航しましてから、落ち着いた食事もしていなかったし、今日のような楽しい食事も久しぶりでした。きっとリラックスして一気に疲れが出たのでしょう。ロサーノ様。今日はお招きいただき本当にありがとうございました」

「お気になさるな、アディさん。友人を食事に招いただけだ。それより、このお嬢さん、本当に幽霊船を退治するつもりでいるのかい?」

「はあ、お嬢様は本気なのですが、わたしはそんな危険なことは止めて欲しいと本心では思っております」

 そう言ってアディは、自分の上着を寝ているラヴェリテにかけた。

「執事さんとしては、そうだろうな」

 ロサーノは、そう言って飲みかけのコップにワインを継ぎ足した。

 ミカエラは、食べ終わった皿やフォークを片付けはじめている。

「あっ、私もお手伝いいたします」

「ありがとうございます。ご親切なのね、アディさん」

 アディは、ミカエラの持っていた皿を受け取ると炊事場へ運んでいった。

「本当に可愛い子ね」

 ミカエラは、ワインを呑み続けるコーレッジに言った。

「そうだろ? だから、な?」

「わかったわ。まかせて」

 ミカエラはうなずいた。

「この子はアンタたちが海から戻ってくるまで私たちが守るわ」

「ロサーノおじさんもお願いします。ラヴェリテは、俺たちの船長だった人の娘さんなんです」

 ロサーノは椅子から立ち上がると寝ているラヴェリテをそっとだき抱えた。

「今夜は客間に寝かそう。明日、空いてる部屋を見繕おうか」

「ありがとう。おじさん」

「気にするな。この家も賑やかになっていいさ。それにローヤリティ船長には、俺も随分世話になった。これくらいの恩返しはしないとな」

 コーレッジはロサーノに頭を下げた。

「それじゃ、おやじさん。俺たちはこれで行きます。ラヴェリテを頼みます」

「おう、任せておけ。お前たちも無事に帰ってこいよ。幽霊船なんぞ、ぶっ潰しちまえ」

 コーレッジは、ロサーノの言葉にニヤリと笑って返す。

「ところで、ジョルドゥのヤツは?」

「キッチンを使わせて欲しいって言って……さっきから何か作ってるみたいだけど」

「キッチンで?」


 コーレッジが、キッチンに様子を見に行くとジョルドゥがオーブンからケーキにチョコレートクリームを盛り付けているところだった。

「何作ってんだ? おまえ」

「いやぁ……ラヴェリテ船長にチョコレートケーキを作ってあげるって約束してあったから」

「だからって今作らなくたって」

「だって今しかないだろ? 明日の朝には俺達……」

「ああ、そうだった」

 コーレッジが頭を掻いた。

「なあ、コーレッジ。幽霊船とやりあって、この前は、俺たちなんとか生き延びたけど、次はどうなのかな」

 ジョルドゥがクリームを盛り付けながらそう言った。

「大丈夫だ。砲弾が炸裂弾ならあの船にも通用するだろうさ。きっとまたここに帰ってくる」

「ああ、コーレッジ。でも俺は今、約束を果たしたかったんだ」

「好きにしろ」

 そう言って、コーレッジは盛りつけ中のチョコレートクリームを指ですくった。

「あーっ! だめだよ、まだ完成してないのに!」

 悲鳴のような声を上げるジョルドゥの目の前でコーレッジは、チョコクリームをうまそうに味わった。

「うん……悪くない味だ」


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