12-2 あたらしい友達
「私がエイクスの仲間になる」
ラヴェリテは自信満々でそう言った。
「いや、何を言ってるの? この子は」
ケイシー・ルー大尉は、眉をひそめてラヴェリテを見つめる。
「仲間が見つかれば問題解決だろ?」
「いや、それは……」
「仲間を探していたのではないのか?」
「はい。そうですが」
「ではよいではないか」
「あなたは中央連邦統合軍に所属しておりません」
「だから、仲間になると……」
「そういうことではありません」
「まったく……頑固なヤツだ」
「頑固とは私の事でしょうか?」
「そうだ。私は、私の船……ミラン号のみんなに会えなくてとても寂しいぞ」
「お気の毒です」
「気の毒なのはお前だ」
「私が?」
「だってそうだろ? 四百年も友達もいないなんて」
「"友達"とは?」
「うーん……いっしょに遊んだり、たまにケンカもしたり……でも仲直りできるんだ」
「争った後、関係修復ができるのですか? なぜでしょう?」
「それは……そうだなぁ……お互いを尊敬し合える間柄だからかなぁ……だから許せるんだろうな」
「お互いを尊敬?」
「と思うんだが……そうだ! 仲間ではなく、私がお前の友達になってやろう」
「友達?」
「ああ、そうだ」
「私を尊敬していますか?」
「してるぞ。なんたって四百年もひとりぼっちで過ごせたんだからな。私だったら耐えきれずに泣いてばかりいるぞ。それに、私達を助けてくれたじゃないか。困っている人を救うのは尊敬できる事なんだぞ。父上も言っていた」
「だから私を尊敬するのですか?」
「そうだ。私にできない事ができるからな」
「その定義ならば、私もキャプテン・ラヴェリテを尊敬できます」
「そうか? なんだ?」
「キャプテン・ラ・ヴェリテはよく笑います」
「ん? そうか? そんなことで尊敬してくれるのか?」
「はい。私は笑う事ができません」
ラヴェリテは小首を傾げた。
「おまえ、笑ったことがないのか?」
「はい」
「笑うのは楽しいぞ。あ、楽しいから笑うのか……あれ? どっちだっけ?」
「ラヴェリテは笑うのがとても上手です」
「そ、そうか?」
「私もキャプテン・ラヴェリテのように笑えたら良いと思います」
「笑えるさ。私が教えてやる」
「あなたが?」
「だって私達は、友達だ。お互い尊敬もしてるしな。友達ならそれくらいどうということはない!」
「……ありがとう。キャプテン・ラヴェリテ」
ヴォークランが少し間を空けてから言った。
そばで人工知能とのやりとりをみていたケイシー・ルーはクスリと笑った。
MC-97R型巡洋艦を管理する人工知能であるエイクスは迷っていた。
これまで蓄積していたデータを照合する。
受けている命令を遂行し続けつるのは難しい状況であることはデータで分かっていた。だが、自分を縛り付ける命令を解除するにはいくつかの制限が儲けられていた。
ラヴェリテの人間特有の不思議な申し出はそれに該当するのか?
エイクスは、過去のあらゆる状況、記録と高速で照合し続けていた。
エイクスが無言になった。
エディス皇子もエイクスの人工知能の説得は無理だと思いはじめていた。
「ラヴェリテ、北方王国へ向かうのには何か別の方法を考えましょう。近くを通りかかった船がいたら……」
皇子があきらめてラヴェリテにそう言った時だった。
「その必要はありません」
エイクスが突然言った。
「ある条件が合えば、私があなた方をお送りします。本艦の速度は早い。あなた方が乗っている帆船よりずっと早く目的地に着く事ができるでしょう」
「そ、それはありがたいです。エイクス殿」
人工知能の申し出にエディス皇子も戸惑う。
「それで、ある条件とは?」
「あなた方は、中央連邦統合軍はありません。ですが、同盟国としてならあなた方に協力できます」
「帝国との同盟?」
「中央連邦統合軍は、私以外に存在していないかもしれない。軍の命令系統は、その時点の最高階級が指揮をすることになっています。そして、この場合、私がその最高階級となります。そしてあなたは、帝国と称する国家勢力の皇子です。あなたが中央連邦との同盟を希望すれば現時点の中央連邦統合軍の最高指揮官である私はそれを最善の形で受け入れることができるでしょう」
「なるほど……そちらがそれで良いのなら帝国は同盟を希望いたします!」
エディス皇子は、エイクスにそう言った。
「ありがとう! エイクス!」
ラヴェリテは姿は見えない人工知能であるエイクスに礼を言った。
「あなた方と協力する方法をいろいろと過去の事例や歴史を検索して出した答えです。少々、強引な理屈ではありますがこれが最善だと思われます」
「いや、そんなことないぞ! そんなことはない。エイクス! さすが私の友達だな!」
「私の所属する中央連邦海軍には伝統的なモットーがあります。それは"決して仲間を見捨てない"。そしてあなたは友達であり仲間です。ラヴェリテ」
「まったく、同盟なんて口実、無理やりよねえ……」
様子を見ていたケイシー・ルー大尉は、そう呟いた。
しかし、文句じみた言葉とは違い、その表情は満足げだった。
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