海賊ラヴェリテと謎の幽霊船

ジップ

第一章 ラングドッグ号の航海

1-1 出港

 その日、港は船でごったがえしていた。

 大きな船から小さな船。

 中でも一際目立っていたのは海軍のラングドッグ号だ。

 海軍で随一の巡洋艦で戦闘と長距離航海用に造られ、初めて海に出てから十三年も経っているが、いまだに海軍の第一線にいる。

 このラングドッグ号を指揮するのはセルメント・ローヤルティ海軍中佐。

 多くの海軍将校、士官に尊敬を受ける有能な艦長だ。

 そしてラヴェリテ・ローヤルティの自慢の父親でもあった。


「お父様、いつ頃、港にお戻りになるのですか?」

 ラヴェリテは、大好きな父親を見上げて尋ねた。

「少し、長くなるかもしれないね」

 セルメント・ローヤルティ中佐が優しい表情で言う。

「あまり遅くなるようでしたら、私が海に出て迎えにいきますからね」

 ラヴェリテの言葉にそばで作業をしていた乗組員たちも思わず笑い出す。

「あははは。そうならないように気をつけよう」

「私は本気ですからね!」

 子供扱いされて怒ったラヴェリテは、頬を膨らませる。

「大事な任務だからそう早くは戻ることはできない。だが、離れていてもお前のことをずっと想っているよ」

 ローヤルティ中佐は、娘に優しい笑顔を見せながらそう言った。

 ラヴェリテは、父が大好きだった。大きくなったら父のような船の船長になりたいとさえ思っていた。自分の船を持って世界の海を航海できたらどんなに素敵だろう。

 海軍で女性の船長がいるというのは聞いたことがなかった。けれどラヴェリテは、そんなことは気にしない。海軍に女の船長がいないのは船長になりたい男の人はいても、船長になりたい女の人がいないからだと思っていた。そして船長になりたいと思う自分は、海軍初の女性船長になるのだとも思っていた。ラヴェリテはそんな少女なのだ。


「そろそろ船は出発する。さあ、行きなさい。ラヴェリテ」 

 ローヤルティ中佐にそう言われてラヴェリテは名残惜しげに船のタラップを降りた。

 途中、振り返って父の方を見たが、ローヤルティ中佐は、乗組員と何かを話していてラヴェリテの方は見ていない。

 ラヴェリテはそれが少し寂しかった。

 甲板によそ見をしながらタラップを降りていたラヴェリテは、誰かにぶつかってしまう。

「ごめんなさい!」

 ラヴェリテは慌てて謝った。

「君の方は大丈夫かい?」

「はい。私は平気です」

「そう。それはよかった。それでは」

 相手は、気分を害する様子もなく微笑むとタラップを登っていった。

 優しい人だなとラヴェリテは思った。

 でも、あの人、どこかで見たことがある……

 そんなことを思いながらラヴェリテは、タラップを降りていった。

 船の方を見るとお父さんがラヴェリテがぶつかった相手と話をしているのが見えた。

 どうやら、父の知り合いらしい。

 だから見覚えがあったのかも……もしかしたら家に来たことがある人なのかもしれない。

 ラヴェリテは会話する二人を見ながら思った。


 タラップが引き上げられ、いよいよラングドッグ号の出発となった。

 タグボートに押されてラングドッグ号は岸から離されていく。やがて湾内の少し広いところまでくるとラングドック号は自力で進みだした。

 ラングドッグ号の船体が次第に遠ざかっていく。

 ラヴェリテは、航海に出発したラングドッグ号をいつまでも、いつまでも見送っていた。

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